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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十八章
133/154

133 説得

だがリアンは言い募った。


「そんなはずはありません」

「あるわ」

「あなたを愛おしいと思う気持ちは本物です。もしなくなったとしても、あなたに出会ったら、同じ気持ちになるでしょう。何度でもなります。それが僕なんです」

「実年齢で、ずっと年老いた老婆になっているかもしれないわよ」

「それでも気持ちは変わりません。あなたに出会えたことが奇跡なんだから」

「言うだけならなんとでも」

「それなら、そうです、試してみるといいんです。僕はこのままここにいます。”かもしれない”ことをこんなに不安がるのはもう嫌です。今の事実だけが大切なのですから。あなたが信じているその気持ちの変化とやらを、実際にやってください。覚悟を決めているんでしょう?」


私は眉をしかめた。随分と自信があるようね、リアンは。


「……わかったわ。後悔すると思うけど」

「しません。あなたが連れて行かれるというのなら、僕は必ず引き戻します。鏡の中に閉じ込められたなら、取り戻します。それができないのなら、迎えに行きます。それすらできなければ、僕も閉じ込められます」

「無茶よ」

「なんでもやるんです。僕はあなたのためならなんでもするんですよ。ですから、僕を部外者にしないでください。今、僕たちが愛し合っているという前提なら、僕にはその権利がある」

「リアン……」

「それとも、僕のことはなんとも思いませんか? ただの同情で、服従で、ごまかしだったのですか? 生涯愛すると誓ってくださったのは、嘘だったのですか?」


そんなはずはない。


「嘘なんて……あなたにつけるわけがないわ……」


どうしよう。どうしたらいいの? 離れたくないわ。リアンのそばにいたい。


その時、悪魔のように、鏡の声が響いた。


”決意は固まったか”


「鏡……」

「鏡? 何かあるのですか?」


聞こえないのね。多分、今は解除を始めた人にしか会話ができないようになってるんだわ。


”どうした。怖いならやめればいい。魔法は残り、みんな幸せになれる”


いいえ。いいえ、違うわ。私が出した答えは、そうじゃない。私は決意を固め、振り返った。


「そんなのわからないじゃない。魔法は好きよ。いろんな可能性を見せてくれるから。でも……過剰に求めた時、代償が大きすぎる。身を以て体験している私だけが、あなたを封印するにふさわしいのよ、鏡。わかるでしょう」


説明もせず、鏡と話し始めた私に、リアンは目を丸くしたが、黙って私を見守ってくれた。本当は問い詰めたいだろうが、私があまりに真剣な顔をしていたからだろう。


鏡の答えを聞きたくない。いつだって優しくはなかった。


”怖くはないのだな”


「怖くないわけではないわ。でも、私はこの人達を守りたい。ここにいてみんなを見守りたい。幸せに暮らすのを見ていたい。できれば私もその中に入れてもらえたらと思うの……もう一度やり直したっていいじゃない?」

「ソフィア! そうですよ!」


リアンが思わずといった風に、叫んで私を抱きしめた。


「あの時出会えたはずの未来が、今ここにあるのです。その相手が僕で本当に良かった」

「いいえ違うわ。私を呼び戻してくれたのが、あなたで良かった」


私はリアンに微笑んだ。


「本当はあなたは知っていたんでしょう。あなたと出会った私が、必ずあなたを好きになるって」

「まさか。知っていたのなら、何も言えずに二年も過ごしませんでしたよ」

「でも、アンソニー様はリアンはニコラスの研究家だから、私の性格だってよく知ってたって。だとしたら、私の好みだって、どうすればいいかだって、よくわかったはずよ? それに、あなたが言ったのよ」

「何をですか?」


そうよ、リアンは文献を読んだのだから知っているはず。リアンは私に教えてくれたじゃない。


「鏡はできないことは叶えられない。死人を生き返らせることはできないように。可能性のないことを叶えることはできない、そう言ったじゃないの。鏡があなたの願いを叶えたのは、つまり、そういうことでしょう?」


私の言葉に、リアンは今、その意味に気づいたかのように目をパチクリとさせた。そして、拗ねたように顔を歪ませた。


「そんなの……わかりませんよ。解釈すると”友として”愛することだって可能でしょう。あなたにはわからないかもしれませんが、憧れの人が急に現れたんですよ? 理想以上に僕好みの最高に素敵なあなたが! 目の前にいたって、あなたはいつだって遠かったんです。本当は、こうして僕の腕の中にいてくれることも、まだ夢みたいなんですから」


いつだって、こんな時だって、リアンは言葉を尽くして私に伝えようとしてくれる。それがどんなに心強いか、今までわからなかった。でも今はこんなにも安心できる。私はこの人のことが本当に大切だ。


「そうなの? 夢だったらよかったかもしれないわね。そうしたら、こんなに悩むこともなかったのに」

「冗談はやめてください」

「本当よ。私がいなくなったら、私がいたことだって、なかったことになるかもしれないって思ってたんだもの。明日には、夢になっているかもしれないわよ?」


微かに笑った私を、リアンは抱きしめながらじっと見つめてきた。私は吸い寄せられるように、リアンのその瞳を眺めた。


「リアン、私ね、最悪あなたの記憶に残らなくても、あなたを助けられればいいと思ってたの、みんなが幸せになれるなら、過去の遺物は消えるものなんだって。私はリアンより百年も長く生きてるんだから……もっと冷静で、諦めが良くて、しっかりしてるはずなのよ。思い出も責任も何もかも、どうでもよくなるくらい、あなたを愛してしまうなんてこと、あっていいわけが」

「ソフィア……何度でも言います、愛しています。いつだって、過去だって未来だって、あなたのいない人生は僕にはありえないんです。例え書物の中だけでも、こうして目の前にいても、夢の中であっても、それでも、愛するのはあなただけです」


リアンが私の言葉を遮り、かすれた声で呟きながら、私の頬に手を添えた。その手は限りなく優しくて、私の心は一気にくじけてしまった。





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