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第9話  やはり海がいい

「一壺でもよろしいですか…?」

「そうよね、それで構わないわ。ごめんなさいね、本当に。メツガー義兄さんが塩の鑑定をお父さんに頼んだらしくて、そしたらあまりの美味しさと魔力含量に仕入れてこいって五月蝿くて。本当にお婿さんには弱味握られたくないらしくて、ああ全く」


 ケルーさんは横にあった急須からお茶を注ぐ。梅の絵がかかれており、おばあちゃん家を彷彿させた。

 それにしても、そのマオウとはなんだろうか?けど、話を聞く限り普通の頑固なお父さん像しか浮かんでこない。


「マオウって、なんですか??」

「ん?知らないの!?珍しいわねー、異世界から来る人って結構そういうのに詳しい人多いのに。魔王はね、魔力の塊を守る人達なのよ。そして、その魔力の塊から命を得てるのが魔獣やアンデット達で、魔王はその人達を束ねることも必要なの。

 また、魔力の塊の形から名前を与えられるんだけど、うちの父親は鏡の魔王と言われているのは、その魔力の塊の形が鏡だからなの」


「要するに魔物の王様だよ!」

「え、あああ、そうなんだ」


 頭の要領が小さいのだろうか、全くわからない単語が陳列していて、あまり理解が出来なかった。魔獣の王様で魔王。マヒナちゃんのフォローでなんとなく分かった程度である。


「まあ、うちの父親は政治とかそういうのは良い魔王らしいのよ。問題は下半身だけだし」

「まあ、魔王でも9人囲う人はいないからねー」

「うちの母親含めて、父さんに陶酔してるし、お母さん同士仲良いからねー」


 ああ、本当に児童書の世界だなあ。こんな話を聞いてはいるけども、なんとなく現実には受け入れがたい話である。

 この世界でお金持ちが女性を囲うことは、魔導書にも記載されていたので知っていた。そして、異世界の人が大人気なのも知り、ここまで頑なに身分を隠していた。

 

 思えば、魔王について書かれていた。典型的に悪役で書かれていたせいで、脳内で結び付かなかったのかな。


 それでも、9人は多いと思うけども。


「とりあえず、また来週ギルドに来た際、この喫茶店に寄ってね。そしたら、誰かしらがここに案内してくれると思うから」

「わかりました」

「私もくるから!」

「ははっ、海水用意しとくよ」


 マヒナちゃんをもう一度収納し、喫茶店の前でケルーさんと別れる。お代はあちらが持ってくれたが、流石にねりきりとお茶じゃお腹が満たされない。

 適当に露天でご飯を二つ分買い、一つはマヒナちゃんのために収納する。

 お好み焼きのような食べ物で、食感は違えども味は関西で食べたお好み焼きだ。


「おいしい」

(おいひーーー!!初めて食べたーー!!)


 とりあえず、まずは鍋を買おう。金物屋さんに入り、大きめの鍋を三個購入した。また、流石に貝殻しかないのもどうかと思い、近くにあったお皿とお椀、グラスをいくつか購入する。


 あ、そうだ、まな板も買わないと。

 木のまな板も一つ購入した。


 次に寄るのは民族色が強い布屋さん。お洒落な布をいくつか買う。マヒナちゃんと私の服用だ。ただ、私はあくまで装ってるだけなので、店員さんに話しかけられ困ってしまった。実は両親が旅の途中で生まれて、故郷に行ったことがないということにしてしまったが。


(ねぇねぇ、魔導具買おうよ!)

「なにそれ?」

(念話できるやつ!あー念じるだけで会話できるの!)


 たしかにこそこそ小さい声で話すのは難しい。それはいいなと思い、少し戻って金物屋さんの隣にある魔導具屋に入った。


「いらっしゃい、何をお探しで」

 

 出迎えてくれたおじさんは、本から目を離さなかったが、声だけかけてくれた。白髪だが軍人のお偉いさんのような威圧感と大きな体躯を持っていた。


「念話が出来るものを探してます」

「あー、まっとれ」


 おじさんが一切動いてないのにも関わらず、棚に並べられていた商品のいくつかが目の前のテーブルに並べられる。魔法みたいって、魔法なのだろうけど、改めて驚いてしまった。


 基本的に対になっているものが多く、同じものの二種類ずつそこにある。

 ピアス、指環、チョーカー、髪飾り。


「女の子に人気なのはピアスじゃな」


 たしかに可愛いが、ピアスは外れやすいイメージがある。髪飾りも同じ理由で少し。というか、お洒落とか気にする必要性もないことを自分が一番理解しているため、ここは実用性重視だと思った。


「うーん、この中で一番外れないで壊れないものってありますか」


「特別製のチョーカーかの。その銀色のやつじゃ」


 シンプルな銀色チョーカーがある。繋ぎ目はなく、どうやって嵌めるかは少々わからないが。チョーカーのチャームを選べるとのことだか、正直どれだっていい。


「いくらですか?」

「二つセットで金貨10枚だ」

「じゃあ、それで」


 先程貰った金貨から10枚を渡す。おじさんは一瞬驚いた表情でこちらを見たが、すぐに顔を戻し、10枚を受け取る。


「で、どう嵌めれば?」

「もう、はまってる。お前の使い魔にも既に装着されてるだろう」


「へ?」


 首を触ると先程のチョーカーが首に嵌まっていた。魔導具、恐るべし。

 横に置いてあった鏡をみると、そこには貝殻のチャームまで着いており、とても可愛らしかった。

 おじさんにお礼をいい、店から出る。


(テステステス)

 テストー聞こえてる?

(聞こえてるよ!次はどこいく?)

 本屋かな。

(いいね!いいね!その次は布団屋!)

 え、なんで?

(あと一時間後にタイムセールするみたいだからさ!さっき聞こえたんだ!)


 布団屋はすごかった。タイムセール恐るべし。とりあえず、私用の布団とマヒナちゃん用の水中ウォーターベッドを買う。持てるかどうか心配されたが、渋々収納が使えることを伝えたら、普通に納得された。

 マヒナちゃん曰く、魔法が使えればその容量分持てるのが収納だったらしい。


 無知って、怖い。


 買い物を終えて、ギルドに戻りお帰り用の魔方陣に乗る。また来たときと同じように魔力を溜めて、下にぶつけると、そこは美しい夕日に照らされた海岸だった。うん、やっぱりここが落ち着きます。


 マヒナちゃんを出して、帰りに露天で買ったご飯を頬張る。


「きれいだねー」

「そうだね。あ、そうだそうだ」


 マヒナちゃんに言われるがまま買った本を出す。タイトルは「土魔法で作る簡単お家術」というものだ。


「砂浜でも建てられるかな?」


 マヒナちゃんも来たことだし、流石に箱としか言い様のない家は辞めたい。一緒に暮らせるように海水も通せる家にしたいと考えた。


「大丈夫!砂も土だからさ!二人で可愛いおうち立てようね!」


 ……思えば、なぜ二人で住むのだろうか。けど家に帰らないのかと聞いたら、成人したら家を出されるのが人魚の掟とのことだったし、この海を気に入ったから一緒に住みたいと言われたのは素直に嬉しかった。綺麗だもんね、この海。


 まあ、とりあえず、明日から頑張ろう。


 



次回、土木回

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