仲間の仇か仲間の命か
頭で思っていることが文章として書くことが出来ない。やはり執筆能力が乏しいからでしょう。
「...え?」
死を確信したせめて苦痛を感じませんようにと願い目を閉じた。しかし、幾ら待っても棍棒が智広の頭を直撃しない。五秒、十秒と静かな時が流れていく。もしかして嬲ってから殺すつもりなのだろうかと目を開き再度目の前の巨人を見る、がそこには誰も取り巻きの魔物すらいなかった。具体的に言うとそこは洞窟ですらない。怪物は勿論石も土も空でさえここには存在しないだろう。時間が流れているかすら怪しい。白、白、白、唯の一片の曇りの無い白い、真っ白い世界が私の目の前に広がっていた。
「...確かここは「そう。洞窟に行く前に目にした世界だ」っ!!」
声がした方を見るとそこには豪華な装飾が施された椅子に腰掛けた少年がいた。腰まで伸びた金色の髪と中性的な顔も合間ってまるで少女のようだった。まるで―――
「わ、たし?」
「まぁ気付くだろうね。うん、その通り。おおむね正解と言っておこうか。君と面と向って話す為に僕と言う魂入れる為の器が必要だったんだ。だから少し君に似た身体を一つ作らしてもらった」
ブランコから降りるように勢い良く椅子から飛び降り、倒れている智広の目の前に屈むと手を智広の身体に当てる。すると淡い光が少年の手から智広の身体に伝わり、地面に飛び散った血液は智広の元へと戻り、失った肉は無くなった所から植物のように生えてきた。生き物みたいに智広の体を張っていた光は体中の傷が完治したのを確認すると再び少年の元へと戻った。不思議そうに傷があったところを観察している智広の顔をみてクスッと笑うと椅子に座り話を戻した。
「つまり君の兄弟と言う事になる」
今起こっている出来事に頭が追いつかない。唯でさえこんなおかしな場所に放り込まれて仲間が死んでるのに今度は私の弟だと? 夢にしてももう少しマシな夢を見るはずだ。もう何が何だか分からない。
「じゃあ一から説明していこうか」
こいつ頭の中が読めるのか? 口からその言葉が出そうになったが寸の所で留めた。
まだこの現実を受け止め切れていないと言うのにこれ以上奇想天外な事が起きてたまるか。一先ずこいつの話を聞こう。もとの世界に戻る方法を知っているかもしれない。こんなに現実に離れた現象が起こっているんだ。もしかすると死んだ仲間達を生き返らせることも出来るかも。
ぐちゃぐちゃだった足が元通りになった事でやっと立てるようになった私は立ち上がると少年の所へと足を進める。
「あれが見えるかい?」
少年の指差す方向に目を向けると―――
「な、んで!」
気付かないうちに握り締めていたウラノスをそれに向けて構えた。智広の身体から何かの波動のようなものが出てるのが分かる。しかし、今は目の前にそれに気をとられており自分自身に起こっている出来事に全く気付いていない。
「お前どういうつもりだ。何であれがここにいる!」
私の仲間を殺した元凶。イベントの最終ボスにして邪神系イベント最終章のレイドボス邪龍神ドロモスが私の目の先にいたのだ。しかし、様子がおかしい
「安心していいよ。もうあいつは封印したから」
その巨体の身体に幾重にも鎖が繋がれておりその周りには光の壁が何十にも囲んでいた。拘束を解こうともがく様は滑稽の一言に尽きる。私はこんな奴に仲間達を殺されたと思うとつくづく自分の無能さに腹立たしさを覚える。が今はそんな事を思っている場合ではない。剣先をドロモスから少年に向け。
「お前は何者だ、ここは何処だ、何で私はここにいる? 封印したとはどういう事だ」
「自己紹介がまだだったか。何しろ器の中に入るのは初めてだから人間的な文化が知識としては理解していうるんだけどいざやらないといけなくなると忘れてしまう」
いけないいけないと呟きながら。
「僕は世界概念を管理するもの。世界の理を正し、あるべき道に戻すもの。よそはどうか知らないけど僕の世界では僕の事を神様って呼んでいる」
