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一年後の今日君は、死ぬ。  作者: ハコベラ
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初めての出会い、成長の別れ



ある冬の寒い日。

蕺家は、待望の子宝に恵まれた。

それは、それは、可愛い男の子だ。

その男の子は、水仙と名付けられすくすくと育った。

水仙は蕺家の一人息子として大切に育てられたが、やんちゃで好奇心旺盛な性格な為、外に遊びに行ってはすぐに怪我を作り、両親に心配をかけてばかりだった。

だが、そんなことが続いていくうちに両親はそれすらも楽しむようになっていった。

食卓で水仙が今日は何処の誰々君と遊んだのかや、何をして怪我をしたか、など水仙自身が楽しそうに話すのを両親が優しく聞きいる。

それが蕺家の日常であり、三人にとっての一番の幸せな時間であった。


そんな日々が続き、月日が流れ幼稚園を卒園した頃にお祝いとして自転車を父から買い与えてもらった。

水仙は、その自転車をわずか二日で補助輪なしで乗りこなしてみせた。


一人で自転車に乗れたことが嬉しくて、母の買い物を積極的に自分から申し出たり、休日に父と公園まで出かけることが続いたある日ーー水仙は、一人で旅に出ることにした。

その頃六歳だった水仙は、なんでも一人で出来る様な、謎の自信と自立心に駆り立てられたのだ。


お気に入りのリュックに大好きなおやつを詰め込んだ。ゴールは、ない。一人旅に出る。

そんな、この歳にしては少し大人びた遊びだ。


水仙は、感動した。


自分の知らない景色を初めて見て、通ったことのない道を初めて通り帰った頃には、少し自分が強くなった気がして、水仙はその魅力にはまり暇さえあれば一人旅をするようになった。


そんな事を繰り返すようになり、1年ほど経った頃、水仙が今まで旅をしてきた中の景色。その全てを霞ませる程に、綺麗な光景を目の当たりにした。

それは人通りの多い道路を逸れて、山道のさらに奥、林を抜けた先にある高台。

その場所に広がる景色。見渡す限りの桜の木々が花びらを散らし、街を見下ろすことができる。そこにポツンと置かれた背もたれのないベンチ。吹き抜ける優しい風が水仙の頬を撫でる。


水仙は、その歳では説明出来ない優越感に浸っていた。辺りを見回し誰もいない事を確認する。その行為に特に意味があるわけではない。だがこの景色は、今自分のためだけにある。その事実が水仙にとって堪らなく嬉しかった。


十分に景色を楽しんだ水仙は、心に決める。

この場所は父や、母にも内緒で自分だけの秘密の場所にしようと。

今日はまだ時間はあるが十分に満足したと、家路につこうとする水仙。振り返り山を下ろうとしたその時、誰かが近づいてくる足音がした。数秒して、あどけなさの残る声が聞こえる。


「ねぇ、そこでなにしてるの?」


そう質問したのは、水仙より歳が一つか二つほど下の白い髪を長く伸ばした少女だ。まじまじと水仙を見る瞳は、少し潤んでおり不安と好奇心が混在している。

それに対し水仙は少女を少し煩わしそうな顔で見ている。自分だけの場所じゃなくなったのが余程嫌だったのか、水仙はあからさまに顔を顰めて、不満を直球にぶつける。


「だれだよ!そっちこそ、なんでいるんだよ」


声を荒げ敵意むき出しの水仙に、少女は頭の上に疑問符を浮かべて、またもや質問する。


「ここにきちゃいけないの?ここは、あなただけのものじゃないでしょ?」


正論だ。年下に言い負かされて水仙はさらに不機嫌になり、癇癪を起こし始める。


「うるさい、うるさい、おれが先にここを見つけたんだもん!だからここは、おれのものだ!」


と、言い放つ傲慢な水仙の態度に対し、少女は、落ち着いた様子で水仙に反論する。

子供の喧嘩というよりかは、子供の我儘を宥める母親と聞き分けのない子供。そう言った方が適切に感じる二人のやりとり。これでは、どちらが年上なのかわからない。


完全に言い返せなくなった水仙は、近くにあったベンチの端に腕を組んでどっかりと腰を据え、頬を膨らませて、不機嫌アピールをする。やがてその様子をジッと見ていた少女が水仙の座っているベンチに近付き、水仙の座った逆の端にちょこんと座る。


