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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

寸説まとめました!

寸説 《狙撃手(スナイパー)》

作者: mask

今年最後ーーかもしれない短編が始まります!

 僕は一ヶ月前に徴兵された。普段通り始まるはずだった晴れた日のことだった。

 扉を直接ノックされて応対すると普段と違う、まるで兵士のような格好をした配達員から短い淡々とした祝福を受けて渡されたのは赤紙だった。

 母さんに見せると、母さんは泣き崩れてしまった。僕は母さんに何も言えずに自室に行き、ベットに横たわると赤紙を改めて読んだ。そして何度も読んで見ても内容に間違いはなかった。

「僕の番か」

 一年前に親父が徴兵された。一昨日、友達と駄弁っていると、その友達も赤紙を直接もらい、今日町を出た。今年、十八の僕や同い年の友達は皆が徴兵されたことになる。僕は次男だから戦場に行かされるのだ。まあ兄貴に母さんのことを任せた方がいい。僕は親孝行なんて一度だってしたことがないから。最後も親不孝で悪いとは思うけど、それは母さんには言わない。

 夕方には軍服や荷物が一式届けられた。仕事から帰ってきた兄貴に家のことを頼み、その日は夕食も摂らずに寝た。

 翌朝には軍服を着て、荷物を背負うと母さんが握り飯と水筒を手渡してくれた。僕はボソリと礼を言うと瞼を腫らしながらも笑っていてくれた母さんを抱き締めることもせずに玄関を出た。

 外気が肌を刺す外には兄貴が待っていた。

「行ってきます」

 僕が言うと、兄貴はただ「ああ」と返した。

 玄関を振り返り、母さんと兄貴に向かうと一礼した。

「行ってきます」

 僕が言うと、兄貴が両手を天に伸ばした。

「万歳!」

 兄貴が言うと、母さんも倣った。

「万歳!」

 すると、近所から様子を見ていた顔見知りがゾロゾロ出てきて諸手を上げた。

「万歳!」

 僕は背中を万歳で見送られた。

 その後、一ヶ月はひたすら訓練した。吐き気や筋肉痛で嫌気がさしたが乗り越えた。

 そして今日は初めての任務だった。敵に占拠された町の解放。

 僕は衛生兵が二人いる二十人の小隊に編成された。その部隊で一昨日基地を発ち、今も森の中を行軍中だった。

「十分の小休止だ」

 樹々が伐採されて開けた場所で小隊長が指示を出した。

 僕は一人だけ離れて切り株に腰を下ろした。下ろしたナップザックから三日目の食料である固いパンを取り出して、万能ナイフで切り込みをいれてスライスされた干し肉を挟んだ。

「いただきます」

 一度、干し肉のサンドを膝に置いて手を合わせる。小さい頃から食事の礼を疎かにしたことはなかった。

 いざサンドを口にしようとしたとき僕は視線を感じた。敵かと思い、視線を走らせーーる必要もなく、いつの間にかに隣の切り株に少女が座って、こちらをーーサンドを見ていた。

「……食べたいの?」

 少女はコクリと頷く。涎を垂らす勢いで少女が身を乗り出してきたので僕は仕方なくサンドを半分にーーしようかと思ったがパンが固くて出来なかったので少女にあげた。

 受け取った少女は嬉しそうに頬張ったが、案の定パンが固いので噛み千切り口の中でにゃんにゃんと柔らかくしてから呑み込んだ。

 僕は食い物が無くなったので手持ちぶたさになり、することもないので少女が自分のサンドを食べる姿を観察した。

 年齢は十四ぐらいに見え、黒髪を肩まで伸ばし、服装は長袖のワイシャツに男物のズボンと少女には似合わない服装だった。彼女の傍らにはバイオリンケースーーいや、それにしては大きいのでチェロかコントラバスだと思われる楽器ケースが置かれていた。

