決められた未来、類似する幽霊
急に意味のわからない発言をした不審者。
あれから沈黙が続いている。水仙は、不審者から目を離さずにゆっくりとベッドの横にある眼鏡に手を伸ばした。
眼鏡を掛けて、不審者を見る。水仙は驚きを隠せない。
そいつは、真っ白の死装束を着ているのだが体ごと透けていて、向こう側の壁がうっすらと、見える。足首から先がない。それだけでも自分の目を疑う。だがそれだけでは、終わらなかった。顔が自分とほとんど同じなのだ。違いと言えば、水仙より少し穏やかな顔つきな事と髪が金色な事くらいだ。
ーーそう、これは、きっと悪夢なのでだろう。
想像してみてほしい。買い物へ出かける途中に、ぶっ倒れて起きたら目の前に自分の幽霊がいて、余命宣告。キャパシティオーバー、意味不明だ。失神して当然だと思う。
まぁつまり、再び気を失ったのだ。
ーー数時間後
水仙は、2度目の気絶から目を覚ました。
窓の外はとっくに暗くなっている。
先程の悪夢が正しく夢である事を強く願った。
意を決して、ゆっくりと首を右に傾ける。誰もいない。セーフだ。
次にそのまま首を左に傾ける。
ーー居た。
アウトだ。短く淡い願いは、砕け散る。
こちらをじっと見ていた幽霊。話しかけようか迷っているのだろうか。少しモジモジしている。それに対し、露骨に嫌そうな顔をしてみせる。そして、このままこいつを無視していればいつか消えてくれるのでは、無いだろうかと思い、無視すると言う単純な作戦を決行する。
俺は、もう一度右側に向き直り、幽霊へ背中を向けて、病室に備え付けてあるテレビの電源を入れる。画面には、昔よく家族三人で見ていたバラエティ番組が放送されていた。
懐かしい気持ちと切ない気持ちに板挟みにされて、もどかしくなる。チャンネルを変えようと再度リモコンに手を伸ばそうとした瞬間、背中から明るい、自分に酷似した声が聞こえてくる。
「これ、懐かしいね。昔家族三人で、よく見てたっけ?」
虚をつかれた。
あいつは、どこまで知っているのだろう。この番組をもう家族三人で見ることができないことは、知っているのだろうか。その原因が俺自身である事も、知っているのであろうか。
思い出しただけで無性に腹が立つ。
眉間にシワがより、頭に血がのぼる。それでも夜に、しかも病院で叫ぶことなんて許されない。俺は、激昂した声で静かに、幽霊に言い放つ。
「マジで何なんだよ。俺の日常を踏みにじって楽しいのかよ?お前がどこまで俺のことを知ってて、何が目的でこんな嫌がらせしてるのか知らねぇけど、頼むから消えてくんねぇかなぁ?目障りなんだよ」
胸の中にある靄の様なものが退いていく、無視作戦は、失敗に終わった。だが本心を言えた。すると、幽霊にも、変化が見られる。穏やかだったはずの顔がだんだん強張り、
「ねぇ、君の言う日常は、楽しい?毎日毎日ゲームして、ご飯食べて、寝る。その繰り返しが楽しいの?」
一番抉られたくなかった場所を的確に抉る質問を放って来る。
ならばこの幽霊に何か出来るのだろうか。俺の日常を非日常に変えてくれるのだろうか。
出来るものなら、
「じゃあお前が変えて見せろよ。一年後に俺が死ぬ?それでも良いぜ。その代わり、死ぬ直前に俺が楽しかったと思って死ねるならな」
そう言い放つと、自分そっくりな幽霊は、満面の笑みを浮かべて、
「分かった。君に後悔は、させない。必ず君が納得する死ぬ理由を与えて見せるさ」
言葉を投げかけてくるその姿は、今の自分とは全く違うものの、何故か一年後の俺自身を見ている様な、そんな感覚に陥った。
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