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ゴブリン編 外伝 開幕

 あれから二ヶ月と少しが経ち、群れに慣れるころにはジャレスとの会話はかなりスムーズなものになっていた。


 今は毎朝恒例のゴブリンたちとの模擬戦を行っている。基本的に五人ほどのパーティーとあたしたち二人の戦いで、ゴブリンたちに人間との戦い方を学ばせることが狙いのようで、鎌爪状槍ビルという二足歩行の相手限定で使えそうな武器まで開発しているところに、その本気度がうかがえる。

 この鎌爪状槍ビルという武器は、単体ならば対処は可能だが他の前衛がいた場合や、後衛からの投擲、特に顔や上半身などを狙われた場合などは、注意が分散させられて途端に対処が難しくなるのだ。

 ジャレスがその結果を見て、満足そうにしていたことが心底悔しい。


 それ以外にも、村の周辺で狩りをすることもある。最初に森へ入るときは恐怖を感じたが、しばらく慣らせることで今では問題なく狩りを行えている。それでも通常種の刀角鹿(ソードディア)と遭遇した時は、鼓動が跳ね上がった。


 その後、村の防衛施設の強化をするに当たり必要な木の運搬などをして、お昼になると小屋から居住を移した、通りに面する民家でジャレスとともに昼食を取りながら話をする。

 わざわざ居住を移したのは、この村において今まで監禁されていた小屋は、ジャレス命名強者の森に近く、刀角鹿(ソードディア)の変異種の夢を見て飛び起きることがあったので、環境を刷新する意味でも民家で暮らすようになったのだ。

 昼食時の会話はそのまま午後まで続き、会話で一日が終わってしまうこともあるが、今日も予定がないようでそうなりそうだ。

 とはいえ、それはジャレスの知識欲を満たすためにやっているようなもので、一種の授業のようなものだ。


「冒険者ってなんだ?」


 今日は冒険者に関する話から始まる。


「依頼を受けてお金をもらってたわ」


「はあ、それだけじゃわからないでしょう。冒険者ギルド、通称ギルドという組織に属している人たちを指す言葉よ。ギルドでは冒険者を貢献度、これは強さと言い換えてもいいわ、それによって七段階に階級が分けられていて、そのランクに応じた依頼を冒険者に仲介するの」


「依頼やランク?」


「依頼は個人や団体、国やあるいはギルドそのものから出されるもので、魔物の討伐や薬草なんかの採取、町を移動するときの護衛とか種類が多いから特定のなにか、というのは難しいわね。階級は上からS、A、B、C、D、E、Fに分かれていて、大体強さに直結しているわ。魔物の討伐なんかは特に階級ごとに分けられやすいわね」


『アルファベット?』


 ジャレスはランクの話になるとよくわからないことをつぶやいた。ゴブリンの言葉のような感じでもないし、何と言ったのだろう。それにしても、こういう話になると大体置いて行かれているような気がするのは気のせいだろうか。


「階級の区分けは何をもとにしてできたんだ?」


「たしか、昔の勇者が広めたものだったはずよ。なにがもとになったかまでは分からないけれど」


「勇者ならわかるわ。昔ダンジョンを破壊して平和を作った人よ」


 かなり昔の人なので細かいことはわからないが、凄まじい強さを持っていたという話は伝わっている。そして、冒険者の祖としても有名な人物だ。


「ダンジョンって?」


「冒険者の憧れの地、魔物とお宝が眠る異世界よ」


「ダンジョンは、世界に三つあったといわれている異世界への扉みたいなものよ。ルーシーが言ったように一つは、勇者によって破壊されたから残り二つだといわれているわ。ダンジョンの中は洞窟だったり、太陽に照らされた平原だったり、階層を移動すると景色が一変するから異世界だといわれているわ」


「なぜ勇者はダンジョンを破壊したんだ?」


「ダンジョンが冒険者を駆り立てる危険なものだからよ」


「それが良くわかっていないの。ダンジョンから魔物が這い出てきて地上を征服しようとしていた、とか言われているけど他の二つのダンジョンではそんなことが起こっていないから、ダンジョンによって性質が違うのか、それとも破壊した後に理由を付けたのか、今でもわからないのよ」


