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セカンド・ジェネレーションズ 〜The 2nd Half〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第2章 「詩的で宗教的な調べ」

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02-06

 クリスマスの裁判と同様に、被告側からのルイに対する反対尋問は無かった。

 ルイの証言とイルミンスールのマニュアルは確定的な証拠であり、下手な反論をすれば墓穴を掘ることになり得るからである。


 しかしイルミンスールも黙ってはいなかった。

 前回の裁判を踏まえ、ナミは証人を用意していたのである。


 裁判長に促され、被告側の証人が証言台に上がる流れとなる。

 ナミは立ち上がると、傍聴席の角にいる車椅子の女の元へと足を運び、証言台の前にまで連れてゆく。


 女が車椅子から立ち上がらなくても大丈夫なように、ナミはマイクスタンドの首を低い位置まで折り曲げた。

 そして女の耳元で何かを小さく囁くと、被告側の席へと戻る。


 被告側の弁護士である及川が立ち上がる。

 細身のグレーのスーツに、深い藍色のネクタイ。


 色白でオールバックの黒髪に、金縁の眼鏡。

 レンズの奥から覗く目つきは爬虫類のように鋭く、白蛇を思い起こさせるような温度感の無い男である。


「それでは、こちら側の証人尋問を始めたいと思います。桜田チヨコさん、よろしくお願い致します」


 包帯で巻かれていた女は、桜田チヒロの母親。

 イルミンスール記念会館で全身に火傷を負ったが故の姿であった。


 この時ルイは、チヨコが生きている姿を見て自責の念を抱く。

 チヒロは自分の父親を殺したにも関わらず、自分はチヒロの母親を殺せなかったことに。


 詰めが甘かった。

 自らの手で止めを刺せなかった。


 それは、覚悟の不足。

 それは、心の弱さ。


 アクセルを全開にまで踏み込めるチヒロに比べて、未だにブレーキをかけてしまうルイが生み出してしまった、つけ入る隙。

 そして、その隙を突いてきたのがナミである。


 ルイから僅かに漏れ出る動揺をナミは見逃さなかった。

 及川もまた、ルイの心の隙間に狙いを定める。


「長年に渡ってラタトスク、つまり宗教法人イルミンスールの信者として献金を行ってきたチヨコさんにお尋ねします。今までの献金の総額をお教えください」


「一千万に届くか届かないか位⋯⋯、でしょうか。イルミンスールに記録として残っているはずです」


「はい。過去の記録が書面並びに電磁記録媒体、つまりデータとして残っていました。金額は約九百七十六万です。こちらは僭越ながら裁判所に資料として提出させていただきました。ご許可をいただきまして、誠にありがとうございます」


「いえ、果たすべき教義と天命を全うしただけです」


「では次の質問です。イルミンスールから購入した数々の品々、例えば本であったり、壺であったり、水であったり、祭壇であったりですね。それらに使用した金額をお教えください」


「私のつけていたメモを見返して計算した限りでは、五百万前後かと思います。これも記録が残っている筈です」


「はい、残っていました。約六百万です。こちらの記録も裁判所に提出させていただいております。ご協力、感謝致します」


「いえ」


「さて、これら金額の合計ですが、偶然にも田山さんがイルミンスールに支払った金額とほぼ同額となる約千六百万でございます。ここでまたひとつ桜田さんにお尋ねします。イルミンスールに入信し、お金を献上したせいで、今まで生活に困窮した経験はございますでしょうか?」


「いえ、ありません」


「ただの一度も?」


「はい、一度たりとも経済的に困ったことはありません」


 この発言、チヒロが聞いたら怒り狂うだろうな――。

 そうルイは思った。


「左様ですか。実はですね、これまた偶然にも、田山さんの収入と桜田さんの収入の額は近しいものとなっております。収入源の違いこそあれ、金額での比較がしやすいことから、桜田さんには証人として出廷していただいた次第です。また家族構成も、年齢の近いお子さんが二人いるという点で、支出の額も近しくなって然るべきかと思います。にも関わらず、何故に田山さんだけが事業に失敗し、破産に向かわれてしまう程に経済的に困窮しているのか? それはひとえに、田山さんのお金の使い方が下手なのではないでしょうか? イルミンスールのせいではないのではないでしょうか? この点について桜田さんは、どのように思われますか?」


 荒唐無稽。

 聞くに値しない稚拙な問答。


 馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 何の意味があって、このような証人尋問が行われているのであろうか。


 廷内の誰しもが、そう考えていた。

 唯一人、ルイを除いては――。


 チヨコが口を開こうとした瞬間、咳払いをしながら裁判長が割って入る。


「被告側の弁護士は要点を明確にした上で、回りくどくなく、建設的で意義のある質問をするように」


「失礼しました」


 及川は軽く頭を下げる。


「では、質問の角度を変えましょう。桜田さんは、先ほど原告側の証人として証言台に立った、藤原ルイさんをご存知ですよね?」


「はい、教祖様のご子息ですから」


「今日より以前に直接お会いしたことはありますか?」


「はい、イルミンスールの集会や勉強会で何度か」


「直接、会話をしたことはありますか?」


「はい、一度だけ」


「珍しいですね。イルミンスールの幹部の人間ですら、そうそう会話をする機会がない方なのに。それは、二人きりでしたか?」


「はい、二人きりです」


「いつ、どこでのことでしょうか?」


「昨年の二月、場所はイルミンスール記念会館です」


 チヨコはゆっくりと傍聴席に向かって振り向き、淀んだ瞳でルイを見る。

 ルイはチヨコの次の発言を想定し、人生において、かつてない程の後悔の念を抱いた。


「そこで何があったのでしょうか?」


「藤原ルイ様が、教祖様である藤原ナユタ様を殺していました」

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