第1話 それは、一歩進むと言う
夕陽が落ちきる前に、泣きながらもとにかく寝るとこを探して、砂浜を歩いていく。
家族とか、友人とかの顔が頭に浮かぶ度に、今の状況の不味さがわかる。
死ぬかもしれない。
何に襲われるかわからない。
ご飯もありつけるかわからない。
病気……怪我でもしたら命取りだ。
フラフラと歩いていくと、ひとつの洞窟を見つけた。
雨宿りが出来る程度屋根はあるし、寝るとこが砂浜というとこを目を瞑れば寝れそうだ。ただとても暗いし、なにが出てくるかわからない。
仕方無しにバッグに入っているスマホを取り出してライトモードにし、辺りを見渡す。
特になにか物があるわけではないようだ。
本当に、圏外のスマホなんてこんなことにしか役に立たないね……。
「とにかく、もう寝よう」
少し奥に進むと良さそうな砂場があった。そこにそのまま横たわり、目を瞑った。
怖かったが、それ以上に疲れてしまっていたようだ。いっそ夢であったらいいのに。目を開けたら、日常が広がってれば…
朝、日差しの眩しさに起きれば、洞窟の様相がよく見えた。どうやら、まだ奥に続いているようで、暗い道が続いている。
夢でなかったことに落胆しつつ、何をするべきか考える。
とにかく、進んでみよかな…
正直、死んでも仕方ない状況で、何を怖がればいいかわからない私は、スマホのライトを頼りに進んでいく。
中には壺や瓶、木の破片など様々なものが落ちていた。
進めば進むほど、海の塩が結晶化したものだろうか、洞窟がキラキラと輝いている。
それに気をとられていたせいか、かつんっと何かを蹴っ飛ばしてしまった。
ゆっくりとしたを見れば、そこには白い…
「きゃああああああっ!!」
一つの白骨死体だった。ボロボロの布を纏い、大事そうに金銀財宝を握りしめている、
「うわっ…あっ…うぇっ」
胃酸が込み上げてくる。ただでさえ飲まず食わずで吐き出すものはないが、気持ち悪い。
とにかく、落ち着くしかない。少しずつ呼吸を整え、改めて状況を確認してみる。
……普通ここで、あの財宝をなんとかして奪うのだろうけど、言葉が分からない私が持ってても意味はないし、死体が持っていたなんてなんか呪われそうで嫌だというのもある。
戻ろう…
振り向き際、何か緑色のものが目に映った。
それは一冊の本だった。
手にとってみると、様々なイラストがついた本で地図や人の絵などが描いてある。
少しはこの国がどこなのか…わかるかもしれない。
ライトで照らしながら、ペラペラ捲ると一行だけ、親しみ深い文字が見えた。
それは少し文字や文法が崩れているが、それはどう見ても日本語であった。
声をダす、読書しロツギの紊ジ、
「コクゴシュウトク」
その瞬間だった、一瞬視界が霞み、すぐさま元に戻る。そこには、先程のページであり、何も変わっていないはずだった。
けど、何故か何行か読めるし理解が出来るのだ。しかも、他のページを開けば、そこは全部読める。
一体どういうことなのだろうか。
というところで、電池が少ないのか警告文が画面に表示されていた。私は明かりがあるうちにと慌てて、もっと確り読めるだろう明るい洞窟入口へと戻った。
じっくり読むとそれはどうやら魔導書というものの初心者編らしく、様々な歴史や魔法について書かれていた。
先程開いたページはどうやらこの魔導書が読めない人が読めるように、無理矢理この国の言葉を叩き込む魔法だったらしい。
わざわざ、日本語も記載してあったのはそのためだ。だからなのか、其処から先のページは読めない言葉が多かったのだ。英語は流石に読めたけど。
そして、今私は魔導書に書いてあった火の初級魔法で、先程見つけた貝を焼いている。
とりあえず、わかったこととしては、私は今地球ではない世界に居るらしい。
納得はしてないが、理解はしている。何故なら魔法が使えてしまったのだ。最初は冗談半分、なんか魔力はイメージらしいので、それに従い、痣が消えていくイメージで回復魔法を唱えたら、打ち身による痣だらけの体が直ってしまったのだ。
真水だって、水の初級魔法で用意できた。
土の魔法を使えば、なんとか砂岩の真四角の家が出来たし。
風と氷で涼むことが出来た。
まさかそんな、魔法の世界が広がってるとは…。本を読めば、さらに騎士や冒険者などがあるらしい。まさに、児童書の世界が広がっているとのこと。
化け物…魔物?というものも、悪魔も天使も、神様も、妖精もいるらしい。
ドワーフ?白雪姫に出てくるような小人もいるようで、人種についてなども詳しく記載されていた。
というか、この本思った以上に凄い。厚さの割には重要なことがたくさん書いてある。本当に初心者のための魔導書ということだ。
当面、生活は大丈夫だろう。
初心者のために簡単に採取が出来て、食べれる動植物について書かれているし。
さっき参考にしながら探したら、貝を何個か見つけられたし。
目下問題としては、この海がどこにあるのかわからないということである。また、この格好だと目立って仕方がないということだ。
地理的情報と危険性があまり高そうでない事から四つほど候補があるのだが、なかなか絞り込めない。まさか、幻の海というわけではないだろう、何度も辿り着いてるし。
「ああ、どうしようかしら…」
とりあえず、まずは服を手に入れないとならない。そして、住む場所と職。
目立つ格好で歩いて、奴隷商人に捕まったら困る。異世界人は高く売れると、記載されていた。
それには、お金が必要だし……
鞄のなかを漁るが、ノートや筆記用具は何かあったときのために取っておきたい。
財布は、気分的に奥の手だ。
靴もローファーか体育館履きで、靴の値段がわからないうちは売りたくない。
水筒については今は論外だ。飲み物を飲むために必要な清潔な器はこれしかないわけだし……
鞄を漁っていると、そこに一つのビニール袋を見つけた。中には、化学の授業で作った塩が入っている。
思えば……塩、って売れるのかな。
本に書いてある必需品の等価交換表を見てみると、そこには塩の値段が書いてあった。
銅貨1枚…その二倍の重さ。
銅貨十枚で、銀貨1枚。
服の平均物価は銀貨二枚……
「そうなると、もしかして……」
そこに広がる海を見つめる。私は、鞄から化学のノート取り出し、昨日やったはずの工程を思い出して書き込む作業を始めた。
夢中になりすぎて、貝を焦がしてしまい、再度取りに行く羽目になってしまったが。
Q.魔導書、チートじゃね?
A.世界の常識が詰められているだけです。魔導を目指すものなら誰でも持っている本だったりします。