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with お花屋のジョウロくん

 学校へ行く途中、お花屋の前を通りかかったときに上から植木鉢が落ちてきました。鈍器の様に重いそれがわたしの頭蓋を割る寸前、世界が静止します。

 頭上を仰ぐと素焼きの植木鉢ののっぺりした厚底がすぐ目の前にあって、その一ミリの慈悲も感じさせない不条理の塊のような重圧に腰が抜けてその場にぺたりと尻餅をつきました。宙で静止している植木鉢の下から這う這うの体で抜け出し、それの降ってきた二階を見上げると、やっぱりいました、ジョウロくん。少年特有のキラキラした眼差しでことの次第を見守っています。

 わたしが何をされても死なないことをうっかり彼に知られて以降、その秘密を解き明かしたくてたまらないらしいジョウロくんからちょくちょく命を狙われるようになったのですが、最近はその程度がだんだんと甚だしくなってきた気がします。流石に危機感を覚えますし、一発しばいて差し上げたい気持ちにもなりますが、子供のやることにいちいち目くじら立てていてもキリがないのでしょう。それでもやっぱりむかつきます。

 わたしは立ち上がり、スカートについた埃を払って宙の植木鉢を地面に降ろし、道端へ押しやると、一階のお花屋へ足を踏み入れました。ニコニコとお花のお世話をしながら静止しているジョウロくんの母親に朝の挨拶をして奥のバックヤードへ進み、二階の住居へ。ベランダに足場を置いて手すり越しにわたしのいた道路の様子を覗き見しているジョウロくんの後頭部をひっぱたきます。ほっぺにマジックで「コラ」とも書いてやります。身体を前に乗り出しすぎていて少し危なっかしいので、心持ち後ろに引っ張っておいてあげました。

 ジョウロくんがどんな予想を立てているかは知りませんけれど、実際のところわたしの能力なんて少年が憧れる漫画や特撮のヒーローみたいな格好良いものでは全くありません。ただ、わたしが生命の危機に陥ると時間が自動で停まるので、その間に地道なフィジカル作業でせかせか周囲の安全性を確保して命を繋いでいるだけなのです。誰にも知られず泥臭い作業を済ませ、無傷の女子高生としてその場に戻る。それがわたしの『死なない』性質の正体です。

 それだけのことを秘密にしておくのもどうかと思いますし、そのせいで今日もこうしてジョウロくんから命を狙われるわけですが、そんな格好のつかないタネを知られて少年からロマンを奪ってしまうのもいささか忍びないのです……なんて格好つけが、わたしの致命的な弱点かもしれないにせよ。

 そしてわたしは元居た通学路へ戻り、時計の針は動き出します。

 道端で地面とゼロ距離激突した植木鉢は人知れず粉々に砕け、二階から「イテッ!」と声が聞こえます。振り向くと、頭を抱えて不思議そうに後ろの様子をきょろきょろ見回していたジョウロくんが、ちょうどこちらへ振り返りました。左の頬に落書きされていることに、君はいつ頃気付くでしょう。

 風にさらわれた髪を片手で押さえながら微笑みを隠すように前を向き、ジョウロくんの眼差しを背中に感じつつ朝日に照らされた通学路を歩むわたしの頭の中では、大好きなGet Wildのイントロが流れ始めています。

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