スケルトン編 圧倒
そこからはいろいろなことを試して、多くのことがわかってきました。
モヤの散ってしまった頭蓋骨は元通りくっつき、さらに時間を掛ければ眼窩のモヤも修復できますが、頭蓋骨の中にある靄は戻らないこと。
同じ部分を同じように破壊したとしても、別の骨臥兵の骨では修復の助けにはならないこと。
胸部のモヤを先に散らしても視覚を失わないだけで、頭部を破壊した時と同じように動きに支障が出ること。
あと、気になっていたフルスイングの斬撃でも頸椎を断ち切れなかったことや、修復能力に代償や制限があるかどうかも、ある程度分かってきました。
骨臥兵を攻撃する場合、石などでの打撃は有効ですが、剣での斬撃や刺突は非常に効きが悪いようで、地面に転がした骨臥兵の頭蓋骨を一心不乱に刺して、かなりの時間を掛けてようやく破壊できたほどでした。
それこそ、人間だったら息が荒くなっていたでしょう。そう、人間だったら息が荒くなるような行動をしても、骨臥兵の体では一切疲労というものを感じないと、この時点で初めて気が付きました。ちなみにまばたきをしていないことも同じタイミングでようやく気が付きました。
修復能力の代償や制限などは、ひとまず存在しないと考えていいみたいで、少なくとも同じ骨を百・二百回折ったところで目立った変化は見られませんでした。
骨臥兵に関すること以外でも、いろいろな発見がありました。
私や骨臥兵がいるこの場所は、一日中霧に閉ざされているうえ、太陽が順行していないようで、常にあたりは明るいのに霧で視界は利きません。
地形は平原のように起伏がなく、石や岩、枯れ木が時折あるだけの寂しい風景です。
そして、この場所に関して最も重要なことは、あからさまに怪しい二つの階段が存在しているということです。それぞれ、上りと下りに分かれており、これを発見した時に一つの仮説が思い浮かびました。
ずっと屋外だと思っていたこの場所は、もしやファンタジー世界ではお馴染みのダンジョンというものではないでしょうか。
階段は見渡す限りの荒野の中にポツンとレンガ造りのものがあり、上った先も降りた先も同じように奥は見通すことはできないようで。階段の裏の構造を見ようにも、それより向こうは景色が見えるだけで進めず、見えるにも関わらず一歩も立ち入れない荒野が続いてる様は実に、ダンジョンという言葉がしっくりくる光景でした。
その答えは実際に階段を進むと見つかりそうですが、あまりにも未知の存在なので何も知らずに近づくのは、考えるまでもなく危険です。今は、この霧に閉ざされた場所の探索に終始することに決め、できるだけ階段には近づかないように歩を進めました。
骨臥兵を探しているときや、この荒野を探索しているときには、骨臥兵以外の魔物も発見しました。
ボロボロの死衣をまとった腐乱死体腐屍者、袖のゆったりした中華風の衣装とベレー帽のような帽子をかぶった青白い肌の死体僵尸、霧とは明確に違う空中を浮遊する白いモヤ幽霊、などどれもアンデッドばかりで実にがっかりしました。危険を考えては出しませんでしたが、せめて妖精になれないまでも、眺めるぐらいしても罰は当たらないと思うのですが。
これらの魔物を発見する過程で、最も重要な発見もありました。
それは、人間の往来があるという事です。
どうやら人間たちはあのレンガ造りの上り階段からきて、下り階段に去っていくことが多く、その直線上では遭遇率が高くなりました。
人間を発見しながら未だに私が討伐されていないのは、人間発見のきっかけになった骨臥兵の能力のおかげで、まだ骨臥兵の実験を始めたばかりのころ、霧の中を歩いていると離れたところに何かがいるような感覚を覚えました。
ゲーム的に言えば、自身を中心とした2Dマップの隅に突然光点が現れたような感覚でした。
最初は不振に感じて、近づかないようにしていましたが幾度か同じ反応を感知してからは、安全保障的な理由と好奇心にしたがい光点の進む方向、反応と正面から接触しないよう後方から、骨の接触音が鳴らないよう注意して近づいてみたところ、何やら話し声とともに五人の人間の姿を確認しました。
そこからはこの光点能力『生者感知』を試してみたところ、感知できるのは歩幅にすると百歩、およそ八十メートルほどで、相手が戦闘中だった場合は百五十歩ほどまで感知できるらしく、人数も正確に把握できます。
