とある男の就寝前の悪癖と幸せについて
彼女の事を考えながら眠ると、非常に寝つきが良い。
それはもう、寝不足な時には毎度毎度実践しているほどだ。
今日も、彼女の事を考える。
まずは、彼女の頭をカチ割る。そうすると彼女はもちろんうつ伏せに倒れるだろうから、腹に蹴りを入れ仰向けに倒す。彼女は床に叩きつけられて、口から吐瀉物があふれる事だろう。
僕はそんな無様な女を見下して、ケラケラと高らかに笑う。
次に、彼女の腹に僕の手を突っ込む。無論素手で。勿論食い込むだけで、刺さりはしないだろう。そうして何度も何度も何度も何度も。悲鳴が何度も上がるだろう。愉快な悲鳴が。
今度はどうしようか。
腕の骨を金槌で粉砕して、ぐにゃぐにゃになった彼女の腕を色々な方向に曲げて遊ぼう。彼女の悲鳴は実に耳に心地よいだろう。…肩まで砕いても良かったか。
…うーん、最近この方法だと物足りなくなってきた。
だが、妄想の質を高める…なんて、どうすればいいのだろうか。
ともかく、だんだんと眠気が押してきた。
考えるのは、これくらいにしておこうか。
目覚める。
すぐに布団から身を起こす。そうしないと二度寝してしまいそうだから。
カーテンを開け、日光を充分に浴びて、自室を出る。
…自室を出ると、【彼女】と鉢合わせした。
家の中で鉢合わせも何もないだろうが、鉢合わせした。
「おはよう、…あなた」
「…ああ、おはよう」
僕はいつも通りの挨拶を交わす。
と、
「…おはよう……お父さん、お母さん」
息子まで起きてきたようだ。
…全く僕も柔くなったものだ。いや、弱くなったというべきか。
僕の家族を皆殺しにした女を好きになるなんて。
挙句子供までこさえてしまうとは。
今の境遇を嘆くつもりは無い。むしろ喜ばしい物だ。僕らみたいなクズが、人並みながら幸せを掴めるなんて喜ばしいじゃないか。
だが、僕は彼女の全てを許したつもりは無い。
【妻】としての彼女は愛しているが、【仇】としての彼女は許さない。
一生かけても、許さないつもりだ。
故に、自分がどんなに楽しくても、どんなに幸せに感じても、心のどこかでドロドロとしたものが溜まる。貯まる。
だから定期的に彼女を拷問する妄想をして、憂さ晴らしをする。
それで起きたら元通り。妻を溺愛する日々の始まり始まり。
これでいいじゃないか。僕も加害者だ。
僕達は、許されることは無い。
許されなくていい。
まぁ、今はそんな事どうでもいい。
とりあえず、一階に降りて朝食の準備を始めよう。
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