見つかった弱点、変わらない思考
ーー水仙の家大片付けプログラム終了後。
水仙は一息つくと気が抜け、腹が減り始めた。
「腹減ったし、なんか食いに行くか」
いつもなら独り言になるただのこの言葉に今は声を重ねてくる奴がいる。
「それなら僕も行って見たいかな」
「ん?喇叭、お前って飯食えるのか?」
「多分食べることは出来ないけど、雰囲気を少しでも味わって見たいじゃないか」
「そういうもんなのか?まぁ別に良いけど」
またもや答えになっていない答えが返ってきたがもう気には、止めずリュックを肩に掛けて外に出る。
玄関から出て数歩歩くとあまりの日差しの強さに水仙は、思わず目を細めて空を見上げる。
先程まで曇っていたのが嘘のような晴天だ。
あまり陽の光が好きでは無い水仙は、体が垂れてしまいテンサョンも下がってしまう。
だが背に腹は変えられない。家の食料はもう完全に底を尽きている。
少し重たくなった足取りを前へ前へと進める。
そして気を紛らわせる為に後ろを飛んでいる筈の喇叭に声を掛ける。
「なぁ、喇叭のいた世界ってどんな感じだったんだ?」
喇叭が一年後の自分という事自体は、疑っていない。
だがここまで性格や容姿が違うと他にも何か違う事があるのでは、無いだろうか。
気になっていたが聞くタイミングが無かった質問をしてみる。喇叭の返事は無い。
不思議に思い、水仙はもう一度声を掛け、振り返る。
「おい喇叭?返事くらいしろよ」
本来喇叭が居るであろう方向に投げられた声。
だが声が投げられた方向に喇叭は居ない。
当の喇叭はと言うと、下に突っ伏すような形で苦しそうに呼吸を繰り返している。
先ほどの言葉に呼応し、水仙の方を見上げた喇叭が、
「はぁはぁ、僕……日光弱かった、らしい」
そう言うと、顔から力が無くなってそのまま地面で寝ている。
水仙は、喇叭の方へ駆け寄り、抱き上げて家まで運ぼうとするが触ることすら出来ない。
「おい、大丈夫か?喇叭お前消えるなよ?」
必死に叫び、揺することのできない体を揺すろうとする。すると、喇叭から細い声が帰って来た。
「影をーー影を作って、欲し、い」
その言葉を聞いた水仙は体とリュックを最大限に利用して喇叭のいる場所に影を作る。
少し落ち着いてきたのか喇叭は、呼吸を整えてゆっくりと立ち上がり、家の方向へ向かって歩き出す。
それに合わせて水仙も自分の作っている影を移動させる。
アパートの影になんとか到着し、喇叭と水仙は、一息つく。
「ごめんね、僕日差しに弱いなんて初めて知ったよ」
『ははは』と乾いた笑いを見せる喇叭がその場で横になっていた。
数分後。
どうやら少しは、落ち着いたようだ。疲労感のある顔がゆっくりと余裕のある表情に変わっていく。
水仙も喇叭のその顔を見て安心し、額の汗を拭う。
喇叭の事を知らないのは喇叭自身も同じのようだ。
水仙の家に二人がもう一度帰る。
「にしてもさ、日光がダメなんてかなり行動制限されねぇか?」
「そうだね、さっきは曇っていてたから外に出られたんだろうし、まぁ気をつける必要はありそうかなぁ」
「外に出られるのは、夜か晴れていない日だけって事か」
水仙と喇叭は、喇叭のこれからが心配なってしまう。これから同じ事が起きないように予防策を練ろうにも何が出来て何が出来ないのか知らない事が多すぎる。
「取り敢えず僕は家にいれば特に問題ないと思うから、君は何か美味しいもの食べて来なよ」
喇叭はそう言って笑みをこちらに向けていたいたが、その顔は本人が気付かない程僅かに悲しさを帯びていた。
水仙はその顔を読み解けたからこそーー
「おう!行ってくるわお前も安静にしてろよ!」
明るく喇叭の感情に気づいてないふりをした。それが水仙にできる最大限の気遣いだった。
性格は違えど、やはり色々と似ていると感じることも多い。
癖のようなものなのだろうか。
辛い時こそ周りに心配をかけさせないように笑って見せるのは変わらない。
そしていつもこんな時、水仙なら一人になりたがる。
だからこそ水仙は笑って、出掛けることにした。
水仙が出て行った後、一人家に残っている喇叭が小さく呟く。
「やっぱり僕は日陰で彼を応援する事しか出来無いか」
自分自身を嘲るように再び乾いた笑いが室内に響く。
この世界が喇叭の居るべき場所では無いのだと痛感させて来る。
だがこの世界にはまだ喇叭の残る理由がある。
その理由を果たすまでは死んでも死ねない。
この世界で、喇叭をそうまで思わせる少女。
彼女は今も尚ーーずっと待っている。