二
暗い話ばかりでは難なので、此処で一つ小噺。
まだ横浜市に住んでいた頃に、母が友人の小さな弁当屋の手伝いに出掛け始めたのですが、実際のところは父の嫌うギャンブル場、所謂パチンコ屋で稼ぎを始めていたのでした。
幼い私を置いていく事も出来ないので、母は「お父さんには内緒ね」と大好物の卵ご飯を掛け合いに私と兄を連れ出し、当時はまだ子供の出入りも許されていたパチンコ屋に兄妹を放ち小金稼ぎに精を出していたのであります。
或る日、父と私で家に留守番をして母が弁当屋の手伝いと称したパチンコ屋に出掛けた時。 終わりの頃合いを見計らいお迎えに行こうと父は私と共に、泉区弥生台の例の職場へ向けて車を走らせたのです。
途中の道程で、学校終わりの兄も乗せて目的地に着いては見たものの母の姿は在らず、痺れを切らした父は「一体お母さんは何処で何をしているんだ」と言ったので、私はパチンコ屋の方を指差して「あっちの方から来るのじゃない?」と口を滑らせたのです。
それだけならまだ父も気付かなかったものを、兄が横から「馬鹿。それを言ったら駄目だってお母さんが言ったじゃないか」と言ったものだから、愈々父も勘付いてパチンコ屋に目を凝らし始めたのです。
其処へ何も知らない母親は呑気にやって来て、日払いで貰ったという小銭を手に持ち満面の笑みで車に乗り込みました。
父はもう怒りに狂っていたと思います。
私の記憶は此処までで途切れましたが、母も思わぬところで失敗ったと肩を落とした様な雰囲気だったと記憶しており、その頃から私は悪の元凶としての才能を発揮し始めていたのであります。