この『生者感知』を使い、人間たちの後をつけたことでさらに多くのことがわかってきました。
見つかっても対処が可能そうな若い男性三人組のパーティーを選んで後をつけたところ、二人は人間で残る一人は獣の耳を持った獣人と呼べるような身なりをしていました。三人とも、剣や弓などの武器を持ちながら全員が棍棒のような打撃武器を持っており、骨臥兵への対処をしていることが警戒を誘いましたが、結果的にはバレることもなく情報だけを得ることが出来ました。
三人は霧に包まれたこの場所に慣れていないのか、あちこちをきょろきょろしながらも、いざ戦闘が始まると腐屍者だろうと骨臥兵だろうと一体だけでは何ら問題ないように進んでいきました。
人間が戦っている姿は何かの役に立つかと思いましたが、片やソロプレイで片やパーティープレイという事もあり、人間と戦うとき以外に戦闘面で生かせそうなことは少なかったですが、見たこともない道具と骨臥兵の致命的ともいえる弱点を発見できたことは、人間に見つかるというリスクを冒してまで尾行を続けた意義がありました。
その両方が同時に現れたのは、三人組が六体の団体骨臥兵に遭遇した時でした。
骨臥兵は私と同じく『生者感知』で人間の居場所を把握していたようで、カタッカタッカタッと駆け足で三人組に迫ります。霧で視界の利かない中足音を察知した三人組は、背嚢とは別の腰に付けた小さなポーチから赤い宝石のようなものをそれぞれが取り出しました。
『火弾!』
一人が足音の聞こえる方向へ宝石を構えなにやら言葉を唱えると、手の少し先に握り拳ほどの火の玉が現れて、数舜の滞空ののちに霧の中へと飛んでいきました。
おそらく様子見兼威嚇として放たれたであろう火の玉は、霧の中で骨臥兵に命中したらしく、火の玉が飛んでから数秒後に火柱となった二体の骨臥兵が姿を現しました。
あの火の玉のサイズからして二体に当たったとは考えにくいので、おそらくどちらかは巻き添えを食らったのでしょう。
骨臥兵はそれぞれ全身を覆うほどの火柱を立ち昇らせて霧の中から出てきたものの、その足取りはすぐに衰えてやがて崩れ落ち燃え尽きてしまいました。骨臥兵たちが燃え去った後には骨の一本も残っていません。
その様子に驚いているのは私一人で、三人組も続けて霧の中から出てきた四体の骨臥兵たちにも目立ったリアクションはなく戦闘を開始しようとしています。
『後ろのやつを狙え! 前のやつだとこっちまで巻き込まれるぞ』
『『火弾!』』
三人組はまたしても機先を制し、獣人の男性の指示のもと遅れて霧から姿を現した二体の骨臥兵目掛けて火の玉が放たれ、見事にその二体を火柱に変えてしまいました。
燃え盛る骨臥兵たちは、霧から出てきた時と変わらない速度で三人組へ迫りますが、少し進んだところで途端にぎくしゃくした動きになり、先行していた骨臥兵たちが三人組と接触するころには、燃え尽きてしまいます。
三人組の装備は使い古しか使い込んでいるのかわからない少し汚れた革鎧程度で、その装いから推測するとあの宝石自体がそれほど高価なものとは思えないため、火の玉の威力が高いのではなく骨臥兵の火に対する耐性のようなものが低いと考えるべきなのでしょう。
これを知る前に人間と接触してしまっていたら、相手の装備で勝てると判断して襲った挙句火柱にされるところでした。
霧を抜けてきた速度のまま、上段に構えた剣を振り下ろす二体の骨臥兵に対して、三人組は人間の二人が斬撃を剣で受け止め、それぞれの武器がぶつかる瞬間に、獣人が骨臥兵の隣に躍り出て手にした棍棒で頭蓋骨を弾き飛ばしました。
三人組は頭蓋骨の行方を追うことなく、傷を負っていないもう一体の骨臥兵の剣を受け止め、人間と獣人とで挟み撃ちの形に持っていき、頭部を失った骨臥兵にもう一人の人間が迫りました。
そこからは当然のごとく三人組の圧勝で終わったみたいです。
というのも、挟み撃ちを始めたあたりで、発見されることを危惧して少し離れて『生者感知』で戦況を把握していたからです。戦闘を終了した三人組は、『生者感知』によると一人は骨臥兵たちが来た方向へ歩いていき、残りの二人はその場からほとんど動いていません。骨臥兵の骨を拾っているのでしょうか、たしか燃やされた骨臥兵は骨を残していなかったはずですが。剣で打ち合っていた骨臥兵に関しては骨を残しているでしょう。
『まだ、入って三十分くらいしか経ってないのに団体に出会うとは、やっぱりこれまでの階層とは違うな』