そういいながら指をパチンと一度鳴らす。すると当たり一帯に轟音が鳴り響きそれと同時に透明の壁に閉じ込められた邪神ドロモスが地面に飲まれていった。
「僕の世界には僕以外に神がもう一人いたんだ。それがドロモスさ」
「何が言いたい」
「僕の世界に限った話じゃない。君の住んでいる世界にもそれ以外の世界にも神と言う存在は二つ存在する。一つは僕のように世界概念を管理し守護する神。もう一つが世界を壊し、狂わせようとする邪神だ」
「そんな事はどうでも良いんだよ! 私の質問に答えろ」
「功労者である君の頼みなら聞かない訳にはいかないな。先ずは第一の質問、ここは何処だ? から。ここは神だけが存在を許される聖域サヘクトリス。第二の質問、何で私はここにいる。それは簡単僕がここに呼んだから。あのままだったら邪神の残党に殺されていたからね。最後の質問、封印したとはどういう事だ。君達がドロモスに致命傷を負わせたお陰であいつを封印することが出来たんだ。本当は完全に葬りたかったんだけどね完全に封印も出来たし。もうあいつは自分の力で封印を壊すことは出来ないだろう。僕が直々に戦っても良かったんだけど、それだとこの世界自体が崩壊しかねないからね」
神のその一言を聞いた瞬間、剣先を向けていたウラヌスを横凪に切る。しかし寸の所で地面から出現した白い手によって阻まれる。無数の手は智広の身体を地面に押さえつた。
「流石に僕を殺させることは出来ないな」
「お前が仲間を殺した! あの白い手、私達をこの世界に引きずり込んだ手だ!」
「そうだよ僕が向こうの世界から呼んだ。僕の世界の人間ではあいつを倒すことが出来ないからね」
「じゃあもう用済みの私を始末しようって事か? だからここに呼んだんだろ」
最近の小説である神様が自分の世界に転生させるのは良くあるが。もし、こいつが転生させてやるなんて言って来ても私は絶対しない、するくらいなら死んだほうがマシだ。殺せるものなら殺して見ろ。しかし、神は智広の予想していなかった言葉を口にする。
「君を殺すのは簡単だけどそれはしないよ、だって君はもう神様に成ってしまっているのだから。君には未来永劫この国を守ってもらわないとね
「ふざけたこと言ってんじゃねえ! 仲間を殺した張本人のお前の世界を守れだと? そんな事するくらいなら死んだほうがマシなんだよ」
「本当にそうかな?」
そう言いながら神はあさっての方向を向く。それにつられて神の視線の先を見た。するとそこには―――
「十崩器?」
九本の武器たちが神の周りをクルクルと回りながら浮いている。
「そう。これは君達が邪神を倒す為に僕が作った武器。そして今は君の仲間達の魂が入った器でもある」
「っ! 私を脅しているのか?」
「いやそうじゃないよ。うーん、じゃあこうしよう。ドロモスは封印されたけどこの先なにかあって封印を解かれないとも限らない、もし封印が解かれた時にドロモスを殺して欲しい。確実にね。もしそれが出来たのならば君達を元の世界に送って上げよう。人間ではないが人間のようにもとの世界で生きることは出来るだろう」
「私がそれを受け入れると思っているのか?」
「さっきまでの態度を見ると君は仲間達を何より大切にしているようだ。その仲間を生き返らせることが出来ると分かった以上君は首を縦に振ってくれるはずだよ」
仲間の仇と仲間の命どちらを取るか。そんなものは決まっている、たとえ仲間の死ぬ切っ掛けを作った奴だったとしてもそいつの頼みで仲間と共に元の世界に帰れるのなら―――
「決まりだね」
重々しく私はうなずいた。すると押さえつけていた白い手が身体から離れ地面へと帰っていき・それとほぼ同時に魔方陣のようなものが足元に浮かび上がった。
「約束を忘れるなよ」
「契約は守るよ」
光を強める魔方陣。自分の身体が足から消えていく。何百年何千年が過ぎようと私は邪神を倒してみせる。
覚悟を決めた私は仲間を殺した神の世界で神として生きていく事にした。