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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十六章
121/154

121 王太子との穏やかな会合

第十六章です。


「それで? 何でソフィア様はここにいらっしゃるんですか? ご婚約の準備でお忙しいんじゃないかと思っていたのですが」


アンソニーは穏やかに微笑んでいたが、微塵も優しさは感じられなかった。


それもそのはず。数日後、私は何もかも放って、アンソニーを訪ねて王宮へやってきたのだった。


今は人払いをして、私とアンソニーの他に、キースとデイジーだけだった。


「逃げてきたのですか?」

「まさか。何からでしょう?」

「婚約準備」

「順調ですわ」

「では、何をしに?」

「鏡の呪いについてですよ、アンソニー様」


アンソニーが首を傾げた。


「呪い? 以前、おっしゃっていたものですか?」

「はい。実は鏡と交渉しまして、鏡の破棄を前提に話を進めることになり」

「待って待って。交渉? 何それ?」


私の話に割り込んで、アンソニーが慌てた様子で私を見た。前に話さなかったかしら。


「えぇ、鏡と話して、交渉したんですの。そのうちに、ウルソン王子の国から、魔力鑑定の方がいらっしゃるんですよね? ですから、早いところ、ささっとぱぱっと、”呪いの鏡”の存在を抹消したいんです」

「ささっとぱぱっとって、そんな簡単に……それより、リアンの願い事は、叶えることができたんですか」


私は苦々しく思いながら、笑顔のアンソニーをじっと見た。


このたぬきな王太子には散々先回りをされたけど、とぼけて見守られていたなんて、すごい悔しいことだ。ずっとですよね? これずっとですよね? リアンのためなのか私のためなのか、すごく丁寧に待っていてくれたかと思うと、気恥ずかしい気持ちをぶつける気にもなれない。


「できましたよ。おそらく、アンソニー様が思っているようなことでしょうね」

「おや? 私は何も言っておりませんが?」

「わかりますよ。どうせ、わかりやすかったのに何でわからなかったんだって、そこの人たちも思っているんでしょうから?」

「そうですかね?」


アンソニーはキースとデイジーをちらりと見た。私は見なくてもわかってる。多分頷いているか、無視を決め込んでいるか、どちらかだ。


そしてアンソニーは私を向いて、にっこりと微笑んだ。


「では、リアンとは仲良くしていると」

「えぇ、……だと思いますが」

「てっきり、リアンがベタベタに甘やかすから、嫌になって出てきたのかと思ったものですから」

「何でです? 嫌になったりなどしませんよ?」

「そうですか? リアンが先日ぼやいていたもので」

「何をですか」

「”一日中ソフィアを見ていても飽きないのに、どうして一日はこんなにも短いのでしょう”って」


何を言ってるんだろう、リアンは。私は首を傾げた。


「一日って、そんなに短いですか?」

「体感の問題かな。あなたに会える時間が少ないってことですよ」

「そうなんですか? じゃ、私、もっとリアンと一緒にいるべきでしょうか?」


私の言葉に、アンソニーは苦笑いをした。


「……これ以上無理じゃないですか? 仕事もありますし、あなたにはここに来るご用事もあったんでしょうし? リアンには内緒なんですよね、今日の訪問は?」

「……そうですね……」

「バレたら大変ですよね。リアンへの逆プロポーズに、鏡の呪いの強制力がかかっていたなんて……リアン、今度こそ発狂するかもしれない」


私は責められたように感じられ、言い返した。


「でもですね、鏡には、できないことは願えないんです、そもそも。死者を生き返らせることができないように、好きになれない人を好きにならせることはできません」

「へぇー」

「あ! 信じてませんね? 本当ですよ?」

「信じてます、って。鏡の呪いがなくても、リアンにプロポーズされたら一も二もなく承諾しただろう、とあなたがおっしゃりたいことはわかりました」


やれやれと息をついたアンソニーがなんだか偉そうだ。


「そうではなくて」

「はいはい。鏡の呪いを解くんですよね? 私たちも引き続き調査したいと思いますが、頭打ちになっています。何か手がかりがおありでしたらいいのですが。私たちがお手伝いできることはありますか?」


なんだか気に入らないけれど、キースもデイジーもとんと無表情だし、仕方がない。私は肩を落として話を続けた。


「……多分ないと思います。いろいろ調べたんですが、見つからなかったことは知っていますよね。それで鏡に聞いたのですが、実際は、それこそが、鏡の呪いを解く方法だったんです」

「つまり?」

「鏡だけが解き方を知っていて、それを鏡に問うたものにだけ、教えることになっていたんです」

「なるほど」


アンソニーが考え深げに顎に手を当てた。その仕草が少しリアンに似ていて、胸がちくりと痛んだ。


「許可というか……理解をいただきたくて」

「勝手にされては困るからね」

「それもあるんですけど……その……鏡の魔力が消えたら、私も消えてしまうかもしれないので」

「はぁ?!」


アンソニーが素っ頓狂な声を出し、キースが思わず転びそうになり、部屋のドアが叩かれた。


「何かございましたか、殿下!」

「いや……何もない、大丈夫だ!」


申し訳ない……私は恐縮しながらアンソニーを見た。すると、アンソニーは取り乱した自分を恥じるように頬を染めていたが、気を取り直したように空咳をした。


私は恐る恐る話を進めることにした。


「あ、でも、わからないんですよ? 鏡にも前例がないみたいなので、未知数とのことで……」

「それは困ります。そんな危険なことはさせられません」

「でも鏡の魔力を消さないと、アンソニー様は隠匿の罪に問われるかもしれませんよ? 私がそうして欲しいと言ってしまったせいで、もうないことになってるんですよね?」

「う……まぁ、そうだが、適当に理由をつけて、復活させることはできますし……」

「それに、私共々、ウルソン王子の国に行かなくてはならないかもしれません。リアンも」

「う」


アンソニーは痛いところを突かれたように言葉を詰まらせた。







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