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セカンド・ジェネレーションズ 〜The 2nd Half〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第1章 「威風堂々」

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01-05

 シュンサクは姉との会話が一段落つくと、控室の扉をそっと開き、恐る恐る中の様子を覗う。

 見れば斎藤は泣き止み、朗らかな表情を浮かべ、膝を床に着けたままの状態でルイの両手を自分の両手で握りしめ、しきりに「ありがとうございます、ありがとうございます」と感謝の言葉を口にしていた。

 

「次世代の教祖とはいえ、どんな説得をしたらこうなるんだよ……」


 扉の前に立つケンジに、怪訝な面持ちのシュンサクが問う。


「別に説得なんかしていないさ。ただ彼は自分の心の内を正直に話して聞かせたに過ぎない。自身もまたイルミンスールに人生を奪われ、憎んでいるということ。そして、斎藤氏の味方であるということをな」


「それだけ?」


「あぁ、それだけだ。ただ、怒れる人間を懐柔するだけのカリスマ性があるのは確かだな。立ち居振る舞いや話し方がまさに教祖のそれだ。遺伝による先天的なものか、或いは父親の背中を見て学んだ後天的なものか……」


 ケンジは目を細めてルイを見つめる。

 シュンサクは、ルイと斎藤の関係が良くなっていることに胸を撫で下ろした。


「とりあえず裁判に悪い影響が出なさそうで良かった。それじゃあ俺は先に行くよ」


「了解」


 ケンジは振り返ることなくシュンサクを送り出す。

 廊下でサチコに「よろしく」と、ひと声掛けたシュンサクは、ひとり法廷に移動する。


 道中、要所要所で小さく指差し確認をしながら歩くシュンサク。

 控室からの経路には不審者も不審物も見当たらない。

 

 法廷に到着したシュンサクが傍聴席を見ると、そのほとんどが埋まっており、空いている席が無さそうな様子であった。

 確かに、この裁判の世間での注目度は高い。


 裁判所の外にも数多くのマスコミが待機している。

 その理由は単純明快である。


 悪事が暴露され続ける自由勤民党。

 その後ろ盾となっている真世界党と、支持母体であるイルミンスール。


 そしてイルミンスールを相手取った裁判で、長期に渡って行方をくらましていた教祖の息子が証言台に立つというのだから、これ以上の旬な話題は国内に無いだろう。

 故に、シュンサクは慎重になっていた。

 

 もはやルイは、いつ殺されてもおかしくない人物なのである。

 今までとは違い、大っぴらに巨悪と戦うことを選んだのであるから。


 シュンサクは改めて右から左へと室内を見渡す。

 すると明らかに法廷には場違いな派手な服装の男がおり、嫌でも目が引かれてしまう。


 最前列のど真ん中に座る、赤いワイシャツに白のジャケットを着た短髪の男。

 見覚えのある後ろ姿にシュンサクは「げ!」と、声を漏らしてしまった。


 一斉に振り返る傍聴人たち。

 訝しげな視線がシュンサクに注がれる。


「……すんません」


 軽く頭を下げると傍聴人たちは再び前を向き、シュンサクは注がれていた視線から解放される。

 そして、そそくさと歩を進め、男に近づく。


 よくよく見ると男の両脇の席は空いていた。

 そりゃ誰もこんな奴の隣には座りたくないだろうさ――、と思いながらシュンサクは男の右側の席に座り、声を掛ける。


「久しぶりだな、チンピラ」


「あ? あぁ、ハコテン刑事か」


 ニヒルな笑顔を浮かべ、ぶっきらぼうに返答をするのは華川シズヤ。

 シュンサクに一瞥をくれるも、すぐに正面へと向き直る。


「その後どうだい? 体に空いた風穴の調子は?」


 額に怒筋を浮かべるシュンサク。

 目の前にいる輩を殴り付けたい衝動を抑え込み、小さく舌打ちをする。


「急所は外れてたから大事には至らずに済んだ。すんげぇ痛かったけどな」


「ははっ、死ななくて良かったな」


 シズヤは乾いた笑い声を上げる。


「内心、今すぐにでもお前を豚箱にぶち込みたいところなんだけど、今日はやめといてやるよ」


「出来なかろうよ。あの一件は無かったことになった。アンタの体の風穴も、アンタがあそこにいたことさえも公的な記録には残っちゃいねぇからな」


「そうなんだよなぁ……」


 シュンサクはがくりと項垂れる。


「ちなみに揉み消したのは俺の父親だ」


「マジ? なるほど、へぇ、可哀想に。息子の命より保身かよ。ウケるわ」


「お前の親も似たようなもんだろ?」


 シズヤもまた額に怒筋を浮かべ、横目にシュンサクを睨みつける。


「一緒にすんなや、タコ」


 シュンサクはシズヤを睨み返す。


「それはこっちの台詞だ。俺はお前と違って父親に抗って生きている。お前みたいな親の言いつけ通りに人殺しをする操り人形と一緒にするな」


「……よく知ってやがるな。どうやって調べた?」


「サクラの咲く頃に部署異動したのさ」


「桜? あぁ、なるほど、どおりで……」


 サクラは公安を意味する隠語であり、シズヤはそれを察した。


「それなら俺が誰と繋がっているかも知っているんだろ?」


「勿論。総理の息子だろ」


「それでも俺らとやり合おうってのかよ?」


「俺は正義の味方だからな」


「無謀な正義は身を滅ぼすぜ?」


「構わないさ」


 拍子抜けしたような顔のシズヤをよそに、シュンサクは屈託のない力強い笑顔を浮かべる。


「正義のためなら死んでも構わない」


 シュンサクの曇りなき宣言を受けて、シズヤは呆れた顔になる。


「アホくさ。勝手に盛り上がってろ。少なくとも俺たちはもう大立ち回りを演じることはねぇよ。今日は高みの見物。二代目教祖様のお手並みを拝見しに来ただけさ」


「随分と余裕だな」


「前回のしくじりで、俺たちみたいな下っ端の出番は無くなった。話のスケールがデカくなり過ぎて、ご覧の通り、上の組織が出張ってきたからな。最早お前らとイルミンスール、どっちが勝とうが知ったこっちゃねぇんだわ」


「とか言って、本当はイルミンスールに勝ってほしいんじゃないのか?」


「いやいや、アンタの言った通り、あくまで俺は親父や上の人間に従っているだけだ。そこら辺の連中はやきもきしているだろうが、俺程度の人間にはさしたる影響は無いな。ま、今まで通り雀荘と猫カフェの経営に専念するだけさ」


 頭の後ろで両手を組み、遠い目をしながらシズヤは黙る。

 開廷の時間が近づくと、原告と被告、そして各々の弁護士が入廷し、当事者席に着く。


 各弁護士たちは卓上に資料を広げ、着々と裁判の準備を整える。

 被告はイルミンスール副代表の板尾という男であり、被告側の弁護士は及川という男である。

 

 悪人が二人いる……。

 しかし、こいつらですらも本丸ではない――。


 そう思いながら目の前の光景を見ていたシュンサクであったが、ざわつき始めた後方に気が付き、振り向く。

 そこにあったのは、傍聴席の扉を開けて室内に足を踏み入れるルイの姿であった。

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