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第14話 魔王は、ご乱心

「どういうことですか……?」

「……話は長くなるぞ。覚悟しろよ」


 もう既に魔王さんの長い話は聞き続けてるので、無理矢理にでも覚悟してますが。

 喉から出てきそうになった言葉をぐっと堪えて、とりあえず頷いておく。


 ……家を貰いに来ただけなのに、本当に面倒なことになったな。


「陸と海じゃ本当に住む世界が違う。あ、どちらが優位とかいうのはない。ただ、お互い歩み寄れないようになっている。どんな最強な身体でも、海に触れれば爛れ、最悪腐り落ちてしまう。まるで呪いだ。

 だからな、そんな危ないものがポンっと魔方陣から飛び込んできてみろ、無機物に影響がないとはいえあんな瓶簡単に割れてしまう。そしたら、ただでさえ報酬やらなんやが高い「海を愛し者」持ちの奴を派遣してこなければならないんだぞ。うちにはまだ幼い子供だっているときがある。今度から辞めてくれ。あと、海の塩が普通に食べれることは既に実証済みだ。全く、ただでさえ高価な岩塩を上回るものを精製したな。一生安泰じゃないか」

 


「は、はい……って、あの、そのとりあえず「海に愛し者」ってなんです??」

「海にじゃない、「海を愛し者」だ。海に触れることが可能で、短時間なら海水内にとどまることが出来る。まあ、お前の称号よりも劣るがな」


 いや、そんなに一気に捲し立てられたら聞き間違うこともあるよ。そんな睨まれても困るよ。どんどん自分のなかでフラストレーションが溜まっていくのがわかる。

 お代は用意してるのに、何故この人はこんなにも私に教え込もうとしてるのだろうか。海水が危ないってことと、塩を作れれば一生安泰ということさえ解れば私としてはもういいくらいなのに。

 しかも、わからないので尋ねてみれば、何も知らないのかと驚かれる。そして、自慢げに説明しだす。

 ああ、知らないよ、寧ろ生活さえなんとか確保出来れば十分だ。

 

「そうですか。ありがとうございます。」

「別に、礼を言われるほどでもないよ。さて、スキルポイントを振ろうか。うーん、君は何をしたいとかあるかい??」


「いえ、当面の生活は確保できそうなので、それ以上にしたいことはないので、結構です」


 直訳、さっさと家に帰りたい。

 スキルポイントって、何?寧ろそれ振らないことに何か問題があるのだろうか。ただ、この答えにまた魔王が荒れだした。もう何を言っているかは私にはわからない。


 とりあえず、異世界人がスキルポイント?を振らないことに驚き過ぎてるようだ。


「ああああああああああ、いい、俺が勝手にやる!!」


 魔王が飛び込んで私の上に馬乗りになる。身体を打ち付けた衝撃と事態の急転に頭がついていかない。が、本能的にヤバイと思ったのか直ぐに上に乗るこの野郎を振り落とそうと激しく抵抗する。


「いや、やめてください!!」

「ああ??こんな宝の持ち腐れ許すわけがない!!俺だってな、塩を精製して、醤油とか味噌とか作りたかった!!なのにだ、海水を汲むどころか近づくこともできない!何人の「海を愛し者」たちに依頼して作ろうとしたら、全員海水を火にかけた瞬間に称号剥奪からの爛れ、そして瀕死になった!!何年も何年も試行錯誤してたら、ぽっと出の女が塩を持ってきたと聞いたとき、どんな気持ちだったか!!ああ、屈辱だ!!悔しくて悔しくて仕方がない!!!」


 や、八つ当たり!?

 どんなに屈辱だったか鮮明に語ってるが、正直それは私のせいではない。八つ当たりとしか思えない。寧ろ、そんなしょうもないことで何人も瀕死にしてきたこの男に、今更ながら恐ろしくなる。


「魔王はな、卑屈なのにプライドが高く、征服欲が強いやつが選ばれる。魔族が持てる証として、婚姻の数もそれが挙げられる」


 聞いてない、聞いてない!!そんな情報1mmも要らない。なんとか身体を離そうと魔王の身体はびくともせず、布を結んで作ったワンピースを引ん剥かれる。本日は可愛い下着…ではなくスク水だけど。って、そんな場合ではない。


「あんた!!奥さん9人いるんでしょ!!浮気駄目!!不倫駄目!!愛人駄目ぇええ!!」

「はっ!!どうせ、俺の嫁になるんだ!!!」 

「はああああ???おっさん、馬鹿じゃないの!?」

「誰がおっさんだあああ!!」

「私より年上の娘がいる時点でおっさんどころか、おじいちゃんよ!!このスケベジジイ!!」


 魔王の動きが止まった。


「ジジイ…??」

「そうよ!!一々説教しいだし!ヒステリー起こすし!!更年期障害なんじゃないの!!」


「……すまなかった」


 すっと離れて、私に向かってペコリと頭を下げる。


「よく、考えれば一番上の孫は君よりも二つ下だったはずだ。俺は孫くらいの女の子になんて酷いことしたんだ」


「はっはあ……」


「実際、君を酷使して儲けようか思ったのだが、会ったら好みだったのでちゃっちゃか結婚して利用できるだけしちゃえーって」


 ブツブツとなんだかとても恐ろしく、女を馬鹿にしてるとしか思えないようなことを呟いてる魔王にさっきよりも嫌悪感を感じながら、眺めている。


 なんだか、もう疲れた。


 さっと、苦汁ともう一つお土産として作ってきたものを収納から出して、さっとちゃぶ台に置いた。


「これ、置いとくので、もう帰りますね」


「……帰るのか??まだ、スキルポイント」

「それはもういいです。正直疲れました、マヒナと一緒に帰ります。これ、渡しそびれた苦汁と島豆腐です」


「……すごい、鑑定したらしっかりと食べ物として扱える品物になっているな。それにしても形は豆腐だが、この島豆腐ってなんだ」


「……沖縄の温かい塩味の豆腐です」


「ほう。それにしても沖の海水から作ったと鑑定では出てあるがどういうことだ」


「え?沖の方が塩分濃度が高いからですよ。島豆腐を手作りする時は海水から作るんですが、沖の海水じゃないと全然固まらないんです」


「ほう、なるほど」


 その後、私はマヒナちゃんを連れて、元の海に戻ってきた。

 自然と海に帰れば、スーッと溜まっていたものがなくなり、心が穏やかになる。


 家をそっと出せば、それはなかなかのお家で二階建てのバルコニー付き。白い壁と青い屋根が海とマッチしていた。

 中はなんとも普通のお家だが、マヒナちゃん用の尾びれを痛めないフワフワした道やベッドなどがあった。

 ……海水は汲めと額縁に書かれてるのがなんとも言えないが。


 とりあえず、本日は寝よう、さっさと。


「マヒナちゃん寝ようか」

「うん!!ユエちゃんのとなりやっほー!」


 うん、マヒナちゃん可愛い。





 ただ、気づかなかった。

 与えられ過ぎた恩恵には副作用があるということを。

 魔王が、何故魔王なのかということを。


 自分がどうして、海の近くだと穏やかになれるかということを。


 




魔王回は一応一旦終わり(たい)

チーレム魔王動かしたらスゴく情緒不安定になってしまった。

9人の嫁たち(何人か)はこの先のお話にかかわってきたりこなかったり

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