鯵の干物は死因になり得るか
いくらわたしが不死身でも、死に方を選ぶ権利くらいはあるはずです。
今回ジョウロくんが仕掛けてきた殺人計画は、あまりにもあんまりな内容でした。
冷凍カジキマグロを電線に吊るし、電撃をまとわせた上で直上からわたしの脳天に突き下ろすという彼の荒唐無稽なプランは、しかし実行に移される前に諸々の変更を余儀なくされたようです。結果としてわたしの頭上に降ってきたのは電線をぐるぐるに巻き付けられた鯵の干物だったわけですが、それでも時間停止が発動する程度には脅威認定されたわけですから、ジョウロくんの創意工夫には目を見張るものがあります。
とはいえ、頭上を見上げたらそんな現代アートみたいな代物が停止して浮かんでいたわたしのまず第一の心情としては『な……何事!?』なのでした。もしかして本当に現代アートかと思い、『自由を奪われた鯵』『飛翔せし鯵の墜落』などとそれっぽいタイトルを考えてみた程度にはありもしないテーマ性を考察しましたが、頭を捻っていても仕方ないと思い、解答を求めてまたもわたしは容疑者筆頭のジョウロくんの部屋にお邪魔したのでした。そしてその結果見つけたのが『祀木八重子殺害計画』なる物々しいタイトルのつけられた自由帳だったわけですが、怨讐すら篭っていそうな少年の可愛くない殺意に、まるで身に覚えがなくともいよいよ慄かざるを得ません。
彼がいつも勉強に使っているだろう子供机に腰掛け、早速開いてみた一ページ目に前述の冷凍カジキマグロ電撃殺なるアイデアが書かれていて、わたしはブフォと吹き出してしまいました。流石にカジキマグロの入手は小学生の彼にとって現実的ではなかったらしく、妥協に妥協を重ねた挙句に電線を巻いた鯵という訳わからないことになってしまったようですが、それでも概ねの骨子は踏まえられています。
もしかして残りの計画も実行に移す気なのかと思いパラパラ捲って見ていますが……なんとも酷い。天賦の残虐性と子供らしい無邪気さが空想の中で悪魔合体したような極悪なものばかりです。彼には善性というものが生まれつき備わっていないのでしょうか? お花屋の息子なのだからもう少しファンシーな精神性をしていてほしいものだと思いますが、子供に無垢を求めるのは大人の傲慢かもしれません。だからと言ってジョウロくんをこのまま成長させてしまうのは社会にとって脅威でしょうから、年長者のわたしががつんと叱ってあげなければとは思うのですが、何度ほっぺにコラと書いても反省の色さえ伺わせない彼にこれ以上何を言っても無駄な気がしています……。それでもジョウロくんがいつかへこたれるまで、何をされても殺されないという不死性を断固として示し続けることが、わたしにできる最善なのでしょう。
とりあえず、今後の自衛のためにもノートに書かれていた諸々の殺害プランをざっと頭に入れておきました。もし頭上から電線の巻き付いた鯵が降って来るような珍事に今後見舞われても、驚かない程度の気構えができた気がします。
わたしはノートを元あった場所に戻し、ベランダで例のごとくわたしのいた道路の様子を見守っているジョウロくんの頭をいつも通りに引っ叩き、ほっぺにコラと落書きして、「……」少し考えてからもう一文書き足しました。
『食べ物を粗末にしてはいけません』
ジョウロくんの落としてきた鯵の干物は、巻き付けられていた電線を外した上で彼の部屋の机の上にお返ししておきました。地面につく前に拾ったから、きっと食べても問題ないはずです。
鯵の干物は健康食品だそうですから、食べて是非とも健全な人間に育ってほしいものです。
……なんて考えるのは、流石にお節介でしょうか?