二人が同じベンチに距離を開けて並んで座る。二人の間を爽やかな風が吹き抜ける。


そんな状況から十数分が立つ。子供の癇癪なんて大概は、どうでもいい事だ。綺麗な景色を見ていた水仙は、自分が何故あそこまで不機嫌だったのか分からなくなってくる。

水仙はチラチラと横目で隣に座る少女を見た。少女はただただ穏やかな表情で街を見下ろしている。


「さっきは、いやなこと言ってごめんな」


水仙が、少し悪びれた表情で心から申し訳無さそうに謝罪する。それに対し少女はにっこりと屈託のない笑顔を浮かべて、


「いいよ!そのかわり、きみのお名前おしえて?」


そう告げてくれる少女に、少し間が空いてその後水仙もにんまりと笑って、


「おれの名前はすいせんだ、お前も名前……おしえてくれ」


自分の名前を教えた後、少し照れくさそうに少女の名前を聞く。相手の名前を知れて嬉しそうな少女は、元気に笑いながら、


「わたしの名前は、あやめっていうの、よろしくね、すいせん!」


大きな声で水仙に、返答と挨拶を行う。それに対し、水仙も大きな声で挨拶を返す。


「おう、よろしくな!あやめ」


水仙と菖蒲は、こうして、初めて出会った。

その後リュックに詰め込んだお菓子を菖蒲と二人で食べた。その味は、一人で食べた時の味とは全く違う、幸せの味がした。


街を二人で見つめていると菖蒲が思い出したかのように『あっ』と声を上げた。

少しモジモジとしながら、あのね、と自分がここにたどり着いた理由を話し始める。


「おかあさんとおとうさんといっしょにピクニックにきたんだけど、ちょうちょさんみつけてそれでおっかけてたらおかあさんたちいなくなっちゃって、、、」


喋っていたあやめの表情がだんだん陰る。少女の白い小さな手に大粒の雫が落ちていく。

水仙は、そんな菖蒲を見てわたわたとした後に首を振り決心したように唾を飲み少女の手を引く。


「おれがいっしょにさがしてあげるからなくな」


少し不器用だったが水仙なりの優しさだった。

林を抜け山道に戻るとあっけなく菖蒲の両親は、見つかった。

親子三人で抱き合って喜んでいる姿を見ていると、無性に水仙も両親が恋しくなる。


菖蒲の両親に何度もお礼を言われ、菖蒲ともまた今度ここで遊ぶ約束を取り付けその日は、家路に着いた。

それからと言うもの、毎日、毎日、初めて二人が出会った場所ーー二人の秘密基地と安直に子供心で名付けたその場所で会うようになった。


今日は菖蒲とどんなお菓子を食べようかと考える事、秘密基地で菖蒲が来るまで景色を眺めている事、次はどんな遊びをしようか相談する事、菖蒲といろんな話をすること。

その全てが水仙にとって、初めての体験で有り衝撃的な楽しさであった。だからこそこんな日々がずっと続いて欲しいと思っていた。


ーーそんな毎日が続き、菖蒲と出会い丁度一年が経ったその日


菖蒲の様子がいつもとは違う。一緒に遊んでいても時折、どこか暗い、物悲しそうな表情を浮かべていることがあった。気になりはしたものの菖蒲自身もいつも通り楽しそうな表情を見せていたのでその突っかかりも消えていった。


そして日も暮れ始め、何時もならまた明日と、元気に手を振る時間だ。

『じゃあ、またな!』いつも通りそう菖蒲に声を掛けようとした時、急に菖蒲の瞳に涙が溜まっていった。


「どっ、どうしたんだよ?」


慌てて近寄り泣いている理由を聞こうとする水仙。嗚咽を繰り返し眼を手で擦りながら、ゆっくりと口を開く菖蒲、


「あのね、パパの、おしごとするところにね、いっしょに、ついて行くことになっちゃったの」


要するに転勤だ。が、まだ8歳の水仙には転勤のことなんて分からない。だが目の前の少女の瞳に映る物悲しそうな様子から、少しの間会えないのだろうと幼いながらも悟った。


「そっか、もうあやめとは会えなくなっちゃうのか?」


不安そうにゆっくりと言葉を投げかける。

その言葉に対し、菖蒲は小さく首を横に振った。そして、


「また一年たったら、このまちにすこしだけもどってくるの。だから、そのときはまたいっしょにあそぼ?」


水仙は、その言葉に顔を明るくして声を振り絞って見せる。


「そっか、じゃあまた来年だな!また会えるのか、楽しみにまってるぞ、げんきでな!」


菖蒲もそれに対し、もう一度涙を拭うと初めて名前を聞いて来た時と同じ笑顔で、


「うん!すいせんもげんきでね!」


約束した後、菖蒲が手を振り走って帰って行く姿を見届けた後。水仙は、我慢していた感情を吐き出した。

ーーベンチに座り、一人泣いている水仙を風は優しく慰めてくれる。


菖蒲の前で自分が泣く姿を見せないように堪えて見せた水仙の顔つきは、心なしか少し大人になっていた。

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