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スケルトン編 外伝 協奏

「マーガレットは防御に集中、ルースとヴォルテールはアンデッドを間引いて、私は魔導屍リッチを抑えます。包囲が緩み次第撤退」


 突然の危機に対して逃走を前提とした指示を出す。

 それに対してそれぞれの了承の声が響く。


 その返事に背を押され、前を向く。

 これ以上事態を悪化させないよう全体を俯瞰しつつ、魔導屍リッチに対しての意識をそらさないよう注意する。そんな中緊張を自覚した。

 能力を最大限発揮しようと心拍数が上がる。ともすれば空回りになりかねないほどの鼓動を小さい深呼吸で落ち着け、狭窄しそうになる視界を広げてむこうの隙、味方こちらの隙を見逃さないよう集中する。


 様々なアンデッドが周囲を囲んでいる。

 腐屍者ゾンビ骨臥兵スケルトンがほとんどだが僵尸キョンシーやその下位種である劣僵尸レッサー・キョンシー幽霊ゴースト悪霊エヴィル・スピリットまで、この階層で遭遇する種類のほとんどを網羅しているのではないだろうか。


魔導屍リッチ一、僵尸キョンシー一、騎士骨臥スケルトン・ナイト二、剣客骨臥スケルトン・セイバー三、強突骨臥兵スケルトン・スラスター一です」


 同じようにアンデッドたちを観察、いや『解析』したマーガレットから要警戒の魔物の名前が挙がった。魔導屍リッチは当然として、それ以外の七体はどれもD級で本来ならば、最低でも一対一で戦わなければならないような相手だ。


 そんなアンデッドたちを率いている魔導屍リッチは、自身が即座に魔法を使うつもりはないようで、それらのアンデッドに指示を出しこちらを消耗させるように動く。

 正確に言うと聖球体ホーリー・スフィアをどうにかしたいのだろう。アンデッドは近づくだけで弱体化してしまうが、当然その分魔法も消耗する。効果範囲に入っただけで昇天してしまう幽霊ゴーストすらもけしかけているのだから、そういうことだろう。


 周囲を囲まれているものの、後方の戦力を動かす気はないのか少し包囲を狭めたのみで動かない。それに比して左右から迫るアンデッドに対しては錬金オイルで壁を作り遅延している間に、ルースとヴォルテールが前方のアンデッドを対処する。

 魔導屍リッチのそばには六体の上位骨臥兵スケルトンが控えている。その六体は近衛のように魔導屍リッチのそばから離れない。


 迫るアンデッドたちは、ルースが槍の間合いをいかして腐屍者ゾンビの首をはね、骨臥兵スケルトンの足を砕き、それに気を取られたアンデッドたちをヴォルテールの短剣が襲う。

 負傷もなく順調に対処できているようだがしかし、次から次へと押し寄せる不死者の波はとどめを刺す暇すらなく、手足や頭を落として無力化されたアンデッドが転がる。


 前衛の二人を抜けたり、左右の炎の壁を迂回してきたアンデッドは、なるべく魔法を使わないよう錬金オイルと魔封石(マジックジェム)を駆使して間引いていく。



(人間風情に何を手間取っている、さっさと押しつぶしてしまえ!)


 そんな消耗戦の中気まぐれに飛んでくる魔導屍リッチの魔法を相殺しながら、聖球体ホーリー・スフィアが二度互換したところで魔導屍リッチがしびれを切らしたのか、怒声を上げて杖を構えた。


黒散弾ブラック・ショット!)


迎え火カウンター・ファイア!」


 魔導屍リッチの放った黒い散弾を火のさざ波が攫って消し去る。

 魔導屍リッチが声を上げた瞬間に前衛の二人が下がっていたからよかったものの、これまでの様子見とは違い確実にこちらへ被害を与えうる魔法を行使し始めた。

 こうなってしまえば前衛は、支援が届く範囲からうかつに出られなくなってしまう。敵の数を減らしてからではなく、魔導屍リッチの慢心があるうちに勝負に出るべきだったかもしれない。いや、今はそんなことよりもアンデッドの数をそれなりに減らすことができたのだから、さっさとこの場を離れてしまったほうがいいだろう。


 私はともかく動き続けていた前衛の二人は逃げるにせよ倒してしまうにせよ、そろそろ勝負に出なければ後がなくなってしまう。それ以上にマーガレットはかなり魔法を使用してしまったので、聖球体ホーリー・スフィアは使えても一度だろう。そんな状況で攻勢に出るわけにもいかず、やはりどうにかして離脱する隙を作らなければならない。


火球ファイアボール


火球ファイアボール


 双方から放たれた火球は中間点でぶつかり爆発する。爆炎に巻き込まれた骨臥兵スケルトンが一体炎上したが、魔導屍リッチがそれを気にしている様子はない。


「おらぁぁぁあ!」


 ルースもこのままではジリ貧になることを察しているようで、鼓舞するように雄叫びを上げ骨臥兵スケルトンを破砕する。


「さっさと倒してしまいましょう。火球ファイアボール!」


(ハエ風情が! 黒球体ブラック・スフィア


 火球は黒い球に吸い込まれて不発でしたが、仲間たちから首肯が返ってきたことを確認してさらに攻勢を強める。


火騎槍ファイア・ランス


(くっ!)


