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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十七章
130/154

130 長い眠りが明けて

目を開けると、心配そうなデイジーの目が見えた。


「……デイジー?」

「あぁ! お嬢様! 気がつかれましたか」


言いながら、デイジーがほろほろと涙を流した。


「何かあった?」

「もう三日も寝ていたんですよ」


デイジーの言葉を聞いて、私は思わず目を瞬かせた。


「三日?」

「王族の墓石前でお倒れになったそうです。王太子殿下が直々に抱えてくださって……」


ついさっきのことのようなのに……三日? アンソニーが抱えてきた? 覚えていなくて良かったのか悪かったのかさっぱりわからないわ。


「まぁ……迷惑をかけてしまったわね」

「ご心配なさっていました。今から使者が向かいますので、ご安心なさるでしょう」


デイジーがにっこりとし、私は少し安堵した。滞りなく毎日は進んでいるのだろう。デイジーやヘンリーや、そしてブルータスたちが支えていてくれているおかげで。


「リアンは?」

「リアン様は……」


デイジーは言葉を濁し、うつむいた。私のことが嫌になってしまったとか? 胃が重くなるのを感じながら、私は無理に笑顔を作った。


「どうしたの?」

「殿下が禁止なさりました」

「どうして?」

「うわ言で鏡のことをおっしゃるので、リアン様が不安になるのではないかと」


別の意味で胃が重くなった。


「……なんてこと。私、何を言ってた?」

「結果的に、そんなに驚くようなことはおっしゃいませんでした。鏡に引っ張られるとか、鏡の魔力を消すのだとか、リアン様が大好きだとか、そういう話です」


そして新たな意味で胃が重くなってきた。


「そ……そんなこと言ってた?」

「えぇ。その部分はリアン様にお聞かせしたので、リアン様も渋々ご自分の仕事をなさってます」

「そう……怒ったり……嫌になったりしてない?」

「まさか。とっても心配しておいでですよ」

「そう」


私はため息をついた。


「本当に……勝手なことをして倒れてしまうなんて、申し訳なかったわ」

「勝手なこと?」

「魔法をかけられた墓石に触れてしまったの。敵意がなければなんともないはずなんだけど、私、呪いの鏡の魔力に侵されていたでしょう。それで、反応してしまったみたい」

「そうだったんですか……だからご自分を責めるようなことを仰っていたのですね」

「そうなの?」

「はい。先に注意してしかるべきだったのに、と何度も仰っていて、ひどく塞いでおられましたが、それ以上は何もおっしゃいませんでした」

「殿下のせいではないわ。でも、……リアンには言えなかったのね。私が魔力の影響を受けてるなんて、知らないんだから」


もっと注意するべきなのは私だった。そして早くしなければならなかったのに。


アンソニーには、あれだけきっぱりと言ったのに、私ったら。


私は自分の不甲斐なさを呪いたくなった。


「これから先も、こんなことが起きてしまうかもしれないのよね……鏡の魔力を消さない限り」

「ソフィア様……」

「よし、決めた。ノアを呼んできて。元気になったら、すぐに鏡と向き合うわ。もう引き伸ばししないし、迷わない。どっちにしろ、ウルソン王子はもうすぐきちゃうんだもの。私の体質はきっと異常よ。もしかしたら、研究対象になって閉じ込められて、リアンとも結婚できないかもしれない。それは避けたい」


私が言うと、急にデイジーは顔をパッと明るくした。


「わかりました。リアン様との未来のためですね」

「えぇ」

「世の中のためでも、過去のためでもなく、ソフィア様とリアン様のため」

「そうよ」


デイジーは私の言葉に何度も頷き、腕を組んだ。


「それなら、仕方ありません。お手伝いするしかありませんわ」


私は思わず吹き出して、しばらく笑いが止まらなかった。


「変な子ね。普通なら、世の中の大義名分の方が、立派で協力したいって思うんじゃないの?」

「何を仰ってるんですか。私は世の中よりソフィア様ですよ。これ以上、ソフィア様が苦しむのは見たくありませんもの」


私の侍女はなんていい子なんだろう。いろんな負担をかけたのに、いつだって私のことを大切に思ってくれる。私も彼女の気持ちに見合うくらい、立派な主人になれるかしら?


「それなら、ブルータスに伝えておいてね。その日は、リアンをどうにかして外に連れ出すように。そして、ノアには屋敷から人払いをしてもらわなきゃ……何が起こるかわからないもの」


私が言うと、デイジーは改めて決意したように頷いた。





第十七章、終わりです。


次の章はようやく鏡とお話します。




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