第8話 商い下手だけではなく
少しハイペース更新ですが、いつまで続くか私にはわかりません。
「……がんばろう!!」
「う、うん!!」
前回よりも厳重に布で身体中を多い、先程土魔法で形成した砂岩の桶に海水を入れ、マヒナちゃんをそのまま収容した。収納はしてはいるが、無機物では気づかないが収納されてる場所?というものがあるらしく、左肩辺りからマヒナちゃんは目だけを出して、外を覗いている。声はそこを閉めてても聞こえるし、会話ができることは証明済みだ。
これから、街のギルドに向かう。
マヒナちゃんが人魚であまり水がないところだと身体に負担がかかるとのことで仕方なく置いて一人で行こうと思ったが、あまりにも泣くので、仕方なくこの方法をとった。
正直、身体の中にもう一人いるというのは、なかなか感覚が掴めない。
今回は、ギルドカードを使って、拠点ギルドとの一日往復一回の転移魔法を使ってみようと思う。
実はそのことを先程、マヒナちゃんから教えてもらった。(彼女の情報量は凄まじいが、やはり海で暮らしているため実用したことはないとのこと)
「じゃあ、やってみるよ」
「大丈夫!ユエちゃんならできる!」
ギルドカードを挟むように両手で合掌し、光を帯びるまで魔力を流し込む。この光は適正魔法の色なので、虹色に光り始める。その魔力を地面に叩きつけるように合掌した状態で腕を降り下ろす。
そうすれば、あっという魔にギルドに設置された魔方陣に到着。
「す、ご…」
ビックリしてしまう。ああ、もう日本にもこんな魔法あったらいいのに。
「驚いているとこ悪いが、おめーさんにはあっちに来てもらおうか」
「いっ……っ、あ、お久しぶりです」
いきなり声をかけられて、我に返る。声がした下の方を見ると、この前お世話になった小人さんがいた。え、あっちってどっちですか?指を指した方向には階段しか見えませんが。
「……とりあえず着いてこい」
階段を上り、そこには受付をしてくれたお姉さんと小太りのブタ顔のおじさんがいた。
(ハーフシルフとハーフオークじゃない!?本当に実在するのね!!)
マヒナちゃんが騒いでいるが、そんなにスゴいことなのだろうか。
「まあ、座ってください、な。てか、暑くない??」
「暑いのはギルド長だけです。こんなところですみません、紅茶出しますね」
「ああ、頼む。ギルド長連れてきました」
どうやら、このおじさんはギルド長らしい。小人さんの畏まった態度から見ても、とても偉い人なんだろう。お姉さんの扱い的にはかなり雑だが。
案内された席に座り、ギルド長と向かい合う。マヒナちゃんも緊張したのか、一気に静かになる。
「はじめまして、私はグンドルフ = メツガー。このガラムピピ支部のギルド長勤めております。ハーフオークだけど、こわがらないでね?」
「いえ、怖がってないですからね。ケルスティン = モリーと言います。ケルーって呼ばれてるのでそう呼んでください」
「ギルド運営部部長のダルコだ」
「ユエ=サヤマです」
(マヒナだよー!!)
残念ながら、マヒナちゃんの声は聞こえてないんですがね。メツガーさんは暑いのか扇子を取り出し、パタパタと扇ぎ始めた。
「今日はね、前金じゃ足りなかった分の支払いとね、これからどの程度販売していくのかというお話をしたいのね。とりあえず、ケルー先に代金お願いするね」
紅茶を並べ終えたケルーさんは、収納から出したてあろう一つの大きな袋を目の前に置いた。ダルコさんに「確認しろ」と言われ開けてみると、そこにはたんまり入った金貨だった。
「金貨58枚分。1枚分はギルド登録の諸費用と通行料だから、実質金貨60枚分の報酬だね」
「ど、どうして…」
「この塩はとんでもないものだった。純度が高い上に魔力も豊富。このままいくと王宮料理御用達のお塩となるわけだ。そうなるとお前のできる納期を知りたい」
ダルコさんの鋭い視線が私を貫く。小人さんだけど、他に例えるとしたらヤーさんだよ、黒髪だしオールバックだし目付き怖いし…!!
