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セカンド・ジェネレーションズ 〜The 2nd Half〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第2章 「詩的で宗教的な調べ」

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02-01

 ミキオの父親がまだ総理大臣になる以前のことである。

 マタイチロウは動物愛護管理法の改正を世間にアピールする為に、殺処分されそうな犬を引き取ることにした。


 保健所を背に大勢の記者に囲まれ、写真を撮られる西島一家。

 父、母、兄に囲まれる立ち位置で、小学生時代のミキオは一頭の小さな犬を抱き抱える。


「西島さん、今回の自由勤民党による動物愛護管理法改正は画期的なものだと思われますが、コメントをお願いします」


 記者の一人がマタイチロウに発言を求める。


「この国は他の先進国に比べて、動物に対する権利意識が非常に低いです。犬や猫を始めとするペットも然り、食肉となる牛や豚、鶏などに対する仕打ちも残酷であると言わざるを得ません。また、ペット産業が反社会的な組織の資金源となっているという現状も見受けられます。それら様々な要素を加味し、国民の皆様からの声に耳を傾けた結果、こういった法改正を決断するに至った次第であります」


 決め顔のマタイチロウ。

 切られるシャッター音。


 焚かれるフラッシュ。

 目を細めるミキオ。


「今回、保護犬を引き取ることになった経緯を教えてください」


 別の記者が新たな質問を飛ばす。


「政治家としてではなく私一個人としても、この国から不幸な動物を減らすことに尽力したいという思いから、保健所から保護犬を引き取ることにしました。そして何より、私は犬が大好きなのです」


 マタイチロウは握り拳を作り、カメラに向かってガッツポーズを取る。






 マタイチロウは握り拳を作り、ミキオに向かって振り下ろす。


「俺は動物が大嫌いなんだ。特に犬はな。人間様に擦り寄って、媚びへつらわないと生きていけない下等生物さ。馬鹿な国民と同じでな」


 記者による取材が終わり、家に帰るなりミキオの顔を殴りつけるマタイチロウ。

 目からは涙が、口角からは血が滴り落ちる。


 母親はミキオに一切の関心を示さず、父親の後ろでは兄が下卑た笑みを浮かべていた。


「お前のせいであの子汚い犬畜生を飼うことになったんだ。お前が面倒を見ろ。いいな?」


「……はい」


 ミキオは頬を手で抑え、歯を食いしばり、殴られた痛みを堪えながら声を振り絞る。

 口の中には鉄の味が一杯に広がっていた。


 マタイチロウはもう片方の手に持っていた犬入りのケージを玄関に放り出し、さっさと自室へと向かう。

 長い廊下の先からは、マタイチロウが扉を勢いよく閉める音が聞こえた。


「まさかミキオが書いた、動物愛護を題材にした作文が全国規模のコンクールで賞を取るとは思わなかったわよねぇ? 忖度も無しに。しかも、そのことを書いたネット記事がバズって、したくもない法改正にまで話が大きくなっちゃって。あの記事を書いた記者はお仕置き確定かしらね」


 エマはハイヒールを雑に脱ぎ捨て、飄々とリビングに向かう。

 母親の姿が見えなくなると、カズシゲはミキオの肩を叩く。


「お前は馬鹿だねぇ。学校の課題なんか適当にやってりゃいいんだよ。成績が悪かろうが何だろうが、どうせ俺たちはそこそこの学校に裏口入学して、大人になったら議員になるんだから。あいつらに敷かれたレールに乗って生きてりゃいいんだって。そうすりゃ何ひとつ不自由の無い生活が送れるってもんだぜ。な?」


 そう言い残すと、カズシゲも自室へと戻ってゆく。

 玄関に取り残されたミキオは、ケージの中で震える子犬を見つめる。


「……名前、決めなきゃね」


 ミキオは優しい声色で子犬に話しかけると、ケージを抱えて自室へと向かった。




◆◆◆◆◆




 十二月二十五日に開かれた控訴審は数日後、各メディアで大々的に取り上げられた。

 マタイチロウからは「ニュースとして取り扱うな」という箝口令が敷かれており、はじめこそマスメディアは黙りを決め込んでいたのだが、そのような報道しない権利は国民からの非難の的となった。


 そうして叩かれに叩かれたマスメディアは渋々、ルイの出廷した裁判を報道するに至る。

 宗教法人イルミンスールが信者から不当に献金を募っていたという争点。


 それを裏付ける決定的な証拠の存在。

 そして、その証拠を被告に突き付け、原告の味方として証言台にまで立ったのがイルミンスールの教祖の息子であるという事実。


 新聞や週刊誌の紙面を大きく飾り、テレビニュースでの取り扱いは今や長尺。

 ネットニュースの見出しも各種SNSのトレンドも、ついぞ全てが控訴審の話題で埋め尽くされた。


 一躍、時の人となったルイ。

 その圧倒的な存在感の前には政治家による報道規制など、まるで意味を成さなかった。


 ルイの勇気ある行動から、彼を正義の使者として称賛する者が数多く現れ、その整った容姿から、彼のファンになる女性もまた多く現れた。

 そして顔も名前も国内のみならず、国外にまで破竹の勢いで知れ渡ってゆく。


 その扱いは、もはや英雄かアイドルか。

 はたまた救世主との呼び声も高い。


 ルイの追い風となった要因は他にもある。

 一年以上に渡って連日のように自由勤民党や真世界党の不祥事が暴露され続け、その裏にイルミンスールの存在があることもまた取り沙汰されてきた。


 国民からは批判的な声が多数上がるも、言い逃れをし、可能な限り処分を免れ、自分たちを擁護するような法案を提出し、謝罪のひとつも行わない政治家たち。

 その不遜な態度が国民の感情を逆撫でし、悪徳な国会議員と宗教に立ち向かうルイを祭り上げる風潮を加速させる。


 ルイに対する英雄視と、政治家及びイルミンスールに対する誹謗、中傷、炎上は、その勢いが留まるところを知らず、年が明けてゆく。

 実にここまで、全てルイの目論見通りである。






 一月一日、昼。

 年が明け、首相官邸の自室で深い眠りから目を覚ますミキオ。


 カーテンの隙間からは太陽と、ちらつく赤い光が射し込む。

 体を起こしてベッドを抜け、窓から外を覗くと門の外側には、パトランプを回したパトカーが複数台並んでいた。


「年明けから、騒がしいな」


 ミキオはうんざりした様子で目を細め、溜め息を吐く。

 新年早々、首相官邸の周りには厳戒態勢が敷かれていた。

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