濃霧に覆われた世界で、離れた仲間と話すためか少し大きめの話し声が聞こえてきました。この声は先ほど指示を出していた獣人のものですね。残念ながら何を言っているかはわかりません。
『ですね。さっそく魔封石も使ってしまいましたし、このままこの階層で戦っていると完全に赤字ですよ』
それに答えたのは声との距離を察するに、燃えた骨臥兵を見に行った人間でしょう。
『骨臥兵は燃やしちゃうと、魔石しか残さないからね~』
聞き耳を立てていてもなにを言っているかわかりませんし、三人が話している間に離れるとしましょう。
そんなことがあり、骨臥兵の火に対する脆弱性と人間の便利な道具が判明してからは、『生者感知』で人間を見つけては逃げる日々を続けながら、骨臥兵の能力を調べて対人間のための作戦を考えていました。
そしてついに、考え付いた作戦を実行に移せる条件を満たせました。現在の状況は、六体の骨臥兵に付きまとい、この群れに接触するであろう人間を事前に感知して、その背後に回り込んだというものです。この形に持ち込むまでに、三つの群れを乗り捨てるほどの時間がかかりました。
一つ目の群れは、私が先行していた方向とは別の方向に、人間を感知したようで当然背後を取れずにその群れは燃やされてしまいました。二つ目は、骨臥兵たちよりも事前に感知できましたが、回り込む途中に他の人間を感知したので断念しました。三つ目は、感知した人数が六人と多かったためこれまた断念しました。そして今、ようやく絶好のチャンスがやって来たというわけです。
背後から見た人間たちは、『生者感知』が示した通り三人で、前に見たパーティーと違いしっかりと全身を覆う装備をしていますが、それでも革と毛皮を利用したもののようです。
武器はやはりメインとして使いそうな剣などのほかに、全員が棍棒を所持しています。
三人の装備を確認し終えたところで、抱えていた腰椎より下の下肢と下あごである下顎骨のない骨臥兵を地面に下ろしました。
見た目からはわからないように頭蓋骨の靄を散らした個体で、おそらく人間たちの注意をそらすのがやっとで、実際に戦うとすぐにやられてしまうでしょう。しかし私が人間に奇襲をかけてから、六体の骨臥兵が到着するまでの囮になるだけなので問題はありません。一緒に運んでいた骨臥兵の仙骨に腰椎を押し当ててすぐ、人間たちを挟んだ先から、カタッカタッカタッと複数の足音が聞こえてきました。
骨臥兵の修復に問題がなことを確認すると両手に剣を一本ずつ持って、人間たちに向かって走り出します。狙うのは、三角形のような陣形を取っている三人のうちで、骨臥兵の足音へ最も早く反応し宝石を構えた左後方の人間です。
骨臥兵たちの足音に気を取られていた人間の背後に難なく忍び寄り、赤い宝石を掲げているおかげでがら空きの革鎧にも守られていない脇下に、左手に握った剣を突き立てます。
骨臥兵で散々試した動きなので焦ることもなく、うまく第三肋骨と第四肋骨の間を通り抜けて心臓へ突き刺さりました。
『なっ! ガハッ……』
血を吐きながら、目を見開き振り向いたものの、何ができるわけでもなくただ驚いた表情で地に伏しました。
『後ろからも来てるぞ!』
『ちくしょう! どうなってやがる』
他のパーティーメンバーにも当然気づかれたようで、足音の方向へ向けていた宝石をこちらに向けてきます。
私は突き立てた剣もそのままに、こと切れた人間が崩れ落ちるよりも前に後方にいたもう一人の人間へと駆けだしており、この距離ならば延焼を恐れてもう宝石は使えないでしょう。
『くそっ、とにかくそいつを先に仕留めるぞ!』
前方にいた男もこちらへ向かってきており、その援護が間に合うよりも先に、私と後方の男の剣が火花を散らしました。私が上方から振り下ろした剣に対し、後方の男はとっさに剣ではじき返します。
ここからは相手に宝石を使わせないよう、とにかくまとわりついて六体の骨臥兵が到着するまで生き延びることが勝利条件です。
『おい、また新しい骨臥兵が来たぞ!』
『っとに、どうなってやがる』
前方から駆け寄る男の視界に、下肢を修復させた骨臥兵が映ったようで、打ち合う私たちよりも後方に視線を向けています。
棍棒に持ち替えさせないように果敢に攻め立てていた私の剣をはじきながら、男が苦い顔で何やらつぶやきました。やはりというべきか、一対一の真っ向勝負では分が悪そうですが、相手が剣を使っているうちは致命傷の危険は少ないので時間を稼げそうです。
