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第13話 魔王と勉強会

「自己紹介は終わったな」


 魔王様は徐に立ち上がる。そして、ゆっくりと玉座から降りていき、私の目の前まで歩みを進める。彼の手にはいつの間にかに羊皮紙が握られており、そこにはまた魔方陣が描かれていた。


「さあってと、行くか」


 今までに感じたことのない眩い光に包まれる。髄反射で目を瞑る。すごく、熱く、少し息苦しいが、なんとか耐えることに集中する。


 目を開くと、いつもの茶室に居た。

 目の前には甚平に身を包んだ魔王様もいており、ちゃぶ台の上には麦茶だと思われるものが置かれていた。


「すまんな、うちのやつらがいると話進まないから。あ、これ麦茶な」

「い、いえ、大丈夫です。あ、やっぱり」


 麦茶を一口飲む。凄くのど越しがよくて、とても涼やかな気持ちになった。


「とりあえず、そのサリー取らない?」

「ん?ああ、この頭のですよね、すみません」


 頭に巻いた布をとると、布一枚で結んで着てるワンピース姿になる。ホルターネックなので頭の布を取るととても背中が涼しくて、とてもさっぱりした。


「……いいな」

「へっ?」

「い、いや、なんでもない。とりあえずだ、ここから話すのはビジネスの話だ」


 ああ、そうだ、ここに来たのは一言で言えばビジネスの話だった。先程お会いした奥様方の個性的な性格に圧倒されて、すっかり大事なことを忘れていた。


 何せ、本日は自宅受取日なのだ。そのために、塩を作り、苦汁を採取してきたのだ。まあ余りにも日本での、レートとは違いすぎて、これでいいのかと思い、もう一つあるものを作ってきたのだ。

 たまたま、市場で売ってたのを見て、元々は日本人か日本好きであろう魔王様に、いいプレゼントを思いついたのだ。


「本当に、よくぞ来てくれた。これで岩塩ではない白くサラサラした塩を手に入れることができる」

「いえ、私もやっとちゃんとしたお家を貰えるのでとても嬉しくて、ありがとうございます」

「家はこの中にある」


 まず先に塩と交換で彼から渡されたのは、一枚の緑色に染色された羊皮紙だった。開いて見ると、何時もとは違った魔方陣で、字が連なって出来た丸の中に家が描かれているものだった。

 この中にあるというのは、どういうことだろうか。首を傾げながら、チラリと魔王様を見ると、目を見開きこちらを見ていた。


「……もしや、召喚術をしらないのか?」

「しょうかんじゅつ?」


「ああ、召喚術だ!召喚術!!異世界から来て、君は何をしていたんだ!あの皆の夢の召喚術だぞ!家や家具など魔法使いの間でやりとりする際にとても便利なもので、しかもドラゴンとか悪魔とも契約ができる、あの召喚術だ!!普通、異世界から来たら、ある程度の知識を蓄えておくものだろう!!」


 ……私が頼りにしている魔導書には、魔方陣は移動のために存在するとしか書いてありませんでしたが。

 それに、ここまで言われる筋合いはないはずだ。まず、異世界だからそのしょうかんじゅつとか魔法とかその前提が間違ってないかな。私、知らないし。


「まっ、まさか!レベル上げもしてないな!!ステータス!!……異世界人なのに18レベル、しかもスキルポイントも振ってないだと!あああああ、なんてもったいなさ過ぎる。激レア称号持ちなのに!!」


 魔王様が一人で暴れ始めた。スキルポイントって、なんでしょうか。てか、激レア称号?ん?ん?

 とりあえず、一頻り叫んで暴れて落ち着くまで魔王様を見守っていると、その生暖かい視線に気づいたのか、身仕舞いを正し座り直す。


「いいか、召喚というのは羊皮紙に魔力を宿し、そこに品物を入れる。そして、その持ち主に譲渡することができる。ただし、手でしか物品の召喚術が書かれた羊皮紙は持てない。また、羊皮紙自体が少ないので、あまりできない手法だ。ついでに、仕舞おうとするとしまった瞬間に手荷物がほどけるように自分の中にドーンと居座ってしまう。出せば、元通り羊皮紙に戻る。俺みたいな異世界人や魔法使いは魔力も豊富なので持てる容量が高い。ユエちゃんは異世界から来たのに魔力が豊富ではない。けど、『海を愛し愛された者』という激レア物もち、あ、能力としては海に入ることができる上に海の魔物とも仲良くなれる上に海の豊富な魔力を永遠に供給を受け続けられる、または収納の際に海の魔力で底上げできるため多くの物を持ち運べる。ま持続的な魔力は異世界一かもしれない。謂わば、サポートキャラとしてかなりチートだ」


「……魔王様」


「なに?」


「短くまとめてください」


「物品の召喚術は便利だけど収納できない」


「ありがとうございます」


「あと、君の『海を愛し愛された者は』とても便利だということだ。まあ、チートだ」


「そうなんですか?というか、チートってなんです??」


「……なんでもない、気にするな」


 魔王様のお話はとても難しかった。どうやら、ネットスラングというものを自然と使ってしまうらしく、そういうのに疎い私はその意味を一々聞いてしまったりして、凄い申し訳ないことをしてしまった。


「とりあえず、やっぱり君は普通の異世界人とは違うようだね」


 こちらに連れてこられた経緯を話したら、魔王様は難しい顔をする。どうやら、魔王様は魔神というものに連れてこられた。最初からサポートもありつつ強くなっていく、という感じだったらしい。

 また、女神に連れてこられる勇者や、神様に連れてこられる神子、死神に連れてこられる転生者なども同様にサポートがあるとこと。

 私はいつの間にかに連れてこられ、しかもサポートがないとなるとなかなかの異例ということになるらしい。


「私、よく生きてたなあ」

「まあ、もしかしたら、海のことを調べられればいいんだが……正直、この世界海域は生まれつき持つレア称号がなければ触れることもできなければ、入ることも出来ない。俺は持ってない。しかも、これは生得的な部分もあるから、この先俺が持てるわけでもない。

正直、海水の入った瓶を贈られてきた時は、本当に焦ってしまったよ」


「……海に入れない??」


「海に認められてないんだよ、普通の陸の生物は」


 



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