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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十八章
132/154

132 告白

それはこっちのセリフだと言わんばかりに、リアンは私に向かってまっすぐ歩いてきた。


「……何をしてるんです?」


そして、鏡をちらりと見て、グッと眉をひそめた。リアンにはわかるのだろう。一度は鏡に願いをかけたのだから。


私は恐る恐る鏡に目を向けたが、鏡は沈黙していた。私はため息をついて、リアンに向いた。


「鏡にお別れを言っていたところよ」

「お別れ? とは?」


リアンの声が低く響く。


リアンはきっと、怒っている。


「鏡が願い事を叶えないように、魔力を消すと言ったでしょう。今、それをするところなの。邪魔をしないで」


私が言うと、リアンはムッと鏡を睨んだ。


「アンソニーから聞いていないんですか? その時は、僕が必ず同席すると言っておいたはずですが」

「そんなこと……彼が許すはずがないでしょう」


驚いた私に、リアンはため息をついた。やっぱり、そんなことは話していないんだわ。うっかりアンソニーを恨むところだった。だがリアンは私の返答を気にもとめず、私をじっと見た。


「あなたに危険が及ぶかもしれないのではないですか」

「そんなに難しいことじゃないわ。いくつか話しかけるだけなんだもの。もっとずっと複雑だと思ってたのに、拍子抜けよ」


私は軽く言って笑ったが、リアンは笑ってくれなかった。


「嘘をおっしゃらないでください。危険だから、お一人でなさろうとしたのでしょう」

「そんなこと……」


……ないとは言えない。というか、そう、危険かもしれないことに、リアンは巻き込めない。リアンだけでなく、誰も。嘘はつけない。


私は黙りこくってしまった。隣の部屋で、小さく物音がした。デイジーが気づいたのだろう。でもどうしようもない。


「ソフィア、あの鏡の力はきっと、あなたを願った僕が、一番わかっていると思います。恐ろしい力ですよ。恩恵は受けましたが、やはりいいものだとは思っていません。だから、消すのも反対などしません。ですが、なぜ今なのですか? あなたが鏡にいたことと、関係があるのですか?」

「ウルソン王子が魔力の鑑定にいらっしゃるから」

「そういえば……来月ですね」

「ウルソン王子には鏡には魔力がないと言ってしまったの。消しておかないと、嘘になってしまうでしょ」

「本当にそれだけですか? 先日お倒れになったことと関係が?」


口調は丁寧だが、やはり彼は怒っていた。


知られたくない。私の意志ではないけれど、私が魔力を欲していて、鏡とつながっていることなんて。その上、私が鏡の代わりにリアンの願いを叶えなければならなかったなんて。


「鏡の魔力と一緒に、私も消えるから、……」

「消える? 僕を置いて?」

「あなたを連れてはいけないわ。私は過去の人間だし」

「でもみんな、あなたを受け入れて、あなたを慕って、……愛しているではありませんか」

「それでも、私がここにいるのは魔力のおかげなのだから。どちらにしろ、魔力が残っていたらよくないでしょう。鏡に願いをかけて、不幸な人が出ないように」

「僕は幸せです。だから」

「でもそれは、最初に不幸になった人がいたからよ」


私を閉じ込めた司書なり。その前にきっと願いをかけた人たちなり。


私の言葉に、リアンは呆然としたように呟いた。


「あなた……ですか……」

「私?」


そんなこと、考えたことがなかった。


私は……不幸だったのかしら……? 考えてみたけれど、あまりそうは思わなかった。むしろ、逆に幸せだったかもしれないわ。少なくとも、何も知らずに鏡を見る日まで、そしてここに戻ってきてからも。


「まだ僕の願いは叶っていません。僕のプロポーズを受けてくれたのではないのですか」


リアンの声が震えていた。


「まだ消えてしまうと決まったわけではないし、なぜ気にするの?」

「あなたがそれを半ば確信しているからです。だから人払いをするのでしょう。僕がそんなに弱い人だと思っているんですか? むしろ、今、この瞬間に居合わせないことの方が後悔します。せめてあなたの最後を見守りたいと思うのは、僕のエゴなんですか?」


だって、知られたくなかったんだもの。私がリアンの願い事を叶えなければならなかった・・・・・・ことなんて。


私は少し身震いをした。


もしも。私には何も影響がなくて、鏡だけが消えて、私が残ったとしたら。その時、リアンは私から去っていくだろう。この先を言ったら。言ってしまったら。


「そうかもしれないわね。私はあの時、プロポーズを断るわけにはいかなかったし」

「どういうことです?」

「私はあの時まで、リアンの頼み事に逆らえなかったから。あなたの頼み事は、私にとって、全部命令だったの」

「……命令?」

「そう。あの時、”僕と結婚しろ”って、私、そう言われたのよ」


リアンの顔がさっと青くなった。


「あなたも……同じ気持ちで受けてくれたわけでは……?」

「どうかしら」

「だって……あなたが自分からおっしゃってくださって」

「あなたに信じてもらうには、それしかないでしょう? それに、あなたが鏡に願った時、あなたは同じように呪われたの。それが叶うまで、その思いつきに固執するように」

「違う」

「鏡の魔力が消えて、効果がなくなったら、私は必要なくなるのよ。私がもし消えなくても、リアンは今までがなんだったというくらいに、私がいらなくなるんだわ」


そう、もし残ったら、私はこの家を去るだろう。もう必要がないから。


そんなこと、わかってた。だからぐずぐずと引き伸ばしていたんだ。ノアにだって、有能な従者と執事と、そしてリアンたち公爵家の後ろ盾がしっかり機能している。


伝説の令嬢は、もう用済みなのだ。





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