126 報告と手紙
「今、カーターをやって、お呼びしようと思っていたところだったんだ」
ノアが不思議そうに私を見た。すごく言いにくくなってしまった。
「何かあったの?」
「うん……うーん……」
「ソフィア?」
心配そうに私の様子を伺ったノアは、手元にあった封筒をスッと掲げた。
「気がかりなのはこれ?」
「それは……何?」
聞きながら、なんとなくわかった。あれはきっと。
「隣国のウルソン王子からの手紙です」
やっぱり。私が視線をそらすと、ノアは手紙に視線を落とした。
「先日のお見合い、ウルソン王子から、魔力の判定の話をされたのは知っているよ。でも、アンソニー殿下がうまく止めてくださると言っていたんだ」
冷静な口調に育ってきた当主らしさを感じられて、私は少しホッとしていた。まだ若いけれど、ノアならきっとやっていけるだろう。そんなこと言って、もともと、その予定だったわけだし、私が心配することでもなかったかもしれない。
「そうなの?」
「うん。……でも、できなかったみたいだね」
「えぇ、できないと思うわ。先日、私、王宮に行ったでしょう。その話をしてきたのよ」
「そうなの? てっきり、リアンの話をしに行ったのかと思ってた」
「なくはないけど、それは一部に過ぎなくて、メインは魔力鑑定の話」
ノアは少し視線を上げて私を見ると、不思議そうに首を傾げた。
「でも……あの鏡は、まだ呪いがかかっているんでしょう? どうするの? ソフィアも呪いの影響で、魔力がついているんだったよね? ……でもそうか、もう呪いは解けたから、なくなったんだっけ?」
だんだんとノアの声が明るくなっていったが、私は反面顔を曇らせていたらしい。ノアはふと口を閉じた。
「そうね……そのことなんだけど……」
「何か……言いたくないことなの? 悪いこと? いいこと?」
私はノアに、鏡に魔力がないと嘘をついたことを、正直に伝えた。私自身には魔力がないため、鏡に影響を受けている時しか魔力を検知できないことを利用して、ウルソンを誤魔化してしまった。そのことは、アンソニーも知っていて、口裏を合わせてもらっていると。
「鑑定に来たらバレてしまうのでは……」
「その前に、”ただの鏡”に戻すわ。協力してほしいの。鏡の魔力をなくすのは、私の務めだと思ってる」
「でも……それは危険なんじゃないの? 魔力は暴発する時もあるというし、あの鏡の魔力はとても強いって。リアンはなんて?」
私は首を振った。
「言ってないわ」
「どうして?」
「どこから話していいかわからないから」
「あぁ、……」
「呪いのことから、リアンの望みを叶えることまで、言わないとならないかもしれない。そうしたらリアンは……」
「溺愛が増すかもしれないね……!」
ノアは悩ましげに眉をひそめた。弟によく似た姿。今度こそ、見届けたかったんだけどな。諦めちゃいけないけど、なんの代償もないなんて、うまくいきそうにない。
「それだけならいいけど……」
「他に何か? 幻滅されないかって? いやぁ、リアンはどんなソフィアでも大好きだと思うよ。この二年、ずっと一番近くで見てきたんだから」
それならなおのこと言いにくい。だが、それなら余計にノアにはしっかり伝えて、協力してもらわなければ。
「ノア。私は鏡の力でここに存在してるかもしれないの。だから、鏡の力がなくなったら、私も消えるかもしれない。その時に、リアンの力になってほしい」
「それはダメです」
間髪入れず、ノアが驚いた顔で言った。
「無理というか……消えるかもしれないのなら、なおのこと、鏡が残っていてもいいのでは?」
私はそこで、何度も説明した理由をまた繰り返し、最終的に納得してもらえはした。が、みんなと同じように、非常に不本意そうなノアだった。
「まだわからないよね?」
「そうね。でも、覚悟はしておいて」
「……早すぎるよ」
「葬るのが一番よ。ウルソン王子がくるのは、いつ?」
ノアがポツリと言った。
「……三ヶ月後」
鏡の魔力判定は、三ヶ月後。その前に、私は鏡と再び向き合って、話し合い……というべきか、私は鏡に、魔力を消す”呪い”をかけるのだ。
「準備をしなくちゃね」
私が言うと、ノアは仏頂面で頷いた。
第十六章、終わりです。
次の章では、ソフィアがもっと動く予定です。
思ったよりも書くペースが落ちていて、なかなか更新ができていませんが、よろしくお願いします。