108 ドレスの褒められ方
「では、改めて、ピアニー家にお話を伺うことにしましょう。あなたにももう一度お尋ねすることになるかもしれませんが、その時はよろしくお願いいたします」
「ええ。ですが、……なぜこのような席を設けられたのか、聞いてもよろしいでしょうか? 魔力の話をしたいのであれば、アンソニー殿下とご相談なさった時に、ピアニー家と話し合うことが先に提案されたと思うのですが」
「もちろん、それもありました。ですが、それでは、”伝説の令嬢”の検証願いでしかない。私はソフィア様、あなたに直接お会いして、お許しをいただきたいと思ったのです。それがあなたへの敬意で、私の誠意だと思っております」
「そう……でしたの……」
”伝説の令嬢”ではなく、”ソフィア様”に、ね。すごくいい人だ……嘘を言っているのが申し訳ない。でもそうしないと、今後の計画が狂ってしまう。鏡は私で終わらせる。これは絶対なのだから。
「それに、お見合いをご提案くださったのは、アンソニー殿下でしたよ」
「へ?」
「以前も、こうして”見合い”に見せかけて非公式なお話をされたことがあったとか。ですが、その方が、腹に何か抱えたような輩を見つけやすいとか……」
あれか。『初めてのお見合い』の事だ。
「そういうことも、ありましたわね……」
でもウルソンは純粋すぎる。あのアンソニーがそんなにご立派だなんて信じない。
「でも、ウルソン様。私の考えでは、単純に、アンソニー殿下が面白いと思っただけのように思えてしまいますわ。あの方は、こういう冗談がお好きなのです」
「まさか」
男女の密会や褒められない情事については潔癖そうだが、政治については融通が利きそうだし、会員制の秘密クラブなど、意図が程よく曖昧なら目を瞑る覚悟はできたみたいだし……多分、楽しんでやってくれそうだ。それは何より。
すると、ウルソンは微笑んだ。
「私としても、大変にありがたいことですね。きっとあなたが会合のために着るドレスより、見合いのために着るドレスの方が魅力的でしょうから」
「そう言っていただけると……私もドレスアップしてきた甲斐があったというものですわ」
「えぇ。あなたの優しい笑顔にぴったりです。あなたの笑顔はとても魅力的で、私は……とても好きですよ。本当に、連れて帰りたいくらいです。ノア殿が羨ましい」
ウルソンが魅惑的に私を見た。これだけ褒められるのなら、このドレスは似合うのだろう。ヴェルヴェーヌは良い仕事をした。家に帰ったら、お礼に何かプレゼントしてあげよう。
「まぁ。お上手ですのね。苦手な色でしたけど、好きになれそうですわ」
「苦手な色で、ドレスをお作りに?」
「えぇ、……実は後見人の方に作っていただいたものなのです。侍女が張り切って選んだのですけれど、当初はピンとこなくて。最近、ようやく腕を通す気になったんですの」
「……後見人ですか」
「はい。こちらに来た時に、ノアがまだ伏せっていたものですから」
「ええ、知っております。アンソニー殿下にお話いただいたので」
ウルソンが少し考えた様子で黙り込んだ。ふと視線を感じてちらりと見ると、キースが驚愕した目で私を見ていた。
何よ? 褒められたなら、もっと喜べっていうの? でもこれで最大限よ?
私は軽く睨み返したが、キースは肩をすくめてよそを向いてしまった。ウルソンもあまりすっきりしてない顔をしているし、私、何をしたっていうのよ?
もしかして……褒められ慣れてしまった? それで、あまり返事が出来ていなかった? いや、そんなはずはない。
確かに、さっきリアンが言ってくれた言葉の方が嬉しかったけれど……
だって、ドレスを似合うと言ってくれて、笑顔が好きと言ってくれて、人としても好きと言ってくれたんだし。リアンはいつも私を褒めてくれるから、いつもと同じなのだろうけど。
でも、なんでだろう。リアンに言われた言葉は、やっぱり特別な気がする。