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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十六章
124/154

124 仕事中の不意打ち

「あっ」


アンソニーの部屋を出たところで、私より先に出たキースが叫んだ。


「どうし……あっ」


キースの後ろに隠れられず、私はきょとんとした顔のリドリーと、呆然としたリアンに出会った。


「ソフィア……どうなさったんですか?」


リアンが気を取り直したようにふんわりと笑った。怒ってるのか嬉しがってるのか、ちょっとわからない。


ん、どうしよう。


ちらりとキースを見たが、こういう時彼は、リアンに口出ししないほうがいいとよくわかっている。


「あの……その……あなたを迎えに来たのよ、リアン」

「本当ですか?」


パッと表情が明るくなって、言ってよかったと思ったと同時に、少し罪悪感も感じた。


わかってると思うけど、誰にも言わないでよ? そして、デイジーがバレないようにスススと移動していた。リアンだってわかっていたかもしれないが、アンソニーにどんな用事があるにしろ、リアンに会いたかったというのは本当だし、会えたら嬉しいのは当然で、だから、間違ってるわけじゃない。


「仲がよろしくて、とても微笑ましいですね」


ふと顔を上げると、リドリーがキースに話していた。私たちに話しかけないのは、リアンが私を独占したがってるからで、多分、リドリーが話しかける話題もないせいだろう。……話しかけたほうがいいのかしら? それともやめておく?


リアンが私の髪を耳にかけて、耳にこっそりと話しかけてきた。


「今、とてもお会いしたかったので……そう思っていた時に会えるなんて、夢のようです」


リアンの抑えた声が頭に響いて、一瞬、何を言われたのかわからなくなった。おかしい。リアンってこんなに素敵だったかしら? 何だかまずいわ。何も考えず、リアンに抱きついてしまいそう。


私は逃げるようにリドリーに顔を向けた。


「そ……そういえば、リドリー様、コレット様はお元気ですか?」

「え? あ、はい、えぇと、もちろん元気です」


リドリーが慌てて笑顔になった。私はこれ幸いと話を続けることにした。


「とっても可愛らしい方で、本当にお会いできて楽しかったんですの。またお会いできたら嬉しいです」

「こちらこそお誘いありがとうございました。非常に有意義な時間を持てたようで、よかったです。これまでは同等以上の友人があまりおりませんでしたので、……今後とも、デボラ嬢やあなた様ともお会いしていただければと思います」


少し不安になり、私は確認するように念を押した。


「……チャーリー様もよろしくお願いしますね」

「えっ……ですがその、私からは恐れ多いので……」


いやいや。公爵家なんだしね……もっと押して大丈夫だと思いますよ……リドリーは男女間の機微は得意なのに、権力には弱腰らしい。


リドリーはすぐに話を切り替えた。が、話題は多少失敗だった。


「……そういえば、ソフィア様はチャーリー様とも仲がよろしいようで、よくお話を聞かせていただきます。初めて会った時に一目惚れしたと嬉しそうにおっしゃって……あー……初恋は実らないと言いますから、特に応援してるわけではないのです、よ」

「僕は焦ってなどおりませんし、嫉妬などもしていませんよ?」


慌てたリドリーにそう言って、リアンはさっと私を自分に引き寄せた。


「もう彼女は僕のものですから」


笑顔かと思いきや、目が本気だ。わからないけど怒っているのかもしれない。


キースが呆れた顔で私たちを見、王宮勤めの者たちが、ちらちらと視線を投げてきていた。アンソニー殿下の執務室の前だ、それなりに人の往来はある。リアンもリドリーも目立つし、令嬢がいるのも珍しい。結果、私たちは人目を引いてしまうのだ。


困った私は強硬策に出た。私はぎゅっとリアンに抱きつくと、甘えるように顔を上げた。


「やっぱり今日はお忙しそうだから帰るわね。会えて嬉しかったわ、リアン。また後で」


私がリアンに抱きつくなんて、滅多なことではない。リアンが固まっているうちに、私はさっさとキースとデイジーに声をかけ、その場を離れた。


「ちょ、え、ソフィア様」

「今のうちに帰るわ。手間取ってごめんなさい」

「俺は大丈夫ですよ、想定内の出来事ですから……でもリアンは大丈夫ですかね」

「何が?」

「仕事になるんでしょうか」

「してもらうのがあなたたちの仕事じゃないかしら?」

「不可抗力で、でもですか? 浮き足立ってる男に何を言っても無駄に思いますが」


女一人でそんなに変わるものでもないでしょ? と思ったけれど、私はしばらく考えて肩をすくめた。


「……その時には、私は家に帰って、しっかり仕事をしたリアンに会えるのを楽しみに待ってるって伝えてください」


するとキースはにこりと微笑んだ。


「なるほど。それはありがたいです」





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