第2話 順番を逆にする
「そうだ、濾す布か紙が必要だった…」
鍋の代わりになりそうな頑丈な壺三個と海水を汲むのに必要な瓶を4本。火は魔法でなんとかできるし、ジャングルの落ち葉もあるからいいのだが…問題は濾す布がない。
紙なんてこの世界では高級品とのことだ。
ただ、そのためにノートは売りたくないしなぁ…
……仕方ない、奥の手を使おう。
既に動かないスマホの代わりに、光魔法のライトを使って洞窟の奥へと向かう。
あの白骨死体を越えると、そこにはボロボロの服が落ちている。
汚いが仕方がない。どうやら服だけで死体が着ていた訳ではないのが幸い。
ボロボロの服を海で確り洗い、魔法の真水で洗い流し、火と風で一気に乾かす。そして、それに着替える。男物でぶかぶかだが仕方がない、女だと危ないかもだし。胸はぼろ布で無理矢理押さえつけている。
脱いだ服や荷物は財宝を運んだであろう、大きな袋を序でに持ってきて置いたのでそのなかに入れる。
もし、バッグに目をつけられたら困るしね。
袋を担いで、あの奴隷商人を見たあの道に戻る。
怖いが仕方がない、とりあえず、一つだけ売ることを決心したものがあるのだ。
とにかく、商人が通るのを待つしかない。
そこから、一週間くらいだろうか、私は毎日その道を訪れて、朝から夕方まで待った。
ただ通るのは、奴隷商人か剣や斧を担いだいかついおっさん達ばかりなのだ。
あの魔法は文字だけではなく、会話の内容がわかるようになってたのは、生き抜くためには嬉しい効果。あとは、私も喋れれば問題なかろう。
……しかし、長時間待っているお陰で、今私の食料はフルーツと草ばかりだ。蛇やウサギも危なかったので退治はしたが、如何せん捌き方がわからないし、最初は殺すことさえ躊躇い、怪我ばかりしていた。あの本が無ければ、私は死んでいたと思う。
……けど、肉の捌き方位書いていてほしかった。そろそろ、肉食べたい。
そんなこんなで、もう、夕方である。
このままだと、まだまだサバイバル生活を続けることになるのかな。
諦めかけたそのとき、アラビアっぽい服の優しそうな青年一人がそこを通ったのである。荷物的にも商人っぽい気がする。勘だけども。
これは、チャンス…!
とにかく、大きな袋を見つからない場所に置き、見失わないうちに、一目散に駆け寄っていった。
「ご、ごめんなさい…!」
「!?誰だ!!」
声をかけると、驚いたのかまるでアラビアンナイトに出てきそうな剣を此方に向けてきた。たしかに、アラビアっぽい衣装だけども…
「ひっ!怪しいものじゃないんです!ただここが何処だかわからなくて!商人さんなら物を交換できるかと!」
とりあえず泣きそうになりながらも、こちらの事情を伝える。
「ん…、ああもしや、人浚いから逃げてきたのかな…でも、こんな逢魔が刻に誰だって警戒するよ?」
どうやら、こちらが非力なのに気付いたのか剣を下ろしてくれる。そら、丸腰ですしね。しまってはくれないけども。
とにかく、私は後ろ手に持っていたものを彼に見せる。
「あ、あの、これと服と布を交換してほしいんです…読めない字なので、異世界のものかと…思ったのですが…」
「うん?どれだい…って、これは!!」
それは少女漫画一冊。この世界には違う世界の漂流物が高く売れる傾向にあるのは、本に書いてあった。しかし、教科書やノートはいざというときに役立つし、筆記用具や服は機能性的に売りたくない。スマホは……帰ったときのためだ。残しておきたい。
あの財宝に関しては論外だ。この世界、呪いとか存在しているらしい。しかも、迷信ではなく確実に。この服も一番綺麗で安そうな服を探した。なんか、王冠とかあったし、綺麗なドレスもあったけど、呪われるくらいならそのまま放置しておくのに限る。
結果、この色恋沙汰と暇潰しにしか役に立たない本を手放すことに決めたのだ。
元々すぐこれを交換できるよう手に持っていたため、待ちぶせしていた長い時間はこれを読んでたので、内容は頭に入ってる。この続きがいつ読めるかどうかは、わからないけども。
とにかく、布も高いらしいが、漫画如きで三、四枚交換できたらかなりの儲けものだろう。ああ、早く交換してもらいたい。
「なんで、君がこんなものを…?」
「たまたま、逃げる道中で拾って…あっちの山の方で…」
これは、考えていた言い訳。異世界人だってバレたら終わりだしね。拾ったことにしてしまえば、全てが丸く収まる。物資だけ迷い込むこともあるらしいし。
「異界の門が出たのかね、しかし、なんで布なんてほしいんだい?」
「夜の寒さを凌ぎたくて……それに、この服もボロボロなので…」
強ち、間違ってはいない。海風はなかなかに寒いものだ。それをジャージだけで凌ぐのはなかなか至難の技。火もよく消えてしまう。服だって、さすがにこれ以外に着替えたい。
事情を察したのか青年は、背中に背負っていた荷物を下ろし、そこから、とても大きな白い布を3枚出してくれた。
また、少し派手だが着心地の良さそうな布を五枚ほど出してくれた。
「この、布たちと交換でいいかな。異世界のものは高いからね。これ全部木綿なので着心地も良いし、通気性もよい。ウールやアンゴラはないけども、どうだい?」
「いいのですか!!」
「ああ、いいとも」
「ありがとうございます!!」
布を渡してもらい、すぐに彼に漫画を渡した。そしたら、今度は2着ほどアジアンテイストなズボンも出して見せてくれた。黒と深緑でとてもオシャレだ。
「それに、このズボンを二枚あげよう。布だけじゃ、レートが合わないだろ?これもなかなかの通気性が良い、着方も教えてあげよう。このズボン、普通のと違って、テイパンツといって腰の紐で調節するのだけど」
「わあああ…本当に予々ありがとうございます!」
交渉がすんなり成立し、思った以上の収穫だった。ズボンの履き方を教えてもらうと、もう遅いからと彼と別れる。海岸に戻るやいなや、ボロボロの服を脱ぎ体を徹底的に水浴びをして洗う。あんな不潔な格好二度としない。毎日洗濯してたけど、もう我慢できない。
一応クリーンという清潔を保つ魔法もあるけども、やはり風呂、じゃなくても水浴びをしたくなるのが日本人の習性みたいだ。下着をついでに洗い、体を風で乾かす。一旦ジャージを着込み、今度はハサミで布からパンツ擬きを作る。褌を模すのは嫌だったが、褌タイプのと両横を結ぶタイプのを作ってみた。下着の履き心地を比べるためだ我慢我慢と。
また、残った布を適度な大きさに切り出し、海水を濾す布を作る。
派手な布も創意工夫したら様々な着方が出来るだろう、やっと少しこの生活が楽しくなってきた。
そんな楽しく工作をしていた彼女は気付かなかった、商人とはとてもずる賢いものであり、その価値を誤魔化すことに長けていることを。また、お互い気持ち良く買い物が出来たと錯覚させることも上手いのだ。
三日後、王都に大きな敷地を買った青年がいたそうだ。そのことを彼女は知るよしもないのだ。
商売人って、簡単に信用してはならない。
また、百聞は一見にしかず。文字でだけ書かれた情報は、語弊を生むということです。
あ、ユエの容姿は黒髪でセミロング、平凡なふわっとした女子です。