「楽器、弾けるの?」

 僕が楽器ケースを指差すと、パンを食わえていた少女は僕を見て楽器ケースを見ると首を振った。

「君のじゃないの?」

 少女は口をモグモグしながら自分を指差す。楽器ケースは自分のだと主張しているのだろう。

「弾けないのに持ち歩いてるの?」

 少女は首を振る。

 僕は、わけが解らなくなってきていた。

 楽器は弾けないけど持ち歩いている。でも弾けないから持ち歩いているわけではない。ほら、わけが解らない。

 僕は黙考するはめになった。その間に少女は黙々と食事をして、ついに食べ終わった。そのときに僕には一つの答えが出ていた。

「解ったよ! 楽器ケースには何も入っていないんだね」

 ドヤ顔だっただろう僕に立ち上がった少女はーー小首を傾げた。

「中身は入ってるよ」

 少女は答えた。というか初めての声を出した。

「え? でも」

 僕が呆けていると少女は楽器ケースを背負う。

「お兄さんに死神の加護がありますように」

 少女は可愛く言って、森の中に消えた。

「死神って」

 貴重な食事をあげたのに不謹慎極まりのないことを言われた。だけど僕には怒りが湧いてこなかった。ただ今日、死んじゃうんだな、と思っただけだった。

「十分経った。進むぞ!」

 小隊長の指示に従って再び森の中を行軍した。

 数十分後、他のルートから来ていた別の小隊と合流して目的の町に着く頃には二百名の大隊になっていた。

 時刻は正午。町の五つの入り口から二個小隊ずつに分かれて東から攻撃を開始した。

「エネミー!」

 町に入るなり、土嚢や瓦礫の陰から敵の銃撃を受けた。小隊の仲間と一緒に僕も建物の陰に隠れては銃撃をやり過ごし、突撃して応射する。

 少しずつではあるが僕らの小隊は戦線を押し進めた。だがーー

「クソッ!? 進めない!」

 先行していた五人の第二分隊の一人が愚痴った。彼が建物の角から顔を出そうとすると壁をガリガリと銃弾で削られるのだ。僕が敵の正体を訊くと、敵は土嚢で出来た陣地で重機関銃をこちらに撃ち続けているらしかった。第二分隊が排除を試みるが身を乗り出せないので小銃は使えず、手榴弾を投げても距離が足らないのか爆音を響かせるが虚しいだけで無駄に終わる。

 小隊長が苦虫を噛み潰した表情をする。僕は嫌な予感しかしなかった。

「第二分隊は突撃! 第三分隊は援護射撃」

 ついに小隊長から"命令"が下った。僕は第三分隊だ。戦わないと。

 僕は他の仲間と同じように短く返事をした。するしかなかった。

「行くぞ!」

 第二分隊は四人が小銃にナイフを着剣、分隊長が手榴弾を投擲。予想通りの意味をなさない爆発音を聞くと、彼らは路地に出て突撃ーー


 ダーン


 小さいが確かに銃声がしたのを僕は聞いた。いや、戦場で銃声を聞くなんて、当たり前すぎて今更なんだと思うかもしれない。僕だって今の銃声を出した銃の銃口が自分に向いてなくて良かったと遅れて安心したぐらいだ。

 第二分隊が突撃したとき、僕も援護のために一緒に路地に飛び出した。

 そこで僕は見たーー驚愕に目を見開く敵が倒れていく姿を。

 第二分隊は撃っていない。でも敵は確かに死んだ。そして飛び出した皆が土嚢陣地に銃口を向けたとき、再び小さな銃声。次に撃たれたのは撃たれた重機関銃手とペアであっただろう敵兵士だった。彼は仲間を撃たれたことに驚いていたが、すぐに重機関銃に取り付こうとして戦闘鉄帽ごと頭を撃たれた。

 他の仲間は気づいたか分からない。僕は何も言わずに小銃の五発を土嚢陣地に撃ち尽くした。一人は倒せたかもしれないが、分からない。間を置かずに第二分隊が土嚢陣地を制圧したからだ。

 僕は深呼吸を繰り返し、吐き気を抑えた。人を何度撃っても慣れることはなかった。

「誰が殺ったんだ?」

 小隊長が小隊全員に訊いた。もしかしたら誰かが「自分です!」と立候補すると思ったが誰も宣言せず、奇妙で不気味そうに互いの視線を交差させるだけだった。

「誰も居ないのか!?」

 小隊長が頬をひきつらせる。

「他の小隊の援護があったんだな」

 小隊長は自分で言ったのに納得はしていなかった。

「まあいい。負傷者を退がらせて次に進むぞ」

 太ももを撃たれた第二分隊の仲間が一人と彼を安全な場所へ送るために僕の第三分隊から一人選ばれた。僕ではなかったが。

 再び第二分隊が先行した。僕の第三分隊も第四分隊の背中を守るように進んだ。緩い曲がり道に差し掛かると部隊は止まっていた。どうしたんだろうか?