そんな判断をしたタイミングで、前方にいた男が少し進路をずらし後方からきていた骨臥兵に、棍棒を振り下ろしました。あっけないくらいにあっさりと頭蓋骨を砕かれてしまいましたが、それでも胴体は無事なのでもう数秒は稼いでくれるでしょう。
『ちっ、火弾!』
案の定骨臥兵を破壊するのに三秒ほどかかった男は、ついに霧の中から姿を現した骨臥兵の群れに向かって舌打ちとともに宝石を使いました。
今回の群れは間隔が離れていたのか先頭にいた一体のみが炎上して、後続はそれを迂回してこちらに向かってきます。
『とっととくたばりやがれっ!』
何度か剣をかすりながらもなんとか拮抗していた斬り合いに、宝石を使い終えた男が棍棒を持って背後から襲い掛かってきました。
声を上げられなくても、『生者感知』によって背後から近づいてきているのは把握できています。
剣を横なぎに振るおうとしている前方の男を無視して、剣を手放しながら振り返らず、バックステップで後方から迫る男の懐に飛び込み、私の頭部めがけて棍棒を振り下ろそうとしていた腕を取って、背負い投げの要領で前方に投げ飛ばします。
剣を振りぬこうとしていた男はすんでのところで動きを止められたようですが、受け身の取れていない状況でぶつかり二人そろって地面に倒れ込みます。……男と自身の体重が左足にかかった瞬間、嫌な音がしました。
『な、何が起こった』
『つぅ』
状況を把握しきれていない二人を放置し、自身の左足へと視線を向けるとスネである脛骨が見事に折れていました。現在は右足だけで立っている状況で、急いで折れている脛骨を拾い上げて二人から距離を取ります。
当然距離を取るだけでは宝石を使われる危険がありますが、こうしている間に武装した骨臥兵の群れが二人を攻撃できるほど距離を詰めていました。
『くそっ、さっさと起きろ!』
『やってくれたな! 骨ごときが』
怒声を上げて立ち上がる二人ですが、背後から襲い掛かって来た男は投げられた衝撃で棍棒を手放してしまっており、ぶつけられた男も立ち上がるのがやっとのようで。棍棒に持ち替える暇もなく剣で応戦しています。
そんな様子を眺めながら、悠々と脛骨がつながるのを待ちます。
その間にも戦闘は続き、襲い来る五体の骨臥兵に対して剣を振っていた男は、負傷覚悟で足に切り傷を負いながらも剣を捨て棍棒に持ち替え、無手だった男はなんとか落とした棍棒を拾おうとしていています。
骨臥兵は単体なら機械のように冷静で合理的な動きをするのですが、集団になると途端にダメで、現在も棍棒を振る男を二体で足止めして無手の男を三体で仕留めてしまえばいいものを、なぜか棍棒の男に三体を割きどちらの戦況も、微妙に優勢ながら膠着状態に陥っています。
無手の男が棍棒を拾ってしまえば簡単に覆ってしまいそうな状況に、やきもきしながらしばらくは様子見を続けます。
脛骨はすでにつながっていますが、今飛び込むのはいろいろと不都合が多いので骨臥兵たちが倒してくれることを願いましょう。
『あっ』
そう思ったのもつかの間、骨臥兵の妨害にあい、いまだ無手の男がなにかをひらめいたように顔をゆがめました。
……もともと想定していた範疇のことなので男がこれからとるであろう行動はわかりますが、できれば命を預けて戦う者同士のきずなを信じていたかったです。少なくともあの男を除いて、それこそが全員にとってまだマシな終わり方だと思っているからです。
急に醜い顔つきになった男は、斬撃で負傷しながらも二体の骨臥兵をはねのけ走り出しました。
男に突き飛ばされすぐさま起き上がった骨臥兵はしかし、その両方が走り去る男に向かわず三体の骨臥兵に合流するように棍棒で抵抗する男の方へと向かいます。
『てめぇ、ふざけんじゃねぇぇえ!』
『へへ、すまねぇな。おかげで俺は生き延びられるよ』
……できれば違っていてほしかった予想は当たっていたようで、骨臥兵たちが追いかけてこないと分かると逃げた男は、五体の骨臥兵が集っている場所に向けて宝石を掲げました。
脛骨が治っても戦闘に参加しなかったのは、この可能性を少し考えていたのと、最後の一人に追い込まれた人間が自爆覚悟で乱戦中に宝石を使用することを考えていたからです。まさか前者を本当に実行するとは思いたくなかったですが。
『助かったぜ。火弾!』
(ふっ!)