 ……さっきからあたしの発言はスルーされている気がする。


「なら勇者は何者なんだ?」


「勇者のことはわからないことが多いの。一般的には神様が遣わした救世主、聖パンゲア教では使徒とも呼ばれているわ。聖パンゲア教は聖をとってパンゲア教の呼ばれる方が多くて、西大陸で生まれた人間救済と魔物討伐、教義によっては亜人排斥も掲げる一大宗教よ」


 大陸については前に話していて、今いる大陸のほかに西大陸があることが知られている。


「ふーむ、聞けば聞くほどわからないことが増えていくな」


「難しく考えすぎなのよ。全部知ろうとするんじゃなくて、まず必要なことだけを知っていけばいいわ」


「……ルーシーに正論を言われるとは」


「どういうことよそれ! あたしはいつも結構正しいことを言ってたわよ。そうよね、イヤンテ?」


「……ええ、そうね」


「ちょっと、今の間はなによ!」


 そういうと二人はそろって笑い、それにつられてあたしも笑うのだった。



 別の日には技能スキルについての話をした。


技能スキルというのは、人間や魔物を問わずに何らかの行動をするとそれに準じて発現する力よ。剣を振っていれば剣術技能スキルとか、料理をすれば料理技能スキルなんかを習得して、習得した技能スキルは使用するほどランクが上昇するの」


技能スキルはどうすれば確認できるんだ?」


「人間だとギルドか教会が一般的ね。でも、ゴブリンはこの二つじゃできないだろうし、『解析』の技能スキルや特殊な魔眼があれば見れるんだけど、やっぱりこれも難しいわ」


「むぅ、見てみたかったんだがしかたないか」


「あたしのギルドカード見る? 長いことギルドで更新してないから、ちょっと前の情報になっちゃうけど」


 そういうと、懐からギルドカードを取り出し、興味深げに身を乗り出しているジャレスに渡した。


 名前 ルーシー

 種族 人族

 職業 剣士

 階級 E

 能力 魔法技能 

    武術技能 片手剣術

    補助技能 解体 回避 採取 察知 料理

    特殊技能


「ギルドカードじゃランクを見れないからこれだけしか書いてないわよ」


「魔法技能はわかるが特殊技能ってなんだ?」


「特殊技能はランクのない技能スキルで、種族特性とか才能が必要であんまり習得できない技能スキルのことよ。たしかゴブリンは『夜目』の特殊技能があったはず」


「ゴブリンが持ってると、途端にありがたみが薄れるな……」


「あたしは一つも持ってないのに、贅沢なこと言っちゃだめよ」


「ふふ、あなたなら他にも特殊技能があるかもね」


「それにしても、技能スキルの更新はすぐにできないんだな」


「ああ、技能スキルはひとつひとつをさして、この場合は能力(ステータス)っていうのよ。ギルドに行っても、能力(ステータス)の更新は昇級の時かそれ以外だと有料でしかやってくれないのよね。これは教会でも同じよ」


「教会の場合は、五歳の洗礼の時に無料でやってくれるうえ、普通に確認したいときは、ランクを含めた能力(ステータス)が書かれた紙を発行してくれるわよ。」


「どっちも俺はできないわけか」


 珍しく少しへこんでいるようだ。魔法を使える望みが薄いって言った時でも、あまり気にしてなさそうだったのに。あたしがそう言われた時はかなりへこんだ。いや、これでへこむのは大体の人に共通するはずだ。


「どうにもならないことを気にしてもしょうがないな。次は技能スキルの種類について教えてくれ」


 すぐに切り替えて、いつものように質問を続けてきた。そしてこれまたいつものように、今日も一日こんな風に会話で終わりそうだ。





 そんなのどかな生活がひと月ほど続いたある日、似つかわしくないゴブリンの鋭い声があがった。


『グギャァ』


 丁度朝の模擬戦が終わり、休憩していたところだった。長くゴブリンたちと一緒にいるおかげか、明確な意味までは分からないが、尋常ではない事態が発生したというのは理解できた。

