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鏡の中  作者: 霞合 りの
第一章
13/154

13 ブルータスからの願い

「リアン様?」


ブルータスが使用人部屋に顔を出し、驚愕の顔をした。


「ここにいらしたんですか。・・・何をしてるんです?」

「食事よ。ブルータスもどう?」

「何をおっしゃいます! こんな部屋にいらっしゃるのもどうかと思いますが、使用人を食事に誘うとは。本当におやめください」

「まぁ」


百年前は私は貧乏貴族で、家は狭くて、こんなに広い使用人部屋はなかった。・・・だからと言って、私の親はその部屋を使っていいとも言わないだろうし、召使と一緒に食事をしていいとは言わないだろう。私が実際していたかどうかは別として。


「昔の方が、厳しかったんじゃないんでしょうか?」

「・・・そうね」


私は頷きながら、ブルータスの顔をしげしげと見た。


「なんでございましょう?」

「あなた、ただの御者じゃないでしょう? もしかして、リアンの侍従?」


私が言うと、ブルータスは一瞬ぽかんとした後、快活に笑い、リアンは食事を喉に詰まらせた。


「ええ、そうです。だから申しましたでしょう、ソフィア様には通じません、と」

「私を騙そうとしたの?」


リアンは首を横に振った。


「ゲホ、・・・いいえ、違います。気を使うかと思ったんです」

「どこをどうやったら気を使うっていうの、この状況で。なんで侍従が自分を御者だと言ってるの?」

「言いましたでしょう、少しのつもりでしたから。その方が都合がいいんです」


「でも、今日だって、誰も来てないでしょう?」

「そうですね」

「身の危険でも感じているの?」

「少しは」


平然とした顔で答えるリアンにとっては、よくあることなのかもしれない。確かに複雑な関係を考えると、あながちなくはないことなんだろう。


「なるほど。物騒ね」

「仕方ありません。こんな状況ですから」


リアンは肩をすくめた。思ったよりも、状況は深刻そうだ。それは私を呼び戻したくもなるはずだ。


私は肩で息をついた。


「それで、どうするの? 私をあなたのお屋敷に連れて行く?」

「そうなります、多分」

「それならそれでいいけれど・・・また戻ってきていいのでしょ?」


「ええ。使用人たちが戻ってからになります」

「あなたのご両親はなんて?」

「ブルータスが手紙を持ってきてくれました。今、あるかい?」

「はい。こちらに」


差し出された手紙は、しっかりとした綺麗な封筒に、公爵家の印が押してある。


すごいものを手にしている気がして、私はドキドキしながら封筒を開けた。すでにリアンが読んだと見て、開封はされており、便箋の中に綺麗な文字がしたためられていた。


『親愛なるリアン


あなたがそういうのなら、信じましょう。

彼女を連れてきてください。

私たちも是非お会いしたい。

伝説の女性というソフィアに。



父』


私は便箋を丁寧にたたみながら、率直な感想を述べた。


「わかりやすいお言葉ね」

「大丈夫ですか?」


心配そうにリアンが私の顔を見る。私は肩をすくめた。


「大丈夫も何も、行くしかないでしょう。食べ終わったら、片付けて、お茶を飲みましょう。そしたら、出かける準備をするわ」

「・・・ありがとうございます」

「散歩は延期ね」


私が言うと、リアンは少しだけクスリと笑った。


「ブルータスはいいの?」


私が問うと、ブルータスは目をパチクリとさせた。


「何がでございますか」

「私が伝説のソフィアとやらで」

「いいも何も、なんというか、えー、よろしいのでは?」

「なら、いいわ。リアンと、リアンが信頼する侍従にそう言われるなら、大丈夫なんでしょう」


私はまだ心配そうにしているリアンに笑いかけた。


「大丈夫。信じてもらえなかったら、あなたの家で雇ってもらうわ」

「それより、リアン様の婚約者としておいでなさった方が、なんぼか真実味があるでしょうね」


ブルータスが言った言葉に、私は思わず笑えてしまった。


「なるほどね。でも、そんな嘘、すぐに見破られてしまうわよ」

「ブルータス、」

「差し出がましいことを言いました」

「あら、面白かったのに。冗談もわからないのね、リアンったら」


私は言うと、食器を軽く片付けて厨房に持っていった。


 厨房でざっと洗っていると、いつの間にかその横で、ブルータスがお茶の準備をしはじめていた。そして、私の片付けを奪おうとする。


「どうしたの?」

「リアン様には先に居間へ向かっていだきました。もちろん、ソフィア様にも今から居間へ向かっていただきます。そして、お茶をそちらで飲んでいただき、もうこちらへはこないようにしてください」


「えー」

「次にこういうことがあれば、ここの使用人が戻る前でしたら、向こうから厨房係を連れてくるようにと奥様がおっしゃっておいでですから」

「そうなの」


適当に答えている私を恨めしく睨みながら、ブルータスはため息をついた。


「今は、ソフィア様が片付けたがっているようですから、していただいておりますが、絶対にやめてくださいね」

「いいのに」

「奥様に怒られます」

「公爵様は難しいのね」

「お立場がございますよ。伝説の聖女ですから」


忘れてた。


「あーあ、そうね。そうだったわ」

「それと」

「何?」

「リアン様をあまり不安になさらないでください」

「何の話?」


私が目を見開くと、ブルータスは言いにくそうに答えた。


「リアン様はお部屋にソフィア様がいらっしゃらなかったので・・・若干、取り乱し気味にお探しでした。リアン様は大事な兄と友人、そして叔父とも慕っていた方を亡くしております。再会の約束をして突然会えなくなる恐怖で、リアン様は本当にお辛い時期を過ごしました。ですから、リアン様との約束はお守りくださいませ。特に、お迎えに上がる時には」


不意に胸を突かれたような気持ちになった。


そうだった。


あんなにもリアンは私が必要だと言っていたのに。それは、突然いなくなってしまう恐怖を知っているから。私だって知ってるのに。突然私を見てもらえなくなる恐怖を。


「・・・そうだったの。ごめんなさい」


ブルータスは首を横に振った。


「お謝りになる必要はありません。これは私のわがままですから。さぁ、居間へ急ぎましょう。リアン様がお待ちです」


私は頷くと、ブルータスに促されるまま、厨房を出て居間へ向かった。


お茶を飲んで一息入れた後、マガレイト家へ向かう準備をするために。




ここまで、書き溜めた分です。


次からリアンの家、マガレイト家のお屋敷に移ります。



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