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契約書

まずは前段階の契約書を作ります。


ばあちゃんは呆れながらも僕の提案に乗ってくれた。

それからすぐに会社に連絡を入れたんだ。そしたらさ、上司の神谷さんが契約における注意事項があるからって、すぐに来てくれたんだ。

できる上司はちがうなぁ。


まあ、会社から100mも離れてないからな!

それにこれからは病院(ここ)が職場になるんだ。


上司とともにばあちゃんの病室に入る。


こんこんこん。

ノックしてドアをスライドさせる。いつものように顔だけ先に入れてのぞきこむ。

あ、起きてる。


「ばあちゃん、具合はどう?」


中に入りながら後ろから入ってきた人をばあちゃんに紹介する。


「ばあちゃん、この人が僕の直属の上司の神谷さん。課長、ばあちゃんです」


紹介したのにばあちゃんが顔を顰めてる。なんでだ?


「すみません。孫が挨拶一つまともに出来ないようで。私は祖母の藤野江雪と申します。このような格好で挨拶をするのは大変失礼だとは思いますが、不自由な身体ですので寛恕下さいますようお願い致します」


ばあちゃんは何だかよく分からない言葉で課長に挨拶している。

寿限無かな?


課長も苦笑いしながら、ばあちゃんにこたえた。


「いえ、こちらこそ無理を強いてしまったのではと。神谷次郎と申します。開発二課の課長をさせてもらってます。仕事について少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」


仕事は説明したんだけどなぁ。


僕の顔を見て二人はため息をついていた。なんでだ?


「ええ、私もいくつか質問があったので。よろしくお願い致します。圭吾、椅子をお出しして。どうぞそちらに」


あ、うん。椅子ね。椅子……きょろきょろしてると課長は自分で病室の隅にあった椅子を持ってきて座った。僕のは……無いから後ろで立っていよう。


「圭吾、お茶をお出しして。あ、コーヒーの方がよろしかったでしょうか?」


「お構いなく。藤野、おばあさんのベッドは少し起こせるか? 書類やこれからの契約に必要な説明をしたい」


課長にいわれてばあちゃんのベッドを少しだけ起こす。普通の人みたいに背もたれのようには起こせない。力が全く入らないばあちゃんは座る事さえ無理だから。


少し身体を起こしたばあちゃんに課長は書類を見せながら説明をはじめた。


まずは仕事の内容。

このベッドのままヘッドギアをつける。

その時、身体の状態を見るために色々な計器をつけること。

身体が睡眠状態になること。

ただし、脳内でいろいろ活動させるのでかなり疲れること。

仕事中は看護師と会社の人間がそばにつくこと。

圭吾がナビゲーターとしてつき、そばでPCのログを確認及びゲーム上の質問を受けること。

不具合や感じたことを申し出ること。

時間は午前中は9時から正午までの三時間。

昼の休憩と身体の手当て、その他で三時間。

午後は3時から6時。合計一日六時間、週に四日、月火木金。

この病院にかかる費用は全て会社持ち。時給は千円。


などなど……なるほど言っていないことがたくさんだ。


一つ一つ丁寧に説明を終えると質問は無いかと課長がばあちゃんに問う。

するとばあちゃんは少し考えてから言った。


「圭吾からきいていると思いますし、見ても分かるように身体が全く動きません。あとゲームときいていますが、このような機械を使ったゲームというものをしたことが有りません。それでもこれだけの設備と看護をしていただいてなおかつ給与というものがいただけるのですか? それで成り立つのですか?」


ばあちゃん……大丈夫って言ったのに。



課長は真剣な顔でこたえていた。


「成り立つんです。中々この状態の方に仕事をお願いする事が出来ませんから。ただし、一つだけ了承して頂きたいことが有ります。不自由な方にいうのは酷かと思いますが。何らかの事故による生命の危険もあると言うことです。その時、異議を申し立てないこと。それを確約して頂きたいのです。先程説明したとおり、脳にかなりの負荷がかかるかも知れません。健康な方なら大丈夫な事でも貴女のような四肢の不自由な、また病気を抱えている方への負担はまだ分かっておりません。その為にこれだけのものを用意しております。いわば人体実験でもあるのです」


真剣な課長の言葉を一つ一つ頷きながらばあちゃんは聞いていた。


「そう……ですか。ええ、納得出来ました。確約書を書きます」


はっきりと言い切ったばあちゃんは僕の方をみた。


「圭吾、あなたは分かっているの? 何かあったらばあちゃんは命が無くなるかもしれないわよ」


うん。知ってる。僕はうなづいた。


「分かってるよ。だからそばに僕はいるんだ。それに何もしないばあちゃんは死んだような眼をしてた。今はしっかりしてる。生きてる眼だよ。ばあちゃんにはあんな眼をしたまま、死んだようなまま……そのまま死んでしまうような気がする。身体は病院で見てもらえるし、僕はそれ以外のサポートを頑張る。ベッドにいても生きてるばあちゃんでいて欲しい」


涙がでてるけど気にしない。あのまま死んでしまうより、僕と一緒に生きて欲しいから。

それに……いや、確実じゃないことは今は言わないでおこう。




それから一度会社に戻って正式な契約書と確約書を用意することになった。


会社から正式な契約書を用意されて、病院に戻ると病室にはたくさんの機械が設置されていた。


医師や弁護士、課長らがやってくるとビデオも回し始めた。

契約書はよみあげられ、ばあちゃんはその度に了承したことを告げる。最後にペンでサイン。ただそれは読むのにも苦労するようなものだった。

ああ、それで撮影もしたんだとわかった。


そして来週からばあちゃんと僕のゲーム生活が始まる事になった。

こちらは孫の視点で書いています。

読んでいただけると幸いです。

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