第4話 不安な気持ちを残したまま
右向け、左向け…よしっ!
本日は遂に、塩を売りに行く。実は塩を作りはじめてから既に一週間。なぜかと言うと、波が荒い日などがあり、なかなかスムーズに行かなかったのだ。壺も一つ水分飛ばしすぎた関係で潰すことになってしまったし、何事も簡単にも行かないことを実感した。
本当に、ジャングルや海に食料が豊富なことだけが幸いで、それがなかったら死んでいただろう。
あの本も読み終えてしまい、暇潰しも無くなり、書いてあった魔法も粗方覚えてしまった。特にその中でもサーチという魔法のお陰で、食料になる貝や危険かもしれない人の気配なども感知することができたので、とても大助かりだ。
あとは、鑑定というのもあったが、塩とか海とかそんな見ればわかるようなことしか出てこないし、必要はない。
ゆっくりとした足取りで、道を歩いていくと、大きな石の壁が見えてきた。そして入り口には二人の鎧を着てマスクを被った兵士がいた。
……やはり、ここは地球じゃないんだな。
鎧なんて、私の世界には既に飾り程度。たまにコスプレしてる人くらいだった。
少し頭が重くなる。思えば、誰かと話すのはあの青年と話して以来だ。魔法が無詠唱出来るようになってからは、声も随分出していない気がする。
「こんにちは」
意を決して話しかけると、一人の兵士がマスクの一部をずらして、顔を覗かせる。そこにはもっさりと蓄えた青色の髭に包まれた優しそうなおじさんであった。
「おや、坊主。通行書をもっているかい?」
「いえ……この前まで隠れていたもので」
「おや?もしや、誘拐された子なのかい?」
「え、ええ」
「うーん、嘘は言ってないようだねぇ。可哀想にこんな小さいのに。仕方ない、通行料をギルドに立て替えてもらおう、そうしよう」
「……バルホンスさん、俺が案内します」
「レイ、任したぞ」
「着いてこい」
「あ、はい!」
とりあえず、なんかトントン拍子で町に入ることが出来た。誘拐…なのかな、確かに世界から世界へと連れ去られたものだから、同じなのかな?
しかし、この案内役のレイ?さんは足が早い。少しでも立ち止まると置いていかれそうだ。なにせ、こっちを一切見ない。一生懸命ついていくが、既に私は息が上がり始めている。あああああ、多分体格と声的にこいつ男だろうと思うけど…こんな男はモテない!絶対モテない!私が太鼓判押す!
「着いたぞ、入れ」
そこはレンガの大きな建物だった。総合ギルドと書かれている。……ギルド、ああ役所と求職案内と銀行を兼ねてるとこか。
「わ、わたし、身分証は…」
「ん?ああ、身分証も作る前の子ども拐うとはやはり一斉摘発するべきだな。ほら、さっさと入れ」
「は、はい」
慌てて中に入ると大きな受付があり、普通の人が立ち並んでいた。そこの一つにカード発行受付と書かれた看板があり、レイさんはそこに並ぶよう指示すると横の階段から下に降りていった。
列に並ぶもなにも、カード発行受付今並んでる人いないしなー…
「カード発行したいのですが…」
「お金はありますか?」
「いえ、発行する前に誘拐されて今の今まで隠れてきたもので…売るものはあるのですが」
「わかりました。では、発行した後売るものをギルドに売る形で発行手数料いただきます。よろしいですか?」
「はい、お願いいたします」
受付のお姉さんはすっと歪な丸い水晶私の前に出し、発行の仕方について教えてくれる。仕組みは魔法と同じらしく、私の流した魔法の力が何色だか判定した後その随分の上にカードを翳すことにより、情報がそこに乗り移るのだそう。
これは銀行のカードにもなっているが、本人がいないところではただの銅板となってしまうということ。
うわーハイテクー
そんなことを思いながら、お姉さんの指示通りに水晶へ手を翳す。
七色が微弱に輝いた。
正しく言えば七色かはわからないけど、まるで、虹のように輝いているのでそう例えるしかなかった。
「全適正をお持ちなんですねぇ。珍しいですね」
「そうなのですか?」
「ええ、 まあ全適正の人はあまりにいないですねえ。ただ、異世界人の人は大体複数か全適正、更には多量の魔力を保有してるんですよねーそれか一個か二個特化か。ああ、ごめんなさい」
「いえ、とりあえず発行を…」
「あ、はい、ごめんなさい。そうだ、メイドとかどうですか?今全適正の人募集してたりするんですよね」
「あまり、長居出来ないので…ごめんなさい」
「いえ、失礼しました。すぐお客様に案内できそうなのを伝えるように上に言われてまして。どうやら、誘拐されてきたようですし、目立つとこにはいれないですよね。全適正持ちなら仕方がないことですね」
「いえいえ」
登録し終えた銅板のカードを受けとると、そのまま横の買い取り受付に並ぶように指示される。そこは少し並んでいたが、回転率がいいのであろう、すぐに案内された。
「どれを?」
「はい、あの、これです」
潰した壺にたんまりの塩を入れたものを渡す。この壺ならばあげられるし、とりあえず重さも計りたいので丁度良いものである。
「……これは?塩ですか?岩塩ではないですようね?」
「は、はい」
受付の人が指に少しとり、舐める。
「しょっぱい…!!ぶ、部長、すごいのが来ちゃいました!」
受付が慌てた様子で、誰かを呼ぶ。誰呼んだのだろう、覗きこむが誰かが来る様子はない。
「ん?」
「下だよ、お嬢ちゃん」
声のした受付カウンターの下を覗きこむと、私の腰くらいまでの背丈しかないお爺さんがたっていた。
ああこれが、小人さんか……
「これは、塩か。ん?サラサラしてるな、岩塩ではないようだ」
「は、はい。」
小人さんもまた手に少しとり、ペロリと舐めた。
「うめぇなあ…これは上等だ。しかも、すぐに口に溶けていい。不純物もすくない上に栄養素も高い…」
「そ、そうなのですか?」
「お嬢ちゃん、これ一ヶ月にどれだけ納品できる?」
「そうですね……天候などの関係もあるので、なかなか同じ量を提供するのは難しいかと思われます…」
「わかった。とりあえず、これ一壺を手数料抜きで金貨一枚で買い取る。三日後また来てもらってもいいか?」
「は、はい!!」
金貨一枚、すごい。やった。嬉しい。
渡された金貨10枚を半分の銀貨5枚分をカードに入れてもらう。
銀貨で何を買おうか…
「ありがとうございます!」
「いや、とりあえず、前金だ」
ギルドから出て、辺りを見渡す。とにかく、まずは地図とお肉かな。
さて、次週はお買い物回。
この世界についてもう少しお話します。
特に現在のレートについてとか。