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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十三章
109/154

109 伝説の令嬢の新しい評価

ウルソンと別れ、私は庭を散策することにした。


考えが整理できないまま、庭をうろうろとする。何度も歩いたのに、気分は複雑だ。


ウルソンはなんで黙り込んで、キースは驚愕していたのか……失礼よね、驚愕するなんて。私、いったいどんな顔をしたっていうのよ。


考え込みながら歩いていると、生垣の終わりの角で、人とぶつかりそうになった。


「ごめんなさ……まぁ! リアン! お話は……あら」


相手はリアンだったが、誰かと一緒だ。


まだお見合い中なんだわ。


私は慌ててリアンから離れようとしたが、お相手の令嬢は私に気がついてしまった。


「まぁぁ! ”伝説の令嬢”……! 絵姿で見るより、お美しくて可愛らしい……!」


いえいえ、あなたこそ素敵です。私は華やかな彼女に見とれてしまった。ふわりと揺れるオレンジ色のドレスは、シルクの上にシフォンが重ねられていて、綺麗なグラデーションが出来て美しく、自然な金色混じりの栗色の髪を持つ彼女によく似合っていた。


何より、釣書の絵姿よりずっと可愛らしい。これはギャップで魅力が引き出されるパターン……!


「ソフィア! ……様、大丈夫ですか? ……何してらっしゃるのですか」


リアンの言葉に、私が我に返った。本当に失礼だった、もっと気をつけなきゃ。話しかけるなんてよくなかったわ。


「私の見合いは終わったの、それで散歩を……えーと、リアン様たちも?」

「そうです。庭を見たいというので、案内を。あなたこそ、王子をご案内すべきでは……」

「え、でも、戻ってしまわれたわ」

「国にですか?」

「ううん、部屋によ。まだアンソニー殿下にご用事があるとかで、お部屋でゆっくりなさると言っておりましたわ。だからキース様を置いて一人で散歩しているのです」

「そうでしたか。あなたのことだから、粗相はしないと思っていましたが、わかりませんからね」


リアンがくすりと笑う。そこで私は慌てて令嬢に顔を向けた。


「あら、まぁ! そうだわ、自己紹介をしておりませんでしたわね。ソフィア・アレクス・ピアニーと申します。乱入してしまって申し訳ありませんわ。ですが、お知り合いできて光栄です。許していただけないかしら?」


すると彼女は目をキラキラさせ、私の手を取った。


「こちらこそ……! ええ、こちらこそ、こんなに嬉しいことはありませんわ! わたくし、エリナ・ローゼンと申しますの。もしかしたらと思いまして、再びお声がけをお願いいたしましたの! ええ、もちろん、リアン様は素敵な方ですから、結婚するにやぶさかではありませんけど」

「……?」


私は首を傾げた。彼女は何を言ってるの?


リアンがため息をついた。


「ソフィア様、アンソニー殿下にしてやられました。あの方は知っていたんですよ」

「何を?」

「彼女は憧れていたあなたに会いに来たんです。ただ、正攻法で会うには難しかったので、僕を経由することにしたんです」

「リアン……様を経由?」


どういうこと?


「彼女はですね、なかなか結婚相手が見つからないので、お見合いや舞踏会以外の用事はさせてくれないそうで……でも彼女は、ソフィア様の部屋を使って行われていた”事業”に興味があってその話をお伺いしたいがため、どうにかしてあなたにお会いしたかったそうなのです」

「私の部屋の……”事業”……?」

「夏離宮ですわ」


出た。こっちか。ウルソンではなくてこっちなのか。


「な……夏……?」

「彼女のご親戚が我が国に大使で来ております。夏離宮の使用権の話をしたそうで……」


リアンの説明から被せるように、エリナは歌うように話し始めた。


「お国は問いませんのよね? 私、非常に興味がありますの。この制度ですと、貴族だけでなく、庶民もお金を払えば会員になれると思うのです。わたくし、常々、門戸解放はしていけるところはしていっていいと思っていました。ニコラス様とあなたの伝説や思い出を、世界中で共有できるのです。それは、素晴らしいことですわ!」


私は目を瞬かせた。秘密クラブのはずなのに、こんなに有名になっちゃってどうするの? それもアンソニーの考えか。


でも、そんなこと考えたことなかった……それは外務大臣と王太子殿下と、彼らを支えた発足人の努力の結果だ。私は名前を貸したに過ぎない。私の名前があることで、計画できたということはわかるけど、伝説を世界中で共有するとか勘弁してほしい。


「私は何もしておりませんわ。お恥ずかしながら、詳しいことには携わっておりませんのよ。部屋を使っていただいたことも、ニコラス様が皆様に尊敬されていたからこそ。私ではなく、ニコラス様の思い出を共有してくださいませ。私は昔に生きた、一介の貴族令嬢でしかありませんの」

「あぁ、なんて奥ゆかしいのでしょう! わたくし、断然ファンになってしまいましたわ! またお話ししてくださる?」

「え、えぇ、もちろん……」


リアンが怒っているのではないかと、私は恐る恐る視線を投げた。


リアンは笑っていた。それはもう、面白そうに。


私は唖然とした。


リアンは怒っていないの? なら、彼女のことが気に入ったの? これは進める縁談なのかしら? 


でも、そのために来たわけではないと言ってるし、……おそらく彼女は、ウルソンやドウェインのように、理由があって私に会いに来た見合い相手なのだろう。男女なら、これが一番目くらましになる。しかし、自分も身分があることから、相手も納得してくれる人でなければならないわけで。


リアンと彼女が納得の上、成立しなかったことにするのなら、私は静観するしかない。


進めるというのなら、私は後押しをした方がいいのかもしれない。でも……なんだかすごく不安だ。リアンが誰かと結婚のは当然だと思っていたけれど……


なんで今なの? ……それは適齢期だからよ。

どうして彼女なの? ……お見合いしてるからよ。

反対しないの? ……嬉しそうにしているからよ。


ううん、そんなのわからない。笑顔の裏で、本当は怒っているのかもしれない。


私はどうしたらいいの?


リアンが喜ぶことが見つからない。


何をしたらいいのかわからない。


違う。


何をしたらいけないのかが、わからないんだわ。


そんなこと、今まで気にしたことがなかったのに。





これで第十三章は終わりです。


第十四章はソフィアの家に戻ります。


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