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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十三章
106/154

106 見合いとは

 隣国の王子は、ウルソンと名乗った。程よく日焼けし、引き締まった体つきがよくわかる。私が部屋に入るともう先に座っていて、すぐに立ち上がって挨拶をしてくれた。


「麗しの姫、お会いできて光栄です。私のような者にもお会いしていただけるとは、女神のような方ですね」


キラキラとした目を間近に見て、私は悟った。


この人、確かにニコラスフリークじゃない。だが、またしても”伝説の令嬢”フリーク。アンソニーが言ってた”憧れてる”どころじゃない。この目はただのフリークだ。結婚する気なんて、ハナからない人だ。国境の思い出とか警戒して損したわ。考えすぎるんじゃなかった。世の中はもっと単純に出来てるのよ。


私が視線を送ると、キースも何かを悟ったようで、私に同情の視線を送ってきた。


「ピンクのドレスが可憐で本当にお似合いですね」

「ありがとうございます。ウルソン様」

「わぁ、嬉しいなぁ……”伝説の令嬢”にお名前を呼んでいただけるなんて、これほど名誉なことはありません」

「そうでしょうか」

「あぁ、その儚げな笑顔も素敵ですね! きっと言われ慣れているのでしょう、退屈させてしまって申し訳ありません」

「え?! いえいえ、そんなことございませんわ。そう言っていただけると、この肩書きも活かせるというようなものです」


私が言うと、ウルソンは快活に笑った。


「そうでしょうね。あなたにとっては、一つの肩書きに過ぎない。そういったあなたも、私たちにとっては眩しい限りなのですよ」

「だといいのですが」

「私があなたにお会いできるのは、こうした場面でしかありません。ですので、アンソニー殿下には強引にねじ込んでいただいてしまって、申し訳ありません」


……?


私は側に仕えているキースに目を向けた。キースは首を横に振った。


へぇ。知らないんだ?


「ねじ込む、とおっしゃいますと……?」

「私は王子ですが、王位継承権は低く、到底王になる立場ではありませんし、その器もありません。その分、国のために動けると思い、様々な情報取集を行っています」

「……そうなんですの」

「夏離宮の話も、早くからアンソニー殿下はお話くださっていました。ですので、創成にはご協力できたと思っております。我が国は魔法を広く普及させている国ですから、殿下はあなたの相談を主にしてくださって、有用な話し合いができたと思っております」

「まぁ」

「特に夏離宮は、あなたが関わっていると知り、非常に興味が湧きました。あなたが鏡の中にいたという話です。私たちの間では、あなたは眠らされていたと教えられています。ですが、鏡の中の空間にいた、ということですよね。鏡の中にいたということは、魔法の影響を強く受けていると考えられます。あなたは魔法が使えるのでしょうか? 鏡と同じように? それとも、鏡から何らかの力をもらっているのですか?」


ウルソンがワクワクした目で私を見た。


どいつもこいつも。私と本気で見合いしたい人はいないのか。それともそういう人ばかり許可してるのか。


ええ、もちろん、別にね。断るつもりでしたけど? 解せないわ。


「……何も」


私は申し訳なく思いながらウルソンに答えた。


「何もないのです。あの鏡は呪いで私を中に留めました……ですが、それは、私がこちらに戻ってきてしまえば、消えてしまうものでした。そして、百年もの間、長いことそちらに魔力を使い……何も……できなくなっておりました。そして私も、何も担うことなく、ここに存在するのです」


落ち着き払ったキースの視線に緊張が増した。事情を知らない誰も、この話を聞いてはならない。どんな侍従でも侍女でも。だからキースをよこしたのはわかる。でも、アンソニーは細かい指示はしていなかったのかも? 何言ってんの、と言われているような気がする。


でも仕方ないでしょう、こう言うしかないもの。鏡の力はなくなるのだし、私に魔法の力があっては困るのだ。例え鏡の呪いを引き受けているだけだとしても。


「まさかそんな……! 確かに、百年前に生きておられた時に、魔力は持っておられなかったのでしょう。ですが、これほどまで長いこと魔力にさらされたのなら、どこかで影響があるはずです。鏡に願いをかけた者、全てが影響されていると言っても過言ではありません」

「申し訳ありません、ウルソン様。本当にそうなのです」

「そんな……理論的にはあるはずだ。私はそれを検証したいと思っています。むしろ、アンソニー殿下に頼まれているんです。あなたをこちらに引き戻した、えーと、なんて言ったかな……あぁ、ワグレイト公爵家のリアン・フルート・ド=マガレイト殿も対象になっています。魔力があなたにあるなら、きっと彼も影響を受けているはず。もちろん、ごく微量とは思いますが。我が国で確認する必要があるし、あなたが蝕まれないように、影響を調べなければなりません。何らかの……影響が……例えば、眠れないとか、眠すぎるとか、夢を見るとか?」


私はこの話をここで終わらせることに決めた。


リアンを実験台にするわけにはいかない。


リアンは私の”呪い”を知らない。リアンの願い事を叶えなければ、リアンに縛られてしまうことを。もし知ってしまったら、彼は罪悪感で苦しむだろう。私の意志で同意してるわけではないこともあるから。


それに、知られたら、リアンが信じてくれなくなるかもしれない。私がリアンを褒めても、それが自分が褒めて欲しいと思っているからだと勝手に解釈して、私から離れていくだろう。せっかくそばにいると決めたのに、そんなの、ごめんだ。


私は再び申し訳なく微笑んだ。


「いいえ。ありません。私は至って健康なんですの。もしかしたら、……私が健康でいられるために、全ての魔力が使われてしまったのかもしれません。私から、感じることができますか?」

「やってみましょう。私も多少は魔力を感じる力が強い方です」


私は少し緊張したが、ウルソンが手を私にかざすのを落ち着いて見た。あの魔法は常に私を取り巻いてるわけではないはず。私がリアンの願いを叶える時にだけ、発動する。おそらく、その時でしか、感知できないはずだ。


思った通り、ウルソンは自分の手を見て、頭を抱えた。


「なんてことだ……ありえないことではないが、しかし……稀なことだ……」


そうね。今の所、嘘だからね。でもこれから本当になるから。私はただ黙って微笑んだ。


「検証ができれば、魔法の研究が飛躍的に進歩する可能性もあったのですが……ないのですか……あ! でしたら、鏡の方は? 家宝の鏡の方はどうなのです? 願いは叶えられなくなったかもしれません、ですが、残存魔力から、気配がわかるかもしれません。ごく微量でも、大いなる魔法の発信源、そして由来がわかるのですよ! もしかしたら、大魔法使いが実験に実験を繰り返し、大いなる力に目覚め、それを封印したのかもしれません。これは歴史的に見て非常に大きな出来事です!」


ウルソンが嬉しそうに興奮して身を乗り出した。


私は聞きながら、だんだんと血の気が引いてきた。


鏡、バリバリの現役です。こないだだって私と話したし、”記録”という思い出もある。由来も教えてくれた。あの鏡が国外に出て、研究なんてされた日には、余すところなく、あの鏡の過去がわかってしまうだろう。


何百何も前の、どこにでもある領地の片隅で起きたような、よくある領主とお抱え魔法使いの小さな命令だ。


そんな思い出を、私が、別の人が、いまさら知ってどうするの?


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