男の表情を見てこの展開を予想していた私は、走り去る男を骨臥兵たちとは直線状に並ばない位置ですぐに追いかけており、逃げた男も私の存在は確認していたようですが、背負い投げの時に武器を手放し無手になった骨臥兵は脅威にならないと判断したようで、私に宝石を向けることもなく骨臥兵たちに向かって使用してくれました。
そして男が宝石を掲げると同時に、火の玉が出現するであろう場所に向けて白い棒状のものを投げつけます。
『ぎぁぁぁぁあ!』
男が掲げた右手は火に焼かれ、突然のことに何が起きたかわからないようで、もがきながら混乱しています。その影響で火の玉はあらぬ方向へ飛んでいき、突然の炎上にパニックになっているところに追加で白いものを放り込むと、火は男の全身に燃え移りました。
これこそ宝石対策として準備してきたもので、投げたのはただの骨臥兵の骨です。骨臥兵の骨が燃えやすいとわかっていたのですが、死んだ骨臥兵の骨でも効果がるかわからなかったので、余裕を見て自身の骨をコツコツ折っては溜めていたものです。
まさしく骨身を削った成果ですね。
骨臥兵たちに囲まれていたにもかかわらず、こちらに気を向けてしまった男は抵抗らしい抵抗もできずに五本の剣で切り刻まれてしまいました。
戦闘が終わると骨臥兵たちはまた群れになって霧の中へと姿を消してしまいます。戦利品の回収は必要ないのでしょうか。
まあ、必要ないというのであれば、私一人で独占させていただきます。
とりあえず散らばっている遺体と武器、背嚢などを一か所に集めようと動き出した時見覚えのないものを発見しました。
それは男たちによって倒された二体の骨臥兵のすぐそばに落ちていて、最初は男たちが落としたものだと思いましたが、宝石の力で倒された骨臥兵には、誰も近づいていなかったのでそうではないでしょう。
見た目は人間が使用していた宝石に似ていますが、それよりも形は歪で色もくすんでいて、宝石というより子供が大切にしている少しばかりきれいな石ころのようで、多少形に差はあれどどちらもビー玉ほどの大きさです。
これまでこの場所を歩き回っていて一度も見たことがないので、この石ころの上で偶然二体の骨臥兵が倒されたわけではないでしょう。しかし、骨臥兵は散々倒してきましたが、このようなものは見たことがありません。レアドロップでしょうか。
疑問を抱えながらも散らばったものを集め終えて、骨臥兵の骨が中ほどまで入った背嚢を検分していると、仕切られポケット状になった部分から先ほどの石ころと同じものが六個出てきました。他の背嚢を調べてみるとそれぞれ五個ずつ入っています。全部で十六個ですか。
背嚢から出てきた骨臥兵の頭蓋骨は全部で十個なので、骨を拾わないこともあるのか、骨臥兵以外からも手に入るのかの、はたまた炎で骨を燃やしてしまったのか。少なくともレアドロップの線は消えました。
気になることはありますが、どのように使用するかもわからないものにこだわっていても仕方がないので、他の物を見ていきます。
食料や水、硬貨など骨臥兵にとっては不要なものもあれば、ロープや例の宝石など使えそうなものもあり、液体の入ったフラスコや小瓶などは用途がわからず検証に時間がかかりそうです。
次に三人の装備品で使えそうなものを剥いでいきます。
棍棒は対骨臥兵用に役立ちそうですが、それ以上に最初に倒した男が持っていた弓と矢は練習すれば、人間との戦いを簡単にできるかもしれません。
武器のほかにも男たちが来ていた衣服と防具も貰っておきます。
自身の装備を確認すると、必要あるいは検証するものを入れた背嚢とサイドポーチを一つずつ身に付け、辺りを見回し忘れ物がないかを確認します。
骨をつぎはぎに装備を剥がれた男たちの死体以外のものはなく、問題なさそうです。
それにしても、骨臥兵を倒した時もそうでしたが、人間を殺してその遺体荒らしても同族を手にかけたショックどころか、何の感慨も浮かばないのは私がそういう存在だからなのでしょうか?
そんなとりとめもないことを考えながら、霧の中へと歩を進めました。
次話は翌0時に更新いたします。