「また重機関銃だ。今度は三挺もあるな」

 敵は通りの手前と奥にそれぞれ土嚢陣地を敷いて手前は重機関銃が一挺と敵兵が七人ほど、奥には通りを封鎖するほどの大きな土嚢陣地で重機関銃が二挺に敵兵は二十人ほどらしい。明らかに小隊戦力である僕たちには荷が重かった。

 また苦虫を噛み潰した表情をする小隊長。嫌な予感が戻ってくる。


 ダーン


 今度は大きめの銃声が聞こえた。

 直後、「スナイパー!」と敵が叫んだ。僕は外国の言葉を知らないので何が起こったのか分からなかった。

 僕と同じような仲間が居たようで小隊が浮き足立つ。それを小隊長が一喝した。

「落ち着け! 味方が攻めているだけだ」

 士気を高めるために今度は小隊長自らが第一分隊を率いて突撃した。第二分隊、そして僕の第三分隊も続いた。

 通りに出たときには、すでに手前の重機関銃手は排除されていた。僕らは小銃を撃ち続けて土嚢陣地に接近して終いには小銃で殴り倒し、制圧した。だが一息つく暇はない。すぐに土嚢に身を隠さないと奥の重機関銃に蜂の巣にされる。

「軽機関銃を使え!」

 小隊長が叫ぶ。第一から第三分隊に一挺ずつある軽機関銃を土嚢に設置ーーしたときに一挺は敵の重機関銃に破壊される。僕は軽機関銃手ではなかったので小銃に五発で一纏めの挿弾子を叩き込んで槓桿を引き銃弾を送り込む。そして再び奥の土嚢陣地に撃った。

 断続的、連続的な銃声が通りを支配するが敵の土嚢陣地を制圧する前に僕たちの小隊からは一人、また一人と重傷を負ったり戦死していく。

「うあああ!?」

 敵の銃弾が僕の戦闘鉄帽を掠めたので思わず声をあげてしまった。

「第三分隊! 重機関銃を運んで屋上から敵を狙え!」

 小隊長の命令を第三分隊長が受けて僕らに伝えた。

「お前ら二人は重機関銃を運べ、お前は俺と一緒にこいつらを屋上まで守るぞ!」

 僕は重機関銃を運ぶ分隊の仲間を守る役目だった。

 向かうのは今いる土嚢陣地から右斜め前方五メートル先の五階建ての建物。距離としては近いが、あそこに行くには一度、敵の弾幕に晒されなければならない。全身から血の気が引いたが僕は頷くしかなかった。

「小隊長、援護を頼みます! 行くぞ、第三分隊!」

 分隊長が走り、重機関銃を運ぶ仲間二人が続く。そして僕も意を決して走った。

 たったの五メートル。自分に言い聞かせて走った。足下で砂煙が起きようとも目前で光の線が奔っても気にしない。僕はひたすら走った。だが目の前で重機関銃を運んでいた仲間の一人が盛大に倒れた。僕は心配になって止まーーれるわけがない。止まったら蜂の巣にされる。重機関銃を運んでいた片方も同じ思いだったのか重機関銃を捨てて僕と一緒に建物まで走った。

「重機関銃はどうした!?」

 先に建物に辿り着いて分隊長に怒鳴られた。それもそうだ僕は重機関銃を運ぶ二人を守らなくてはならなかったのだ。

 分隊長は僕を蹴飛ばすと、敵に向けて手榴弾を投げた。爆発で敵が怯んでいる間に取ってこいということらしい。僕は重機関銃を手放した分隊の仲間と一緒に再び弾幕の中を駆けて重機関銃を拾った。そのときに重機関銃を運んでいるときに倒れた仲間を一瞥したが、すでに死んでいた。

 僕は左肩に被弾したが重機関銃を運び終えた。それを今度は屋上まで運ばなければならない。

 分隊長が螺旋階段を素早く、でも慎重に登り始める。僕も仲間と二人で重機関銃を担ぎ登った。

 もう少しで屋上に着こうというときに手榴弾がカランと転がってきた。

「伏せろ!」

 投げ返すのは間に合わないと即断したのか、分隊長は叫ぶと戦闘鉄帽を脱いで手榴弾に被せると彼は身体でそれを包んだ。

 刹那、鈍い爆発音がして僕は吹っ飛ばされた。

 十段以上は階下に転がったと思う。だけど僕は意識を手放さなかった。全身を打ち、痛みに身体が悲鳴をあげるが立ち上がれないわけではなかった。小銃を失わなかったのは幸運だと思った。数段上には一緒に重機関銃を運んでいた仲間も重機関銃を大事そうに抱えて生きていた。

