表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

第一節: え、泣き声?私!?

……あれ? なんか、変だ。 


いや、いつも通りじゃないっていうか。ていうか、体、動かないんだけど!? 


うつ伏せでも仰向けでもない、なんかこう、ふわっとしたものに包まれてる感じ。けど、硬いのか柔らかいのかよくわからない……。しかも、妙に視界がぼやけてて、天井たぶんしか見えない。


 


(え……何これ……夢? っていうか、目、めっちゃ霞んでる……コンタクト落とした?)


 


そんな風に考えてたら、どこからか**「おぎゃああああ!!」**っていう、けたたましい泣き声が聞こえた。


うるさいなあ。誰だよ、泣いてるの……って思ったその瞬間。


 


(……これ、私の声じゃない?)


 


一気に背筋が凍った。


いやいやいや、そんなわけ――ない、よね?


私は社会人三年目の事務職OL、名前はたしか……あれ? 名前……なんだったっけ……?


(ヤバい。なんか、記憶が……薄い? でも、「働きすぎて死んだかも」っていう、妙にリアルな感覚だけはある……)


 


目が霞んでる。身体も動かない。泣き声は出るけど言葉は出ない。


 


……うん、これもうアレだよね。


 


赤ちゃんになってる。

たぶん、私、赤ちゃんになってる。


 


(なにそれ!? 転生!? マジで!? 死んだの!? え、私、死んだの!?!?)

(いやちょっと待って、いやいやいや、心の準備とかあるし……! もっとこう……説明役の神様とか出てくる流れじゃないの!?)

(いきなり「おぎゃあ」から始まるとか、不親切すぎるでしょ!?)


 


ガチでテンパってると、誰かの手が私の体をふわりと持ち上げた。 


……あ、これが赤ちゃん特有の「抱っこ」ってやつ……? なんか妙に安心する。ぬくもりがすごい。あと匂いが……やばい、なんかすごくいい匂い。ローズ? いや、それだけじゃない……なんか、包み込まれるような香り。


 


「クラリス様、ご出産お疲れ様です! 第六皇女様、ご誕生です!」


「……ふふっ。ずいぶん元気な声で泣く子ね。ようやく会えたわ、私の娘――リアナ」


 


(クラリス様……? 第六皇女……??)


 


ちょっと待って。


待って。今、何て言った? 


「第六皇女」? 「娘」? てことは、私は――


 


(王女!?)


 


(えっ、王女なの!?)


(いやいやいや、唐突すぎるでしょ!? つい昨日まで社畜OLしてたのに!? 毎日定時後に働かされて、終電ギリギリでコンビニ弁当だったんですけど!?!?)


 


(ていうか、王族って……あの「王族」? ドラマとかで出てくる、金ピカの玉座とか、あの……?)


 


目がかすんでるけど、抱っこされながら上からチラッと見えた室内が、もうおかしい。天井がありえない高さで、シャンデリアがバカでかい。壁に金色の装飾、床に赤いカーペット。何より、部屋の空気が**“格式”**って感じで圧迫感ある。


 


……あ、これ、完全にあれだ。


 


王宮。


私、たぶん王宮にいる。


 


さらに、クラリスと呼ばれた目の前の女性――多分、母親――がとんでもなく美しい。


プラチナブロンドの髪に氷のような青い瞳、顔立ちはまるで高貴な人形のよう。笑ってるけど、目が全然笑ってない。美人っていうか、こわ美しい。でも、不思議と安心感がある……。


 


そのとき、背後の扉がドンッと開いた。


 


「クラリス、無事か!」


「妹が生まれたと聞いたぞ。さっさと見せろ!」


「ふふ……この子が、リアナ? 面白そうな子ね」


 


数人の男女が、堂々とした足取りで産室に入ってきた。声がやばい。迫力がすごい。圧が……強い!!


全員顔が整いすぎてるし、纏ってる雰囲気が完全に「強キャラ」。しかも、誰もこれから産まれたばかりの赤ん坊に会うテンションじゃない。なんなら戦場に向かう将軍の顔してるんだけど!?


 


(これが……兄姉……?)


 


すると、私を抱いていたクラリスが軽く言った。


 


「あなたたち、うるさいわよ。リアナがびっくりするでしょ?」


 


「ふっ、ならば静かに見せてもらうまで」


「妹か……ふふ、悪くない響きね」


「……あの子の瞳、誰に似たのかしら。まっすぐで、綺麗」


 


(こ、こわい……! でも、みんな……なんか……)


 


すっごい優しい目で私を見てる。


見た目とか雰囲気とか、超怖いのに、なんか全員……私のことだけには、やたら優しい気がする。


 


その瞬間、ふっと何かがつながった。


この違和感、この空気。


妙にキラキラした部屋。やたら強そうな家族。生まれて早々「第六皇女」と呼ばれたこと。あと、クラリス母の口ぶり。兄姉たちの圧。そして――


 


外から微かに聞こえてくる、膝をついた誰かの声。


「――第六皇女殿下のご誕生を、ヴァルト帝国民一同、心よりお祝い申し上げます……!」


 


……帝国民?


 


この瞬間、私の中で、すべてのピースがはまった。


 


(……ああ。たぶん、ここ……)


 


 


独裁国家だ。

しかも私はその王族だ。

第六皇女として、“帝国”に生まれてしまったんだ。


 


(いや、どう考えても設定重すぎない!?!?)


 


人生、二周目。


前世は社畜。今世は王女。


でもまあ……前よりマシなら、いっか。


 


私はそっと、赤ちゃんらしく、クラリス母に向かって笑ってみせた。


すると、兄姉たちが、ぴくりと反応して――


 


「笑った……!」


「かわいい……今、笑ったよね?」


「うわ、やばい、これ……妹、天使じゃん……」


 


(反応、重っ!!)


 


このときはまだ知らなかった。


この国で、「まとも」で「素直」で「優しい」ことが、どれだけの価値を持つのかを。


そして、家族がどれだけぶっ飛んでいて、それでも――私を溺愛してくるかってことも。


 


 


──私は今日、リアナ・グランツェル・ヴァルトルートとして、

やりたい放題(※本人基準)で生きていくことになった。


 


いやほんと、やらせてもらいます。自由に。今度こそ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