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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十五章
119/154

119 恋人についての考察

結局、私は、ヘンリーが淹れてくれたお茶を飲みながら、刺繍を進めていた。リアンがくると聞いていたけれど、なかなかこない。だんだんデイジーがそわそわし始めた。


「なんだかお茶会に行きたくなってきたわ」


いたたまれなくなった私がぼそりとつぶやくと、デイジーは慎重に言葉を返してきた。


「招待状をいただいたリヴィング家のお茶会など、お茶やお菓子なんて、いつもとても美味しいそうですね」

「そうなのよね。リアンと一緒に行けたらいいかもしれないわ。でも、私は誘われていないけど、大丈夫なの?」

「大丈夫ですわ、リアン様と婚約なさっておいでですし、堂々と婚約者として同伴なさればいいのです。ダメだなんて招待状には書かれておりませんわ」

「でも……それはアンソニー様以外は知らないのでしょう。”伝説の令嬢”が突然行ったら驚かれてしまうし、リアンが過保護になってしまいそうだし、……婚約式が終わるまではやめておくわ。本当に婚約式なんてするの? 気が進まないわ」

「必要ですわ、ソフィア様。大事なことですもの」

「そう?」

「えぇ。そうすれば、リアン様も安心なさるでしょうし、私ども使用人は、それが何より嬉しいです」


デイジーがヘンリーと目配せをした。


リアンはまだ部屋にいるらしい。どうも、落ち込んでいるようだ。


こないだまで、リアンの言葉には逆らわない、という呪いにかかっていた私は、リアンの誘いは一も二もなく承諾していた。ようやく呪いが解けた今、私は自分の気分で予定を選べることを満喫していて、リアンの誘いにはなかなか乗らなくなってしまった。


それがリアンを落ち込ませることはわかっているのだけど……


「そんなに落ち込んでしまうなんて……私、もっとリアンの言うことを聞かないとならないかしら?」

「えぇと……そういうわけではないと思いますわ。ソフィア様は我慢なさる必要はありません、……と思います。リアン様が慣れてらっしゃらないだけで」

「そう?」

「リアン様がデレデレなのはいつものことですが、ソフィア様がそれに対してとってもお可愛らしいので、戸惑われているのです。リアン様は婚約が決まってから、ご自分の気持ちを隠す必要がなくなりましたので、いつも以上にソフィア様にかまってしまっている、と思っておられますから」


私は首をひねった。そうなのか? どうなのか?


「今までと特に変わらないけど……?」

「ですが、反応が違いますからね! もう、見てるこちらも恥ずかしくなるくらいに初々しく愛らしいですわ。それで、リアン様は自惚れすぎないようにと自戒なさってらっしゃるんですよ。もちろん、ソフィア様にとっては自然な反応でしょう。でも、リアン様にとっては違うのです。今まで気持ちを隠していたのですから。隠せておりませんでしたけど! 最初から私たち使用人にはバレバレでしたし! ノア様も心配なさっておりましたし!」


デイジーは興奮してそこまで言って、慌てて咳払いをした。


「ですが、ソフィア様からすれば、出会った時からリアン様による独占は当たり前でしたでしょう? 今更、嫌になるはずもありませんわね。ですから、私たちには何も変わらないんです。でもリアン様にとっては、恐ろしいんですわ。独占欲の塊になってしまって、嫌がられているのではないのかと、すでに婚約を解消したいのではないかと……不安なのです」


デイジーの言葉には、心がこもっていた。まぁ、メイドで監禁発言もあったし、あながち考えすぎではない気もするけど……私を優先したいと言ってくれたことを私は信じているし、今までもそうだった。だから、嫌になるはずがないのに。


「リアンって……心配性なのね」

「ですから、その刺繍をなぜしているのか、早めにお伝えしてあげたらとご提案申し上げたのですが」


デイジーが言っているのは、今ソフィアが手がけている刺繍の事だ。


「ダメよ。これは驚かすんだから」

「ですが、それは、リアン様のためのものですよね?」

「そうよ。リアンのベッドカバー」

「その上、かなり大きいので、時間がかかっておられますし」

「だってデイジー、あなたが言ったのよ。いつか二人で使うんだから、大きめにしておきましょうって」


そう、私はリアンのために、ベッドカバーの刺繍をしていた。すると、デイジーはため息をついた。


「わかっておりますよ。百年も鏡の中にいて、自分のベッドで情事が行われるのを見ていれば、恥じらうこともなくなるのでしょうこと……でも見た目はまだ初々しい乙女なんですから、少しは恥じらうそぶりくらいしてください」

「何を?」

「いつか二人で使うってことをです」


デイジーが私に注文をつけていると、ドアがノックされ、ヘンリーが呼ばれた。リアンの来訪かと思ったが、そうではなかった。ヘンリーが顔を出し、思いがけないことを告げた。


「キース様がおいでです。リアン様はお会いにならないそうなのですが、ソフィア様はどうなさいますか? お会いになられますか?」


私はデイジーと目を合わせ、一瞬考えた。


何しに来たんだろう? 今まで、リアンがキースに会わないなんてことはなかったし、キースが私に会いたいなんてこともなかった。


キースなりにリアンが心配なのか、面白がっているだけなのか。


「そうね。この部屋に来てくれるなら、お会いしてもいいわ。私、刺繍が途中だし、リアンも後から来るかもしれないし」

「では、そのように」


ヘンリーは恭しく頭をさげると、ドアの向こうに消えていった。



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