「動けますか?」

 僕が訪ねると相手は疲れた表情で頷いた。

 僕たちは互いに声を掛け合って重機関銃を運んだ。途中で命がけで僕たちを守ってくれた分隊長の殉死体に敬礼をして登り続けた。そして後、数段というときに屋上の扉が開かれて敵と目があってしまった。

「敵!?」

「コンタクト!?」

 僕と敵は互いに驚愕した。僕はすぐに小銃を向けようとしたが重機関銃を運んでいたのと疲労から動きが遅れた。敵は既に僕に小銃の銃口を向けていた。


ダーン


 螺旋階段に銃声が響いた。

 だけど僕は撃たれていない。

 撃たれたのは敵だった。

 敵は螺旋階段を滑るように落ちた。僕と仲間は敵の死体を避けて、ついに屋上に辿り着いた。だけど喜ぶことは出来なかった。やっと開けた場所に出られたと思っていたら敵兵士三人に小銃を向けられていた。

 僕は死を悟った。でも小銃の引き金を引いた。仲間も撃ってくれていた。

 僕は敵兵士一人の肩を撃ち抜いてやった。右足のどこかが焼けるように熱かったが気にしなかった。仲間が一人撃ち殺して自分の腹を押さえて倒れてしまったから。仲間である彼を撃ったのは最後の一人だった。僕は小銃を向けて引き金を引いた。


カチン


 僕の小銃は虚しく応えただけだった。僕は小銃の五発の弾を打ち尽くしていたことに今更気づいた。

 そんなときに僕は何かを信じていた。


ダーン


 銃声が響いた刹那、敵は戦闘鉄帽ごと頭を吹き飛ばされた。

 そのときには僕は重機関銃の革紐を掴み、引きずっていた。ガリガリと重機関銃が屋上を削って、使い物にならなくなってしまうかもしれなかった。だけど本来は二人以上で運ぶ重機関銃なのだ。一人で持ち運べるわけがなかった。それでも僕は一歩一歩引きずって運んだ。

 屋上の縁に辿り着くと僕は縁に重機関銃を置いた。下からは銃声が聞こえて小隊の戦闘がまだ続いていた。

 僕は傷ついた重機関銃が暴発することも弾帯が引っ掛かることも考えずに土嚢陣地の敵を撃ち続けた。敵を殺せているのかなんて分からなかった。今にも気を失いそうだった。だって身体がとても寒い。でも引き金を引く指だけは力が満ちていた。

 いつの間にかに重機関銃は止まっていた。どうやら弾帯を噛んで詰まったらしい。僕は屋上に大の字に倒れた。

 そこで僕の意識は途切れた。

 目覚めたら重い身体が揺れていることに気づいた。

「起きたか?」

 隣から聞こえた声の方を見ると僕と一緒に重機関銃を運んだ仲間が笑っていた。

「僕たちは極楽に来たんですか?」

 僕の質問に彼は僕を見下ろして大笑いした。

「喜べ! ここは帰りの馬車だ。俺らは勝ったんだよ」

 僕は微笑み返した。僕たちは勝てたんだ。行きは歩きだったのに馬車という厚待遇で帰れるなんて幸せすぎる。

 僕は生きている喜びをしっかりと噛み締めた。そして家族のことに想いを馳せることが一番嬉しかった。



 黒髪の少女は道で擦れ違う馬車の荷台に知っている負傷兵を認めると微笑んだ。

「またパンをくれたら引いてあげるよ。引き金」

 少女は楽器ケースを背負い直すと次の町に向かった。



寸説シリーズをいくつも書き続けて半年以上が経ちました! 褒めて下さい!!

とまあ、ワンちゃんではないのでナデナデはいりませんが。一月で二つも話が書けるとは思いませんでした。前々作は何ヵ月もかかってしまったので自分でも驚きです。

内容は今回も争いでした。前にも自分で言っていたんですが最近やっぱり荒んでるのかなって思いました。別にミリオタでもないのに何でこんなに戦いが好きなんでしょうね。不思議です。

sおれでは、kょうはここまで。Thank you 。⬅スペルあってるかな

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