だとしては、これは生活をする上でとても大切なことである、がんばるしかない。
「一壺なら一週間に1個はできます。波の関係でそれ以上はわからないです。今日は、とりあえず前回渡せなかった分を合わせた二つをお持ちしました」
収納から二つの壺を出す、どちらとも塩が入っている。
「……ほう、ありがとう。出来れば、これからもよしなに。追加分の120枚はギルドカードに振り込んでおくね」
「はい!あ、この金貨3枚分を銀貨に崩しておいてください。」
そういって、三人と一緒に部屋から退室し、メツガーさんとダルコさんは仕事だと言い、会議室へ。ケルーさんと受付まで戻る。暫くすると銀貨30枚を持ったケルーさんがやってきた。
「買い物でもするの?」
「は、はい!布と壺を買いたくて…」
「ふーん。あ、そうそう、近くの喫茶店でご飯にしない?個室だから貴方の中にいる子もご飯食べれるとおもうよ」
「えっ」
(やっぱ、ばれるかー)
「おかえりなさ…ケルーでしたか」
「おかあさーん!個室使うねー!」
喫茶店はとてもお洒落な三階建ての白い洋館であった。働く女性は皆正統的なメイド服を着ている。そして、そのなかで一番地味ながらも気品のある美人さんにケルーさんは真っ先に声をかけていた。
母親なのだろうか、確かに似ているが、ケルーさんのが親しみやすいなあなんて。
(シルフらしいあまりにも透明すぎる美人さだよね。人魚とは違うなあやっぱ)
そう、さらりとしている絶世の美人なのだ。ケルーさんは少し愛らしさがあって、とても親しみを感じる。マヒナちゃんもかなり美人だが、どちらかというとマーメイドは儚く可憐な気がする。
そんな、私は平凡ですけども。
通された個室は懐かしいジャポニズムを一瞬感じさせるような、調度品とデザインだった。
「すごいよねーこれ、お父さんの趣味なんだって」
「ええ、アホだけど自慢のお父さんよ。あ、マヒナちゃんだっけ?外に出てきて大丈夫よ。ここは密談室だから音漏れないし」
マヒナちゃんを取り出すと、人魚だとは思わなかったケルーさんが慌てて走り、猫足バスタブを持ってきてくれた。そこに私は水魔法で水を出し、自分用の塩を少し混ぜた。
「海水じゃないけど大丈夫。改めまして、メロウ族のマヒナだよ!ハーフシルフのケルーさん!しかも、モリーということは、鏡の魔王のお子さんなのね!ということは、さっきのお母さんはシルフの姫様でしょ?凄いわ!!」
「はじめまして、ケルスティン=モリーです。物知りなのね。一応ここのオーナーはその鏡の魔王よ」
メイドがいる喫茶店。なんだろうか、私がいた時代に通ずるものがあり、こちらのがまだ上質だが、なんというか残念な既視感がある。
静かに入ってきてお茶を出してくれたメイドさんが、黒い猫耳としっぽがあるとても可愛らしい女の子だったからかもしれない。
しかも、緑茶と牡丹の形をしたねりきり。なんだか、本当に日本にいるみたいだ。
「ありがとうございます。とても美味しいお茶ですね」
「え!?これ、お茶なの!?というか、この花の形したのは何?」
「そうだよ、少し苦いけどね、それはねりきりというお菓子だよ」
出されたねりきりを口に含む。程よいアマさと餡子独特の舌触りに、幸せを感じずにはいられない。正直、フルーツ生活は飽きていたし。お菓子を食べ進むスピードが止まらない。
ふと、気づくと、ケルーさんが一口も手をつけていないことに気づいた。具合でも悪いのだろうか、顔を見ると真剣な眼差しを私に向けていた。
「単刀直入にお伺いします。やはり、貴方は異世界人ですね」
「えっ、なんで…」
「私が説明致します」
そうすると、いつの間にかにケルーさんの後ろに、先程玄関で会ったケルーのお母さんが立っていた。
「この世界でこのように鮮やかな緑茶は存在しません。紅茶かほうじ茶、または麦茶くらいです。ハーブティーもイエローと赤いものしかありません。なので、緑茶を出したとき、殆どの人は「これは、何か?」と聞いてきます。実際にこの緑茶も、私の父が異世界人選別用として作ったものですし。それにこのお菓子“ネリキリ”を知っているものは、この密談室に来れる親しい貴族の方か“ニホン”という国から来た人くらいしかわかりません。それなのに貴方は何も疑わずに食べた。これは、まさに異世界人、それも“ニホン”から来た証明です。他にも色々と用意してたのですが、貴方は裏をかくことが下手なようですね」
ええ、本当に下手なようです。けれど、素直に認めたところで、この先どうなるかわかりませんので、声に出して認めることはせず、項垂れるだけにしてみました。
「それが、どうしたの?異世界人なんていっぱいいるじゃん!ユエちゃんがそうだとしても、ここまでして証明する必要あるの!?」
「ええ、そうです。ただ、このユエさんがお作りになられた塩を私の主人がご所望なのです」
「ちょ!母さん!!ああ、もう、お父さんがね、気に入っちゃったの!だから、お父さんにも卸してほしいのよ。こんなことギルド長のメツガー義兄さんに頼めばいいのに。母さんはお仕事戻って!!」
「え?おにいさん!?」
ケルーさんのお母さんは、消えてしまった。ただ、移動魔法があるのだからそういう魔法もあるのだろう、なので、それよりも驚いたことがあるのは、そこだ。
「ご、御家族なのですか?」
「ああ、うちの腹違いのお姉さんと結婚してるの。ハーフエルフとハーフオークだよ、メツガーお義兄さんに似ないことを私たちは願ってるけどもさ。うちのお父さん、9人奥さんいてね。うちの母は五番目の奥さんなの。本当、よくやるよね。
大丈夫、貴方が異世界人とはバラさないわ。父からも塩の件を承諾してくれるなら、身の安全は保証するとのこと」
「裏を返せば、私達の安全も脅かせるよーってことだねー」
「マヒナちゃん、頭良いー!」
「それ、拒否権ないんじゃ…」
なんだか、異世界に来たということの次くらいに、面倒な商談持ち込まれました…!
ファンタジーの醍醐味である、異種族と、魔王(単語だけ)。こっから先は少々説明が多くなるかもしれません。
果たして、ユエちゃんは理解できるのでしょうか。