【英雄には何が必要か】
プロローグ
「英雄に必要なのは悪役だ。」
俺は幼いながらにそう思った。
初めてそう思った時、何を見て、何を考え、何を思ったのかはもう覚えてはいない。だが未だに確信している。
勝利、友情、努力、カリスマ性、大義、揺るぎない信念、強さ。
これらは悪役があってこそ輝くものだ。
『俺は英雄になりたかった。』
漫画やアニメの世界はいつだの低さ、平和度を誇り、厳しい銃器統制。規範意識の高さ、他者を重んじる国民性。
産まれた時点で国ガチャ大成功。
この国には危険が極めて少ないのだ。
そんな国で英雄を目指すなんて馬鹿らしい。
『英雄になんてなれるはずがない。』
その後の出来事だった。
浮ついた顔をする者、絶望の表情を浮かべる者、特に気にしていない者、様々な人間が教室で学生と言う音楽を奏でている。
友人が俺に駆け寄り、少し興奮したような様子で俺に話しかけてくる。
「快斗」!お前相変わらずすげぇな。テストの順位学年2位だってよ。」
俺は頬伺を付きながら、陰鬱そうに答える。
「嫌味にしか聞こえないぞ。万年2位なんだから。」
秋人は少し困ったような顔で俺を見つめ、その後思い出したように言う。
「まぁ、1組のあいつには勝てねぇよなぁ。頭脳明晰、スポーツ万能、オマケに放課後はモデル活動してるらしいし。噂によると今度の生徒会選挙で生徒会長に立候補者するって噂もあるくらいさ。お前も優秀なんだけどなぁ、、」
秋人はそんな様子でペラぺラととある人物について褒め讃える。
俺が怪訝な表情を浮かべていることに気がついたのか、焦るように補足を始める。
「で、でも、俺は快斗もすげぇ優秀だと思うよ!あの完璧人間がこの学校にいるのは運が悪かっただけだよ。
俺なんて赤点で夏休み返上で補習なんだからよぉ、、助けてくれよ快斗ー、、」
秋人は少し涙を浮かべ、俺に抱きついてくる。
「まじ暑いからどっか行け。ただでさえ気温が40度近くあんのに誰が嬉しくて男に抱きつかれなきゃ行けないんだ。」
秋人がパッと手を離しにこやかな表情を浮かべる。
「え!助けてくれるの!快斗さっすが。学年2位の男の度量は違ぇや」
「そうは言ってねぇ、、」
「んじゃ、補習までの勉強スケジュール組んどくからよろしくね〜」
秋人はそのまま手をヒラヒラさせながら、女子のところに行ってしまった。
実際問題俺としては秋人のお陰でクラスでの立ち位置がある程度保証されてる部分がある。だからこれくらいはしてやってもいいが、あのやかましい性格はどうにかして欲しいものである。
そう考えながら俺はクラスの様子を窓の外を眺めながら思考する。
頭脳明晰、スポーツ万能。モデル。生徒会長。
やはりあぁ言った人物が人から好かれるのだろう。
まさに俺が憧れたアニメや漫画の世界の主人公の様だ。
まぁ最近で言うと俺のような俗に言う陰キャが主人公の漫画も増えてきている。
だからこの世界では俺が異世界転生したり、街中でばったり美少女に声を掛けられたりするのではないか?
そんな来ないとわかっている現実に目を逸らしながら俺は妄想という白昼夢に耽って行った。
1日は淡々と過ぎていった。
帰路に着き、家に帰る。
静寂が世界を支配し、誰も居ない虚空に一言を告げる。
俺はもの寂しさを感じ、テレビの灯りをつけた。
これがあれば、何もしていない現実から多少目を背けることが出来る。
ちょうどやっていたバラエティ番組に耳を傾けながら、少し汗ばんだ制服を投げ捨てるように洗濯カゴに入れ、ソファにゆったりと腰をかける。
「昨日俺はなとあるアニメを見たんよ。そしたらな?主人公がヒロインを見捨てて逃げよってん。」
「おん、ほいでほいで?」
「クソみたいな主人公やほんまムカつくわー」
「おん、それでそれで?」
「え?話はこれでしまいや」
「おまえそれただのアニメの感想やないか!芸人ならオチくらい作れ!」
テレビの中で笑いが生まれる。
「やっぱり英雄には悪役が必要だな。成長するのにも、語り継がれるにも、幸せになるにも。」
「あぁ、この世界がどれほど魔法や剣に満ち足りていて、悲劇や惨劇で溢れかえっていれば俺も誰かの主人公になれたかもしれないのに。」
俺は天井を見上げ空に手を伸ばす。
「あーあ、なんでこんなクソつまんねぇ世界に生まれたんだろ。」
そこでテレビに速報が流れ出す。
「速報です。連日世間を騒がせていた連続殺人犯が逮捕との情報が入りました。現場の葉山さんに代わります。」
「えー、こちら現在連続殺人犯の最後の犯行現場に来ております。彼はYouTubeの投稿を行っていたようで、犯行を事前に予告しまるで警察に対し宣戦布告するような動きを取っていたようです。近隣の方にお話を聞いてみましょう。」
「例の連続殺人犯、工藤沙也加についてどう思われますか?」
「連続殺人をするような子じゃなかったんですけどね、、昔から愛想も良くて友達と公園で遊んでるのをよく見かけました。」
「なるほど。最近に起きた出来事や、違和感などは御座いますか?」
「それが全くなんです。つい2週間前までは元気な子だったんですけどね、、挨拶もしましたし。ほんと現実じゃないみたいです。」
「そうですか。ありがとうございました。現場からは以上です。」
連続殺人犯。
そんな悪魔が近場に存在したなんて少し怖いな。危うく自分が被害を受けていたかもしれないとゾッとする。
「待てよ。このおばさん今なんて言った?」
脳裏にあのニュースのワンシーンの映像が流れ出す。
「ほんと現実じゃないみたいです。」
は、はは、ははははははははははははははははははははははは
俺はそれを聞いて高笑をする。
そうだ。これだ。
ようやく俺のやりたいことを理解した。
「英雄には悪役が必要だ。そして悪役が居ないのならば、自分が悪役になればいい。」