 その声を聴いてすぐにイヤンテとともにジャレスのもとへ向かった。


「慌ただしいけど、どうしたの?」


「人間が来た、お前たちはどうする」


「えっ、戦うことになるの?」


「囮を送り出したから、それを追いかけてきたら殲滅する。ゴブリンの巣が見つかると討伐も検討されるんだろう」


「そうなるでしょうね。わかったわ、協力させて」


「……そうね、ジャレスたちを見殺しにはできないわ」


 ジャレスもイヤンテもいつかこのような事態が来ることを、いつも言っていたので全く想定していなかったわけではないが、いざゴブリンに味方して人間へ刃を向けることに対して躊躇を感じた。ゴブリンたちとともに狩りをすることや、ゴブリンを助けることへの抵抗はないが、いざ人間が相手だと思うと、そして必要に駆られれば人間を殺すことになると考えれば、素直に割り切れない部分がある。

 あたしと違いイヤンテは、必要ならば人間を殺せる覚悟を持っていたようだ。この村で暮らすならば、その覚悟を持っておかなければならなかった、という事かもしれない。それでもあたしは、この村のゴブリンに死んでほしくはないので、その時が来ればきっと戦うだろう。


「別に矢面に立たなくてもいいが、もしかしたら重要な仕事をしてもらうかもしれない」


 決意をして発した言葉はしかし、ジャレスによって拒まれた。あたしたちが、同族を殺すことに葛藤を感じているのを分かっているのだろう。

 必要になれば戦いに出ることを決意しながら、ジャレスの指示通り家屋の陰に隠れて表の様子をこっそり窺った。

 ジャレスのもとには、指示を仰ぎにきたゴブリンや、情報を持ってきた思しきゴブリンが多くやってきていた。


『ギィィ』


 そんな中、村の入り口方向の森からゴブリンの悲鳴が聞こえた。それとともに、森の中から三人の戦士風の恰好をした冒険者が姿を現した。


「おい、このゴブリンども廃村を巣にしてやがるぞ」


「面倒なところに棲みつきやがって。だが所詮はゴブリンだ、とっとと殺しちまおう」


「早くかたずけるわよ。こんな依頼も出てないような場所のゴブリンなんて、儲けにならないんだから」


 殺したゴブリンを一瞥もせずに、勝手な言っている冒険者たちを見ると頭に血が上るのがわかる。


「落ち着きなさい。冒険者としてはごく当然の反応よ」


「それはわかってるけど、でもジャレスたちは人間を傷つけてないのに、話もせずに殺されるなんておかしいじゃない。そりゃあ、ゴブリンが話をできるなんて思ってもいないんだろうけど」


