第三十話 再結成
カルボナーラ王国の王城。
謁見の間。
玉座に座るのは、カルボナーラ王国国王フレッシュ。
フレッシュの眼前に跪くのは、五人の勇者たち。
特別な謁見者の存在を前に、玉座の間の警備に当たる兵たちの表情も引き締まる。
尊敬。
畏敬。
表敬。
世を生きる者たちであれば、世界を救った勇者パーティへの敬意は計り知れない。
「面を上げよ」
国王フレッシュが告げると、五人は頭を上げた。
「今、この国に……いや、この世界に、危機が訪れておる。再び、そなたたちの力を借りたい」
フレッシュの言葉に、真っ先に反応したのはスミヤキだ。
「もちろんです! 私たちは勇者。この身を賭して戦い、必ずや世界の平和を守ってみせましょう」
スミヤキの言葉に同調し、フー、イカリ、エル、ジビエが頷く。
まるで、魔王討伐に出発する日の光景。
兵たちから唯への恐怖心があっという間に消え、代わりに大きな期待が胸を支配する。
それは、フレッシュも同様。
「そなたたちの存在を、頼もしく思うぞ」
「もったいないお言葉です」
その後は国王としての、そして勇者としての定型文が続き、一通りが完了したところで、フーが口を開く。
「では、カルボナーラ様。現在の状況をお教えいただけないでしょうか。その宣戦布告をした唯という女は、今、どこにいるのでしょう」
「うむ」
フレッシュが兵に視線をやると、兵がフーに一枚の地図を渡した。
「拝見します」
フーが兵から地図を受け取り、フレッシュに一礼した後、地図を開いた。
地図には、カルボナーラ王国の詳細な町と村の情報が載っていた。
本来ならば、王族貴族、そして一部商人のみが抱える秘匿情報であり、間違っても他国の人間であるフーに見せるものではない。
つまり、それほどにカルボナーラ王国が追い詰められており、それほどにフレッシュが勇者パーティを信用しているということだ。
フーの受け取った地図を、他の四人も覗き込む。
六ケ所の地名に赤いインクで罰がつけられていた地図を。
その意味を、フーはすぐに悟った。
「……六つも、落とされたのですか?」
「情けない話だが、その通りだ」
「その唯という女は、支配した町の住人に奴隷の首輪をつけ、盾として使っていると聞いております。国民の盾を前に、兵たちは手を出せず、無条件で降伏した、ということでしょうか」
フーの推測を聞き、フレッシュはさらに苦々しい表情を作る。
「その女が奴隷の首輪を使い、我が国の国民を盾にしているのは事実だ。我が国に蔓延っていた奴隷商や犯罪組織が次々と潰され、奴隷の首輪が多数奪われているとの報告も受けている」
「では」
「いや。落とされた六つの町の内、四つは唯という女の単独だ。我々は、真っ向から戦い、負けたのだ」
「各都市には、最低一人のA級が配備されていると記憶していますが……」
「相手にならなかった」
勇者パーティの五人の表情が、険しくなる。
カルボナーラ王国の現状について、勇者たちが想像していたよりもはるかに悪い方向へ進行している事実を前に。
唯は、果たしてどのくらい強いのか。
そんな疑問が、輪郭を帯びてくる。
「事情は分かりました」
A級戦士を有する都市一つを単騎で落とすことなど、常人では不可能なのだ。
勇者でもなければ、不可能なのだ。
「……勝てるか?」
「勝ちます」
覚悟を問うフレッシュの問いに、スミヤキは迷いなく答えた。
魔王の討伐、その過程における魔王が創り上げた都市の攻略。
過去の実績が、そのまま裏付けとなった。
欲しかった言葉を前に、フレッシュは安堵のため息を零す。
「そなたの言葉、頼もしく思うぞ」
勇者パーティは、魔王さえ退けた最強の人類。
フレッシュの目から見ても、唯に匹敵する実力者だ。
それが五人。
現状、五大大国の人類を掻き集めても、この五人を超える戦力はいない。
文字通り、人類の最後の希望だ。
フーは、杖を掲げる。
「神杖ケッパーの名のもとに」
イカリは、拳を掲げる。
「神拳チリの名のもとに」
エルは、首飾りを掲げる。
「神飾マッシュールの名のもとに」
ジビエは、弓を掲げる。
「神弓ミイトの名のもとに」
スミヤキは、剣を掲げる。
「神剣ブラペの名のもとに、必ずや、世界に平和を」
選ばれし者しか装備することを許されない神具に、五人の誓いがともされた。
「そなたらに、我が国の……いや、世界の命運を託す!」
「はっ!」
神が覗き込んでいるようなヒリリとした空気の中、最初に神具を納めて口を開いたのはフーだ。
「次は、現実的なお話をさせてください。カルボナーラ様」
「聞こう」
「我々とて、国民を傷つけたくはありません。しかし、敵が国民を盾にしてくるのであれば、いくらかの被害は必須となるでしょう」
「もちろん、承知している。国民を傷つけてしまっても、その責任の所在をそなたにも貴国にも、押し付けたりはせぬ。フレッシュ・カルボナーラの名において約束しよう」
「感謝いたします」
スミヤキ以外の四人がカルボナーラ王国の人間でない以上、そこには外交という政治的要素が介在する。
事実、過去にアラビアータ帝国内で、勇者パーティは政略によって罪人として扱われかけたことがある。
他国での活動である以上、フーの懸念はもっともだ。
「もう一つ。唯の討伐に際し、貴国の一部の兵の指揮権を私たち……いえ、スミヤキにいただきたいです」
「何故だ?」
なお、外交を考えるのはフレッシュも同じ。
勇者パーティの口車にほいほいとのった結果、内政干渉をされて国自体が混乱に陥ることは避けなければならない。
「制圧のためです。殲滅が目的であれば私たち五人で事足りますが、国民を傷つけぬ制圧には数が必要です」
「確かにな。わかった。我が騎士団の指揮権の一部を、スミヤキへ移譲しよう。魔道師団についても、魔道師団長ストリーキーに便宜を図るよう、私から申し伝えておこう」
「ありがとうございます、カルボナーラ様」
「他に欲しいものがあれば、なんでも言うと良い」
「では、お言葉に甘えて」
フーは言葉を続ける。
フーの考える作戦の全容、そして、実現のために必要な物を。
フレッシュはフーの言葉を一つ一つ聞き、一つ一つに頷いた。




