表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡の中  作者: 霞合 りの
第一章
11/154

11 遠い記憶

ちょっと短いです

 扉が閉まって、私は大きく息をついた。


息止めてたの気づかなかった。


びっくりしたびっくりした。ぶっきらぼうな男の子が急に紳士になるんだもの、驚きすぎて緊張しすぎてしまった。頭に血が上って、頬が熱い。


ああ驚いた。


 それにしても、手の甲へ口付けだなんて、今の時代、流行らないんじゃないかしら。


私は思いながら、鏡の中から見た世界を思い出していた。当時は結婚前の男女が手を触れる以上のことはほぼしなかったが、今では親しみを込めて頬にキスくらいはしても構わなかったはずだ。私が不愉快に感じると思ったのかもしれない。何しろ私は古い時代の人間だから。あらゆる意味で。事実、私はどきりとしたのだ。


手の甲にキス。・・・手の甲に?


私はリアンが今さっき手にとって口付けた手の甲をじっと眺めた。


そうだ。そうよ、そうじゃない。ニコラスが言ったのだ、迎えに行くと。私を迎えに来ると。


・・・・・


「私、何の仕事しようかなぁ。あれもこれも、いろんな仕事をしてみたい」


私がつぶやくと、ニコラスは驚いたような顔をした。


「ソフィアは仕事をするのか。貴族の女性なのに」

「そうよ、ニコラス。うち、お金がないでしょう。だから屋敷の維持も大変なのよ。あんなに小さいのに。ま、屋敷はデイヴィッドのものになるんだもの、私は家を出て仕事をするしかないでしょ」


「・・・ソフィア、いつ家を出るんだ?」

「うーん。いつかなぁ。もう直ぐ十六だし、職業体験も結構したのよ。本当は本屋に勤めるのがいいけれど、そんなに多くはないし・・・どこかの商店に会計や秘書の見習いで行こうかしら。どう思う、ニコラス? 私に似合う職業、何か思いついて?」


ニコラスは初めは緊張したように顔をこわばらせていたけれど、そのうち、にこりと笑った。


「ソフィアに似合う職業を、私は知っているよ」

「本当? 何かしら?」

「それは、王宮でできる仕事だ」

「王宮? ・・・もしかして、あの大きい書庫の管理責任者とか?」


「何だろうね。教えないよ」

「えぇ・・・思いついておいて、それはないわ」

「自分で考えてみてよ。そして、・・・その時が来たら、迎えに行くよ」

「迎えに来てくれるの?」

「ああ」

「それなら、・・・わかったわ。お待ちしております」


私が冗談めかして言うと、ニコラスは私の手をとって、手の甲に口付けをしたのだ。


洒落たことをするものだと私は思ったのだ、だってデイヴィッドもよくしていたから。兄弟姉妹ではよくあることで、・・・つまり私は、気がつかなかったのだ。そばで聞いていたデイヴィッドが不安げに私を見て、そのあと、苦言を呈したのはそのせいだったのだ。


「大丈夫なの? あんな約束して」

「王宮での仕事でしょう? 書庫でないのなら、妹さんの家庭教師かしら。ううん、その助手かも。それか、侍女・・・もちろん、皿洗いでもなんでもするわよ。だって王宮のお皿って素敵なんでしょう? 洗いながらうっとりしちゃうかも」

「姉さん・・・」


デイヴィッドがため息をついた。


「ちゃんと答え合わせしてから、お迎えに来てもらってよね」



答え合わせ。


つまりそれは、ニコラスの求婚を私が承諾するという意味だった。


今思えば。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