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あれにするわ

作者: ツグ

――アンタは、計画性に欠ける。

 母が私にお小遣いをあげるときにいつも零す愚痴。

 私は、小さな頃からお金を持つと自分が大物になったと錯覚するタイプ。それで、ついくだらないものを買うくせがある。それもいつも身の丈にあわない、高級なものを好んでしまう。

 だから母の言葉に言い返すことなんてできやしない。

 ああ、いけない、こんないやなくせは直さなくちゃ。何度そう思っても、欲しい物が出来るとそれ以外のことを考えられなくなる。どうしてもほしいの、それが。

 けど、これは違う。本当に。違うのよ。

 これは本物の一目惚れ。今までとはまったく違うの。運命の恋なの。

 一ヶ月前にぶらぶらと街中をウィンドウショッピングしていたとき、一番目立つところに陳列されていたお前を見たとき、これこそ運命の出会いだと私は確信した。美しさを誇って人目をひきつけて、一番いいところに置いてもらってるお前。その美しさに恥じない値段には、私は思わず悲鳴をあげるかと思ったほど。この恋は諦めるべきなの? お前は私なんかを鼻にもかけない傲慢で美しいものなの? ふられても諦めることのできないしつこい男のように暇さえあれば私はお前を見にいった。

 何事も身分っていうものがあるのよ、お嬢ちゃん、あなたが私を持てると思っているの?

 硝子の中でお前は私に言う。そのきらきらとした美しさを誇らしげに見せ付けて。

 なにさ、厭味ったらしいやつ。お前なんて、お前なんてさ。自分はこれ以上ないほどに美しくいと思っている自惚れ屋。そんなのだと買われずに、どんどん安くなっていくんだ。半額と叩かれて売られるんだ。

 ……そんなお前の姿は見たくない。言ってすぐに後悔する。お前みたいな美しい存在が安くなるなんて。そんなの絶対にありえない。この自惚れた美しいプライドが傷つけられるなんて想像するだけでもいや。

 ああ、結局のところ、私はお前には勝てやしないのだから。だって惚れた者のほうが負けって、いつもみんないっているもの。

 ようやくお前を手に入れるための力を携えて、飢えた獣のように息を切らして店の近くまで走ってきたのに私は足を止めた。

 深呼吸をして、走って乱れた髪に手櫛をいれて整える。

 本当はお前なんてどうでもいいのよ。たまたまよ。たまたま目にとまったの。それで気に入ったから買ってやるの。

 店に歩きながら私はお前のこと考える。

 お前のことがずっと欲しかった。

 欲しかった。けれど、もし、手に入れたとたんに興味をなくしたら、どうしよう。いつものように手にいれたとたんに、本当は欲しくないものだとわかってしまったら、どうしよう。この渇望は幻想だったらどうしよう。

 この気持ちが一気に冷めてしまうの? こんな大金をはたいたことを馬鹿みたいって思ってしまうのかしら。すごく後悔するのかしら?

 ごちゃごちゃと頭の中で考えながら店の前まで来てお前を見た。いつものように一番目立つところで、美しく輝いているお前。

 大丈夫、後悔しないわ。

 お前に恋をしている。この気持ちは、間違いない。

 この一瞬が、とっても好き。

 私は店の中に入った。高級な匂いに足が竦む。心の中で、馬鹿、あと少しよと自分を罵ってレジに向かう。レジの女性にとっても魅力的に笑ってみせる。だって恋をしているんですもの。その恋がもうすぐ成就するんですもの。

「あれにするわ」


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