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セカンド・ジェネレーションズ 〜The 2nd Half〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第1章 「威風堂々」

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01-06

 全てを見通すかのような冷たい眼差しに、威風堂々とした静かな足取り。

 集まる視線を意に介することのない圧倒的なカリスマ。


 その場にいる何者にも目線を合わせることなく、ただ真っ直ぐに通路を歩く。

 シュンサクが手を上げるとルイはそれに気が付き、前方の席にまで移動する。


 そしてシズヤの存在を認識したルイは冷ややかに一瞥すると、唯一空いている隣の席に腰を下ろした。


「おい、久しぶりだな。元気してたか?」


 シズヤは組んでいた手を解くと肘を膝に乗せ、前のめりな体勢で顔を覗き込み、ニヤついた笑顔で話しかける。

 しかしルイは微動だにしない。


「まさか本当に出廷するとはな。殺されるぜ?」


 ルイはシズヤに目線だけを移し、小さな溜め息を吐く。


「鬼ごっこの鬼は、いつまでも鬼じゃいられない。追う者と追われる者、いずれ立場は入れ替わる。君の目には僕が追われる側の人間に見えているのかもしれないが、僕の目には既に、君が追われる側の人間として見えている。ただ、追う価値が無いから追わないだけでね」


「はぁ? 訳わかんね。誰がどう見てもヤバいのはテメェの方だろ」


「……言って分からないなら仕方がない」


「それって負け惜しみじゃん?」


 不敵な笑みで挑発するシズヤ。

 しかしルイは目線を外し、それ以上の会話に付き合うことはなかった。


「けっ、ダンマリかよ。つまんね」


 シズヤも口を噤むと、両手を頭の後ろで組み、開廷を待つ。

 前方を眺めれば、板尾と及川がルイを睨みつけていた。


 二人ともに次期教祖憎しといった表情である。

 最大の味方であるべき筈の人間が自分たちを裏切り、敵として真っ向から戦いを挑んでくるのだ。


 ルイも命懸けではあるが、彼らもまた命懸けである。

 負ければ社会に追い詰められ、身内に追い詰められ、少なくともまともな生活は送れなくなるであろう故に。


 じきに書記官と三人の裁判官たちが入廷し、各々の席に着く。

 徐々に静まり返る廷内。


「起立。礼」


 書記官の号令に倣い、廷内に座っていた全ての人間が一斉に立ち上がり、厳かに頭を下げる。

 それは不遜なシズヤとて例外ではなかった。


「着席」


 それぞれが椅子に座る。

 静けさと緊張感を保ったままの空間に、衣擦れの音が響いた。


 裁判官によって事件番号と第一審の概要が読み上げられ、控訴審が始まる。

 当裁判の内容は、民事訴訟である第一審に対する不服申し立てである。


 地方裁判所で行われた第一審では、原告である斎藤の主張は退けられていた。

 争点は、宗教法人イルミンスールによる斎藤の娘に対する献金の催促や、物品の購買を迫る行為が適法であったか否かということ。


 並びに、それらの金額が妥当であるのかという点にある。

 第一審の判決は、イルミンスールの行為は適法かつ妥当であると評し、斎藤は敗訴していた。


 類似のケースにおける最高裁の判例は、以下のようなものである。

 宗教団体や信者が、献金をするように他者を勧誘することは宗教活動の一環として許容され、直ちに違法とは言えない。


 ただし、勧誘の態様や献金の金額等の事情によっては、寄附者の自由な意思決定が阻害されている可能性があり、寄附者に不当な不利益を与える可能性がある。

 故に、宗教教団体等は献金の勧誘において、献金をしないことで害悪が発生することを告知して寄附者の不安を煽るような行為をしてはならない。


 また、寄附者の自由意思を抑圧し、献金をするか否かについて適切な判断を下すことが困難な状態に陥ることがないように配慮しなければならない。

 結論として献金勧誘行為は、社会通念上相当な範囲を逸脱すると認められる場合には、不法行為法上、違法と評価される。


 以上が、最高裁の述べるところである。

 これを前提として今回、高等裁判所で行われる第二審は、一審判決の誤りを是正することを目的としている。


 尚、控訴審では、第一審で取り扱われなかった新たな証拠の提出が可能となっている。

 そして、この裁判における新たな証拠とは、ルイの持つ資料と証言である。


 裁判は形式的に進み、じきに焦点が資料に当たる。

 ルイが提供した資料は、イルミンスールの幹部のみが閲覧することを許された、勧誘と献金を強引に達成するための方法論と実践法が記載された書面である。


 原告側の弁護士であるサチコは立ち上がり、書面の解説を淡々と始める。

 その間、被告側の板尾と及川は明らかに苦い表情を浮かべていた。


 サチコは説明を終えると、「以上です」と着席する。

 裁判官は被告側に意見を求めたが、及川は「特にありません」と返すに留まった。


 ルイがいなければ反論の余地はあったのであろうが、教祖の息子がいる前では下手な発言は出来ない。

 墓穴を掘らないように大人しくしているのが関の山である。


 そして裁判は終盤を迎える。

 書面の証人としてルイが裁判官に指名される。


 ルイは傍聴席から立ち上がり、毅然とした姿勢で証言台へと移動する。

 左の原告側に顔を向けて、微笑んだ。


 右の被告側に顔を向けて、冷笑した。

 正面の裁判官席に顔を向けて、頭を下げた。


 廷内全ての人間の注目を再び集めるルイ。

 誰も彼もが固唾を飲み、彼の言葉を待望していた。

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