断片集「使命」
断片集用。
俺は部下と話をしていた。
公園のベンチ。夜。
「我々にはやはり数が足りていません。物理的な数で敗北をしている限り、勝利は現実的ではないと思われます」
「俺の前で計画や予定のような話をしないでくれよ。そういうのが嫌いなんだ。まともであるように錯覚してしまうから嫌いだ。あるのは本能だけ。目の前の敵を追いかける、殺す」
「申し訳ございません……」
俺は足を組んで、灰色の世界を眺めた。
「…………」。
安全で平和な世界でぬくぬく生きている人間をひどい目に合わせてやりたい。
家の明かりが見える。
大卒で大手企業に入社、一度転職したサラリーマンとその家族。妻は専業主婦。息子は二人。ピアノを学ばせようとしたが失敗した。上の子は部活動でサッカーにいそしんでいる。弟は小学生でゲーム好き……と想像した。取り留めのない空想だった。
「俺はお前のことを気に入っているわけじゃないんだ」
部下に言う。
「そうやって敬語なんてつかってよ。敬っているポーズを見せても、お前の心はどうなっているのかわかりやしねえ」
立ち上がり、部下の顔面に蹴りを入れた。
部下はベンチから動かなかった。蹴られても立ち上がらない。
「苛つくだろ?屈辱的だろ?ほら、俺をぶち殺してみろよ……」
部下は攻撃の姿勢を見せなかった。
「いいえ。違います。わたしは誰よりも深くあなたを愛し尊敬しているのです。自由に生きるために命を燃やし叫ぶあなたのその生き方に惚れているのです。わたしの自由はあなたの生きざまを最後まで見るために使うのです」
俺は部下の顔面に拳をたたき込んだ。
それでもこいつは文句を言わない。
「意味が分かんねえよお前……。お前っ!」
血を拭って部下は立ち上がった。
悲しそうな目をしている。その憐憫はダレに向けたものだ?
珍しく俺は怒りを感じた。
この殺人教団を設立してからずっと俺は充実していた。
部下の意味が分からない。俺の生きざまを見るためだと?
「わたしはあなたの生きざまを見届けるためにここにいるのです」。
偉そうに。
偉そうに……!
「偉そうに言いやがって……俺様に向かって……俺様に向かって……!」
俺はナイフは使わなかった。殺したら意味がない。それは盤をひっくり返す行為。
俺はこいつの心を屈服させたいと思った。
殴って殴って痛めつけて……。
それでも部下はその目、虚ろな瞳をしたままだった。
こいつの見ている世界に俺の行動は介入できない。
俺を観察するために生きている。なんつーやつだ、こいつは。
これは使命の問題だった。