いつかどこかで(I don’t forget you ~パラレル)
某出版者様との別作品の出版のお話を頂いた時に、書いてみて欲しいと言われたSSです。
I don't forget youでは違う男性とくっついたので、パラレルとして書いてみた作品です。
結局出版のお話は、折原の都合で流してしまいましたので、未発表作品になります。
子供の頃の夢は、真っ白いドレスの花嫁だった。
相手は大好きだった、幼馴染の櫂…。
「お前が二十五歳になっても独身だったら、俺が貰ってやるよ。その時は俺がドレスのデザインをしてやる」
アメリカに留学が決まり、通っていた大学を休学する櫂がそう言った。
「アメリカで何の勉強をする気なの?」
そう訊ねると、笑って「デザインの勉強」と言った。
あたしはそれを信じて待とうと思った。
櫂も極たまに、日本時間の夜8時頃になると、電話をかけてくれた。
アメリカ西海岸からの国際電話は、そう安くはない。
だから頻繁にではないけれど、声を聞かせてくれた。
留学して一年後に、アメリカの情勢が悪くなったことで、日本での大学課程を済ませるために一時帰国した。
…帰国したと言っても、東北のM大に通っており、あたしは東京の衣料品メーカーに勤務していた。
だから会えるのは、大型連休の時だけ。
東京まで愛用の青いハーレーで帰ってくる櫂と、櫂の欲しがった食器やファブリックを土産に新幹線に乗るあたし。
お互いが交互に、相手の暮らす街まで出向くのが、言葉にしたわけでもないのにルールとしてそこにあった。
櫂のスケッチブックは、あれからもずっと櫂の両親の住む家のアトリエにある。
アメリカに戻り、デザインの勉強を続けてもうすぐ卒業という時。
卒業制作のための写真を撮りに出掛けた櫂は、愛用のハーレーを残して姿を消してしまった。
横転したハーレーの傍には、明らかに血痕があり…事故にあったのは間違いないのだろう。
でも、櫂だけがいなくなってしまった。
あたしの元に届いた手紙には「もうすぐ卒業。帰国したら、お前に会いに行く。待ってろよ、蘭」とだけ書いてあった。
「蘭ちゃん、そろそろ櫂を忘れてお嫁に行かなくちゃね」
櫂の母親にそう言われた。
でも、あたしの中の櫂は、まだいなくなっていない。
今でもひょっこり、帰って来そうな予感がしていた。
そしてあたしは、留学を決めた。
櫂の暮らしていた、西海岸の街へ…。
この街にいれば、いつか櫂に会える気がして。
この街のどこかで、ばったり会えるような気がして。
優しい目をした笑顔の櫂に、きっとまた会える気がして。
「おばちゃん?うん、元気だよ。ちゃんと食べてるってば…。英語もなんとかなってきたから、友達も増えたし…心配しないで」
櫂の母親からは、時折電話がかかってくる。
電話代も高いから、早々に切るようにしているけれど。
今日も電話を切った後、あたしは櫂が消えた所へ出掛けた。
なんとなく…予感がして。
いつかどこかで、櫂に再び会えると信じていた。
「…櫂?」
ハーレーの倒れていた所に、立っている後姿…。
凄く懐かしくて、逢いたかった人の後姿だ。
振り向いたその人の、目が大きく見開かれる。
間違いない…生きててくれた!
きっと逢えると、心のどこかで信じていた。
今度は離れないように…広げられた両腕の中に、あたしは迷わず飛び込んだ。
文字数が決められていたため、こんな感じの短編になりました。
(制限は原稿用紙4枚でした)