「頭に血が上った状態では視野が狭くなるから、それだけでも意識してちょうだい」


「わかってるわ」


 そんな話をしていると次は、魔法使いと弓使いが姿を現した。

 それを見たジャレスは近くのゴブリンとなにやら話をして、その後小さくうなずいている。


『グギャ、グギャグギャァ』


 ジャレスがそう声を上げるのと同じころに、魔法使いからファイアボールが放たれ、村の入り口に展開していたゴブリンたちに直撃した。

 それを皮切りに前衛の三人が走り出し、ジャレスは大声で指示を出している。


「こいつら、廃村に棲んではいるが動きがトロい。そこらの雑魚と同じ要領でやるぞ」


 剣を持った男がそう言っているが、おそらくジャレスの作戦だろう。それを示すかのようにジャレスは後衛の二人を見ながら、なにやら声を上げている。


「なっ!? ゴブリンが木の上に」


「ぐっ!」


「おい、どうなってるんだ! なんでこんなに統制の取れた動きしてるんだよ、このゴブリンども」


「くそっ! 変な武器使いやがって」


 やはり罠だったようで、後衛は投擲の雨を降らされ、前衛は包囲されている。その攻撃で魔法使いが倒れ、負傷した弓使いは前衛と合流しようと村の方へと向かってきている。

 しかし肝心の前衛は、投擲とビルにより苦戦を強いられている。


「キャっ、来るな! やめっ」


 槍使いの女性がビルによって体勢を崩され、倒れたところをゴブリンに集られ頭に石斧を叩き込まれた。

 目の前で人間が殺されると、少し心が揺らいだ。仕方のないことだというのは充分理解しているが、それでも感情を消すことはできなかった。

 しかし、それでもジャレスの身が危なくなればあたしは戦う。その部分が揺らがなかったことに、自分でも少し驚いた。見知らぬ人間とジャレスならば、躊躇なくゴブリンであるジャレスを選ぶという事は、少し前のあたしであれば鼻で笑っていただろう。


 女性の死に激高した、鎧はしかしジャレスの秘蔵である黒い刀角鹿(ソードディア)の投擲剣を受け地に伏した。

 それを見た弓使いは、踵を返し森の中へと消えていく。その間際、弓使いが瓶を口に当てているのが見えた。おそらく、解毒薬だろう。

 戦いを見ていて思ったが、このパーティーはあたしたちよりも上のD級冒険者で、最初から油断なく本気で戦っていればここまで圧倒的な戦いになっていないだろう。そしてそんな冒険者が、毒もない状態で本気の逃走を図ったのだ。それを追いかけるのは、ゴブリンたちでは少し厳しいだろう。


「ジャレス! あたしたちも見てたけど、あいつ多分解毒薬飲んでたわ」


 ひとまず、剣士が倒されるのを見届けたジャレスにそのことを報告して、少しの間判断を決めかねている様子を見つめて、こちらから話を切り出すことにする。


「ゴブリンたちに案内させて。あたしたちが行くわ」


「そうね、この森を走り回るのは私たちの方が上のはずよ」


「……無理に戦わなくていい。弓持ちに追いついたら、冒険者のふりをして足止めを頼む」


 その言葉を聞きすぐに大柄のゴブリンが先導につき、森の中へと駆けていく。何度か方向の指示を受けつつ、逃げた弓使いの男を少し迂回しつつ追いかける。


「追いついたらどうする?」


「必要ならやるわよ。あなただってそう考えてるんでしょう」


「バレてた? あいつを逃がすと結構危ないんでしょ。だったら、やるわ」


「最初は穏便にね。やるなら確実に、初撃はきめなくちゃいけないんだから」


「そういうのは苦手だから、上手いこと油断させてね」


 追いついてからの相談をしながら走っていると先導のゴブリンは、進路方向を指さしてその場に立ち止まった、あたしたちも少し速度を落として指さされた方向に向かい歩いていると、正面から弓使いの男が現れた。


「ちょっと、武器を下ろしなさいよ!」


 ゴブリンを警戒していたのだろう。あたしたちが木の陰から姿を現すと、矢をつがえた状態の弓をこちらに向けていた。


「あ、ああ、すまない」


 男はそういうと弓を下ろした。


「あなた一人なの? 採取の依頼でもしてるの?」


 イヤンテが白々しく男にそう尋ねた。


「違う! 仲間が四人ゴブリンに殺されたんだ。くそっ! あのゴブリンども絶対皆殺しにしてやる」


 やはりこのまま逃走を許すことを許容できる状況ではないみたいだ。


「大変じゃない。近くのギルドまで行くなら、私たちも一緒に行くわ。ねえ、そうしてあげましょう」


「え、うん、問題ないけど」


 自分で頼んだこととはいえイヤンテの変貌ぶりにかなり引いていると、突然話を振られてつい返事に詰まってしまう。


「それは助かる。あいつらまるで、人間が指揮してるみたいな動きをして、かなり危険な群れなんだ」


「そう、じゃあ先導をお願いできるかしら。後方は私たちが見ておくわ」


「ああ、こっちだ。頭のいいゴブリンだから警戒してくれ」


 男はあっさりと背中をさらし、街道の方向へ進んでいく。きっと普段なら、出会ったばかりの冒険者に簡単に、背中を見せることはないのだろう。しかし、ゴブリンに襲われた動揺により、人間を簡単に信用してしまったのだろう。

