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第16話 変調


「……あれ?」

「どうしたの?」

「……ギルドに行けない」

「え?」


 今日は塩の納品する日。いつものように海岸で、ギルドカードの機能を使って納品しに行こうとしていた。それなのに、ギルドカードが反応しない。


「……仕方ない、ケルーさんのところ経由で行ってみようか」


 家にある魔王から貰った魔方陣のあるリビングに向かう。しかし、ギルドカード壊れたのかな?ギルドに着いたら直してもらおう。

 

 しかし、私たちフタリガ見た魔方陣は、既に朽ち果てていた。所々カビみたいなシミが魔方陣を蝕んでいて、魔力を込めても何も反応がない。


「どういうこと??」

「……ユエちゃん、もう一度外に行こう」

「えっ」

「いいから」


 マヒナちゃんに言われた通り、外に出るとすぐにある以上に気がついた。さっきまで朝だったのに、目の前には夕陽のように赤く染まった空と海があったのだ。


「逢魔ヶ刻……」

「えっ?」

「逢魔ヶ刻だよ。どこかの魔王が進軍を始めたんだ」

「ん?でも逢魔ヶ刻って、18時くらいのことを指すんじゃないの??」

「えっ?18時??」

「えっ」


 相変わらずこの世界に対して無知な私に、マヒナちゃんが説明をしてくれた。説明された内容は魔導書に載せるほどでもないこの世界の常識らしい。

 魔導書に載ってあることならわかるけど、それ以外はさっぱりだからなあ。

 やはり、常識集とか買おうかな。魔王に教えられるのはもう懲り懲りだし。


 あっ、話を戻すと、逢魔ヶ刻とは確かに夕刻を示す言葉でもあるが、今日のように早めの時間に日没が来ることを多くの人は逢魔ヶ刻と言うらしい。何故なら、夜が長いということは「世界の闇の力が急に増えたことから起こる異常気象」だからであり、当然「魔族の力が増し行動が活発化している」ことに繋がるからだ。

 そして、この時間から逢魔ヶ刻が起こるということは何人かいる魔王のうちの誰かが、どこかの国への進軍を開始したことによる場合が多いらしい。


「丸一日夜なら魔王が誕生したことを表すんだよー」

「そうなんだ……」


「だから、ゆえちゃんをギルドに来させないようにカードの力を一時的に封鎖したんだろうねぇ!ケルーさんところも!」


「え、なんで??」


「そりゃあ、国賓級の扱いを受けても仕方ないからじゃないかなあ!寧ろ、ゆえちゃんに何かあったら、この先大打撃でしょー!!」


 国賓級?

 たしかにこの前の魔王による説明で、私がかなりの希少価値が高い力を持っていることはわかったけど、正直国賓級までの扱いを受ける理由がわからない。

 きょとんとした私の表情に、マヒナちゃんは初めて眉間に皺を寄せて信じられないという顔をした。何故わからないのと、その表情が物語っていた。


「ユエちゃん、少しは物を考える力をつけた方がいいよ」

「……ごめん。なんだか、最近そういう想像することが上手くできなくて……」

「……そうか、そこっ……!!」


 マヒナちゃんが何かを言いかけた瞬間、心臓を抑えて砂浜に倒れ混んだ。逢魔ヶ刻が急速に漆黒に変わっていったのもその瞬間からだった。


「と、とにかく、家に戻ろう!!」

「う、うん……っああ」


 藻掻き苦しむマヒナちゃんをお姫様抱っこをし、部屋に連れて帰り、マヒナちゃん専用の寝床に寝かす。


 そのまま失神するかのように眠りについたマヒナちゃんを見て、私はもう一度何故自分が国賓級の扱いなのか考えた。


 時々、ぼーっとする思考力を昔居眠りしないようにと、編み出した太股を抓るという荒業で無理矢理覚醒させる。

 そして、今まで知ったことを収納していたノートにシャーペンで書き込む。


 珍しいの能力、塩を調達出来る、塩の値段が家一軒と交換できた、魔王に教えて貰ったこと、あんなにいっぱいの奥さんがいるのに私に迫ったのは……利用価値があるから。


 ふと、魔導書と一切開いてなかった地図を取り出す。鮮やかな海で染まった不思議な地図を見る。日本時と同じ地図みたいに様々な大陸が点在している。


 魔導書の地図を見ると、やはり古いのか位置や形もそうだし、発見されていない大陸もある。


 移動手段は?


 いや、テイマー?という獣使いを使えば、鳥やドラゴンで移動可能なはず。いや、でも、海域の途中で落とされたら元もこうもない。

 また、船に『海を愛し者』を乗せて、海の魔物を少し沈静化させて通る方法もある。


 ただどちらにしても、ローレライという人間嫌いの人魚の歌を聴いたら、どんな生物も魅了され海に引きずり込まれてしまうって、どこかに書いてあった。

 人嫌いのローレライも、それを知ってるから問答無用で歌い……はじめる。


 それに魚も、貝も、陸の上の生物が嫌いだから砂浜に上がってきても、人を襲うため。余程の手練れでなければ、殺されてしまうこともある。

 能力を持っていても、ある程度。殺されない保証はない。


 そこまで、考えて、私はやっと気付いた。


 じゃあ、私は、なんで、生きてるの?


「私、一度も海で襲われたことがない。それに、貝も普通に食べてる。ローレライじゃないにしても、メロウ族のマヒナちゃんは人魚」


 もし、このことが私の能力せいなら、この上なく魅力なことだろう。


 私は、海で生きていける。船で渡航させて、新大陸を探しに行くことも人より容易。

 侵略の殆どが領土権。新しい土地は、何よりも価値がある。


 そして、私はここでもうひとつ大事なことに気付いた。


 地図には現在地を指すはずのマークがあったはずだ。


 今、私が持つ地図はどこも示してはいない。


 地図が示さない場所、いや示すことが出来ない海、ギルドカードの住居情報を初めて私は確認したのだ。


「ここは、幻の海」


 そう、ここは、幻の海。

 入れる条件もわからない、とんでもない場所だったのだ。


 太股に出来た大量の痣が、ズキズキと痛み始めた。









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