封印の間
美咲は階段をそろりと上がった。
足音を殺しても、床板がわずかにきしむ。
まるで、家自体が彼女の侵入を拒むようだった。
階段を上りきると、廊下の奥にひっそりとした扉があった。
古い木の扉。取っ手は錆びつき、触れるだけで冷たい。
――ここが、封印の間……?
祖母の日記や祠の記録に、何度も名前が出てきた場所だ。
だが、今まで家の中を探しても見つからなかった。
まるで、“見せるべき時”を待っていたかのように現れた扉。
美咲は息を整え、手をかける。
扉が軋む音とともに開くと、空気が重く、埃の匂いが鼻をつく。
中は薄暗く、光が届きにくい空間だった。
壁沿いに古い棚が並び、そこには何十冊もの日記や古文書、古い写真が雑然と積まれている。
そして、部屋の中央には小さな祭壇。
ロウソクの跡が黒く残り、祠で見た影の子を思わせる装飾が施されていた。
手に取った写真をめくると、そこには祖母と、先ほど窓の向こうに見えた影が写っていた。
だが、この写真はただの過去の記録ではない。
写る人物の影が、まるで生きているかのようにゆらゆら揺れていた。
突然、背後で扉が音もなく閉まる。
暗闇の中、何かが床を這う音。
視界が揺れ、空気がざわつく。
「誰……いるの……?」
声を出すも、返事はない。
しかし、棚の隙間から、長い髪がゆらりと揺れる。
影の子――いや、それだけではない。
もっと古く、深く、長く封印された存在が目覚めた気配。
美咲の手が震える。
影が自分の足元に絡みつき、冷たい息が耳元をかすめる。
「……もう、隠せないのね」
その声は、祖母のものでも、影の子でもない。
過去にこの家で失われた者たちの、怨念の声だった。
美咲は意を決して、日記をひとつ取り出した。
その文字は震えていても、確かな意思が込められている。
読むことで、封印されていた記憶と真実を呼び覚まさなければならない――
さもなくば、影は永遠に解放されず、家の中で蠢き続けるのだ。
薄暗い部屋で、過去と現在が重なり合う。
影の子は静かに、美咲の行動を見つめる。
そして、部屋の隅で何者かの目が光った。
――封印の間に、夜は静かに、しかし着実に侵食していく。




