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セカンド・ジェネレーションズ 〜The 2nd Half〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第1章 「威風堂々」

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01-02

 広さ二十畳程の洋風のリビングにて、昼下がりのコーヒーブレイク。

 窓際にある椅子に座って日の光を浴び、丸テーブルに片肘をついて、エスプレッソを嗜みながらケンジはくつろぐ。


 対面の壁際にはソファがあり、深く腰掛けたルイは優雅に読書をしていた。

 読んでいるのはチャールズ・ダーウィンの著作『植物の運動力』である。


 その手前の開けたスペースでは、チヒロが汗を流しながら腕立て伏せをしている。

 メロメ地区に潜んでいた頃に比べて、明らかに身体が引き締まっていた。


 三人が現在いる場所は、大国の駐留軍のために用意された居住区である。

 ケンジは、世間一般に「外人住宅」として認知されている家のうちの一軒を、セーフハウスとしてチヒロとルイに提供していた。


 この居住区に入れるのは軍の関係者と、その家族、そして大国の要人だけに限定されており、地区の全体を囲うようにフェンスが設けられ、部外者の侵入を許さない造りになっている。

 無論、シズヤのような一般人が敷地内に足を踏み入れることは不可能であり、刺客による脅威からチヒロとルイの身の安全は保証されていた。


 これは、ケンジを含む公安の一部の人間を特別に所管する、とある省庁の元大臣が大国と秘密裏に結んだ協定による恩恵である。

 協定の目的は隣国からの侵略行為を防ぐことであり、その達成に必要であると判断されれば、チヒロやルイのような部外者もこの居住区に入ることが出来るのである。


 そんな二人のもとに、ケンジは不定期に訪れていた。

 そして二人の日常を見る度に、ケンジは不思議に感じることがあった。


 二人は特に何を話すわけでもないが、自然と近くにいて、各々が好きなことをしながら時を過ごす。

 その光景はまるで、長年寄り添った老夫婦のようであると思っていた。


 二人の間にあるのは、単なる友情とは違った別の感情。

 チヒロとルイだからこそ持ちうる特別な絆。


 ケンジには、二人の絆の正体が何であるのか、何と無しに想像がついていた。

 それは恐らく、己の生まれに対する憎しみ。


 より一層に突き詰めるのであれば、親に対する憎しみである。

 自己の出生に後ろめたさと負の感情を抱えている二人だからこそ、感じあえるシンパシーが存在するのであろうとケンジは考えていた。


 自分もまた、似たような感情を胸に抱いているからこそ理解が及ぶ境地。

 しかし、その答え合わせは野暮になると考え、敢えて二人には何も尋ねないでいる。


 三人が一様に口を噤み、穏やかな時が流れる。

 しかし世間は騒々しい。


 リビングに置かれたテレビでは、昼のニュース番組が放送されている。

 映し出されているのは、自由勤民党の幹事長が国会で答弁をするワンシーン。


 答弁の内容は、多額の使途不明金についてである。

 過去十年に渡り、幹事長が政策活動費としていた二百億もの使途不明金の行方が野党の議員に追及されていた。


 幹事長は言葉を濁し、お茶を濁し、時間を稼ぐ。

 揚げ足をとられぬように一言一句を慎重に紡ぎながら、その場を凌ごうとしていた。


 この状況また、ルイの仕業である。

 ルイによって仕組まれた世論の誘導。


 メロメ地区からの脱出以降もルイによるスキャンダルのリークは継続されており、イルミンスールに深く関わっている人間への攻撃は止まらない。

 主たる対象は政治家、官僚、公務員。


 不祥事が世に向けて発信される度に、そこに関わった人間が国民から糾弾される日々。

 金や権威、権力に物を言わせてやりたい放題してきた者たちが次々と槍玉に上げられてゆく。


 政府与党からの情報統制すらも無力と化したマスメディア。

 政府与党からの規制を物ともせずに炎上するインターネット。


 今や、人々は完全に自由勤民党とイルミンスールを悪として認識し、世論は一方的なものとなっていた。

 全てはルイの目論見通りである。




 ピンポーン、とインターホンの音が鳴る。

 ケンジはコーヒーカップを置いて立ち上がり、対面の壁に取り付けられているモニターを確認する。


 映っているのは、笑顔のシュンサク。

 ケンジはモニター付属の解錠ボタンを押すと、玄関の方からバタバタと足音が近付いて来る。


「みんな、メリークリスマス!」


 満面の笑みでリビングに入室するシュンサク。

 その手には大きな茶封筒がひとつ。


「ほい、サンタさんからのプレゼント」


 軽口を叩きながらシュンサクは、封筒から紙を数枚取り出して三人に向かって見せつける。

 それぞれの白い紙にはびっしりと、蜘蛛の巣のように四方八方に伸びた細く黒い線が印刷されていた。


「へぇ、都会の地下はスゴイですね。この全てが道ですか」


 ルイはシュンサクの持つ紙に近づくと、まじまじと線を見つめる。

 そこに描かれているのは、首都圏の地下に広がる無数の道であった。


「そう。地下鉄、地下道、建物間の連絡通路のような誰しもが知り得る道から、ごく限られた人間しか知り得ない秘密の道まで、そのほとんど全てを網羅しているのさ」


 シュンサクは鼻高々に解説する。


「高速道路の緊急避難路、工事の移動用に使われた道、戦後から今に至るまでに使用されなくなった廃道、大雨対策用の排水路、下水道、一部の軍関係者や政治家、そして俺たち公安や秘密組織にのみ使用が許された特殊な通路、エトセトラ」


 数多ある黒い線の中に引かれた一本の赤い線を指差すシュンサク。


「そして、これが今回の移動経路さ。俺たちが居る駐留軍の居住区がスタート地点。首都にある高等裁判所がゴール地点だね」


「なるほど」


 顎に手をあて、地図を目で追い、頷くルイ。


「この経路を使えば、刺客に襲われることなく、比較的安全に目的地に辿り着けるはずだ」


 シュンサクは自信満々に胸を張る。


「護衛は私たち二人で行う。必ず君を、無事に裁判所に送り届ける」


 と、ケンジ。


「よろしくお願いします」


 ルイは恭しく頭を下げる。


「それじゃあ行きますかね。じゃあじゃあチヒロ君、お留守番よろしく」


 ひらひらとチヒロに手を振るシュンサク。

 チヒロは腕立て伏せを止めて立ち上がり、ルイに近寄る。


「気をつけて」


 ルイに向かって軽く握った拳を突き出す。


「あぁ」


 ルイは優しく微笑み、チヒロの拳に自分の拳を軽くぶつけた。

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