 火の槍がその威力を発揮することはなかったが、代わりに黒い球を相殺して魔導屍リッチの警戒度をさらに上昇させる。ルースとヴォルテールは徐々に後退しており、逆に魔導屍リッチはこちらが攻勢に出てくるものと思い、防御にウェイトを置いている。


 先ほどの言葉は欺瞞で、仲間たちもこの状況から討滅は考えていなかったようでうまく意思を届けられた。知恵のある魔物は直接的な言葉では相手にまで作戦がばれてしまうため、その場にそぐわない物言いや迂遠な言い回しなどでも意思疎通が取れる必要が出てくる。

 今回は最も余裕のある私が魔導屍リッチを攻勢に回らせないよう、けん制してその間に撤退への道筋を模索する。魔導屍リッチの油断がなくなってしまったのなら、逆に警戒させてうかつに行動できないようにすればいい。



 それから数分。そろそろ撤退を行動に移そうとしたとき、事態は急変しました。


(なにっ!?)


 突如魔導屍リッチが声を上げ後方を振り返った。


「ぶっ壊れろぉ!」


 時を同じくしてルースが派手に骨臥兵スケルトンを薙ぎ払い魔導屍リッチに威圧を加える。


(くっ、混乱コンフュージョン


白球体ホワイト・スフィア


 後方に気を取られながらも魔導屍リッチの放った魔法は、マーガレットの鉄壁の守りを破ることはできず『混乱』をもたらす黒い靄は霧散した。しかし、そのマーガレットも限界が近いようで聖球体ホーリー・スフィアの使用を控えている。


(この慮外者どもが! お前たちは我を守れ)


 魔導屍リッチは憤怒の叫びとともにねじくれた杖を高らかに掲げ、取り巻きの骨臥兵スケルトンたちに命令した。

 それまで、魔導屍リッチとの間を阻むように待機していた取り巻きたちは、円形に広がりその中心に魔導屍リッチを置くように布陣した。そしてこちらのみならず、後方にまで監視の目を光らせる。

 さきほどの魔導屍リッチの反応といい、警戒すべき存在がその背後に迫っているような態度だ。


「おい、やべぇのが来そうだぞ!」


 ルースが鋭い声で注意を促すとともにアンデッドの相手をしながら、さらに後退をはかる。


「なっ!」


 しかしその途中で、ここからは霧に覆われて覗えない魔導屍リッチのさらにその奥を見て驚いた様子を見せる。ヴォルテールもそのことに気づいたのか同じように霧の奥を見つめて驚いている。


骨臥キョンシー僵尸(・スケルトン)だ!」


「なんでこのタイミングで」


 そのセリフに私もマーガレットも二人と驚きを共有した。

 なぜ最初から姿を現していなかったのかは謎だが、このタイミングでの増援はまったくもって想定外で、このままでは撤退さえままならない。


 しかしそんな焦燥は二つの炎によってかき消された。


死者の薪ケフ・アン・アナオン


 一つは魔導屍リッチの灯した黒炎で、もう一つは霧の中から魔導屍リッチに向かって投げ込まれた背嚢から上がった大炎だった。

 大炎は魔導屍リッチ以下四体の骨臥兵スケルトンを飲み込み、すべてを灰にする勢いで燃え盛る。


 しかし、そんな大炎の中にあっても魔導屍リッチが杖を下すことはなく、生み出された小さな黒炎は燃え上がり、配下のアンデッドたちに黒い火の粉となって降りかかる。


「させません! 聖球体(ホーリー・スフィア)


 アンデッドたちにとっての祝福の炎はしかし、マーガレットの無理を押した魔法によって半数ほどが消滅した。それでも多くのアンデッドを包んだ黒炎によって、その多くが一瞬にして戦線復帰を果たした。


黒球体(ブラック・スフィア)


 魔導屍リッチを包んでいた大炎は魔法によって吸い込まれ、続けて降り注いだ黒い火の粉が魔導屍リッチを包むとその効果を失った。


(貴様ら絶対に許さんぞ! 八つ裂きにしてくれるっ!!)


 烈火のごとき怒声とともに杖で地面を激しく打擲すると、それを合図に欠損を取り戻した前方のアンデッドたちのみならず、砂場地帯の奥で控えていたアンデッドたちまでもが迫ってきた。


(特に貴様は必ずここで殺す)


 詳しい事情は分からないが魔導屍リッチ骨臥キョンシー僵尸(・スケルトン)は敵対しているらしく、激しい敵意とともに僵尸キョンシーの格好をした骨臥兵スケルトンに向けて杖を構えた。

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