 その様子を見たイヤンテが、こちらを見て軽くうなずき投げナイフを構える。あたしも静かに男へと近づき剣を構える。

 後方を確認すると、イヤンテが投げナイフを勢いよく投げた。


「っ!」


 投げナイフははたして、右太ももに刺さりそれにより勢いよく振り返った男に向けて、剣を振り下ろす。

 首を狙った一撃は左手に阻まれたが、それにより男は弓を取り落とし、後ずさりする。


「なっ! なぜだ」


 その問いに答えずに、そのまま剣を構えて追撃する。イヤンテも短剣を構えながらこちらに走ってきている。

 その様子に、男はサブウェポンと思しき短剣を構えて応戦する。


『グギャ、グギャァ』


 男がゴブリンの声に反応した瞬間を狙い斬りかかる。右太ももと左腕をけがしていながら、あたし一人では攻めあぐねているところへイヤンテが加勢に入り、次は男が防戦一方になっている。


「おい! 今人間同士で争ってる場合じゃないんだよ! ゴブリンが来てるんだよ!」


 そこへさらに一度離れていた、大柄のゴブリンが姿を現し、それを見た男が大声で叫ぶ。しかし当然あたしたちは取り合わず、隙を見てさらに懐へ攻め込んだイヤンテに注意を向けた男の肩口に、勢いよく振り下ろした剣が入った。


「ぐっ!」


 その一撃を受けて男は低く呻き、よたよたと後方へ下がっていく。そのまま数歩進んだところで、地面に倒れ込んだ。


「ハァハァ、やったのよね」


「ふぅ、何とかなったわね」



 その場でしばらく待っていると、ジャレスがゴブリンたちを引き連れて到着した。


「勝手に始めてごめんなさい。油断してたから、あたしたちで倒せると思って戦ったの」


「心配をかけたことに関しては謝るけれど、下手に足止めに失敗して逃げられるより、こうした方がリスクが低いと思ったのよ」


『グギャァ、グギャ』


 ジャレスはすぐに頭を下げたあたしたちに、面食らった様子で頭をかいている。

 大柄のゴブリンも頭を下げている。彼は巻き込んで申し訳ないことをしてしまった。


「せめて、事前に一言言っておいてくれ。不測の事態かと思って心配したぞ」


「ごめんなさい」


 やはり叱られてしまった。群れの危機を救ったのだから、少しは褒められるかと思っていたので残念だ。


「だが、逃げられる危険を減らして早く倒してくれたことは助かった、ありがとう」


 しかし、すぐに口調をやわらげ褒めてくれた。

 その反応に満足していると、イヤンテが声を上げて笑った。


「ちょっと、何笑ってるのよ! なにもおかしいことなんてなかったじゃない」


「ふふ、そうね。なにもおかしいことなんてなかったわ」


 ゴブリンたちに指示を出すジャレスを尻目に、イヤンテのよくわからない笑いに噛みつく。そのまま少しの間じゃれつくと、男の遺体を運びながら村に向かって歩き出した。


「言いたくないことがあれば無理に聞かないが、言いたいことがあるなら溜め込まず、俺に言え」


 その道中、ジャレスの意外な発言に驚いた。これまでは、知りたいことがあると色々聞いてきたが、こんな風にこちらを慮って何かを尋ねてくることはほとんどなかったからだ。


「大丈夫よ。しっかり自分の中で整理を付けたことだもん」


「どうなるかわかって行動したのよ。問題ないわ」


「そうか。問題ないならいい。でも、無理はするなよ」


 どうやら本気で慮っているらしく、その発言が聞き間違いでないかイヤンテの顔を見ると、向こうもこちらをきょとんとした表情で見ており、聞き間違いでないと分かると二人で顔を見合せたまま声を出して笑うのだった。

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