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天上天下唯が独尊 ~あたしが世界最強になるまで~  作者: はの
宣戦布告編

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第十六話 異変

 カルボナーラ王国王都。

 ブッチーノ町とは比べ物にならない程大きな家が立ち並ぶ都市の中においても、王城の姿はひと際目だっている。

 

 玉座の間には人が集まり、玉座には白髪の男性が困った表情で座っている。

 カルボナーラ王国の国王、フレッシュ・カルボナーラその人である。

 

「ブッチーノ町との連絡が途絶えた」

 

 玉座に座るフレッシュは、端的に召集の理由を告げた。

 

 玉座の前に広がる巨大な広場で頭を下げていた騎士団長パンチェッタは、フレッシュの言葉を受けて顔を上げる。

 ピンク色の長髪の隙間から覗く強烈な眼光が、フレッシュの言葉を聞いて一層光った。

 

「ブッチーノ町、ですか」

 

「うむ。全ての門が封鎖され、人々の往来ができなくなっている。状況を確認するために何人か人を向かわせたが、一切呼びかけにも応じず、中の状況はわからずじまいだ」

 

 かつて魔物の侵略を受けていた歴史から、カルボナーラ王国に存在する町の大半は高い塀に囲まれており、門を封鎖することで魔物の侵入を防いでいた。

 しかし、勇者が魔王を討伐して魔物が姿を消して以降、門の封鎖は夜間にとどまり、開いた門を兵が監視する運用に切り替わっていた。

 平和の訪れた現代において、門の閉じられたブッチーノ町は明らかに異常だった。

 

 そんな異常が起きる理由として想像できるのは、魔物ではない別の何かと戦っている場合。

 

「王国への反乱を準備している、でしょうか」

 

 パンチェッタが、一つの懸念を口にする。

 

「それはありえん。ブッチーノ町のサンターガは、己の出世よりも町人たちの生活を優先する優しい男だ。損得勘定も計算できる。王国に牙をむくような男ではない」

 

「……そうですね。私も、そう思います。失礼しました」

 

「いや、構わん。サンターガでなければ、あるいは私も反乱を疑っていたかもしれん」

 

 フレッシュとパンチェッタは、付き合いが長い。

 それ故、公式の場でなければ、多少の非礼に目をつぶって本音を話し合える仲だ。

 フレッシュを警備するために立つ最低限の警備兵たちも、そんな二人の様子に違和感を持つことなく、警戒を続けている。

 

「では、ブッチーノ町の中で暴動が起きており、鎮静のために一時的な封鎖を施している可能性は」

 

 パンチェッタが、次の可能性を提示する。

 それは、フレッシュの考えていたことと同じだった。

 

「私も、その可能性を疑っている。だが、ブッチーノ町の治安は、暴動が起きるほど乱れていないと考えている。町人からの陳情もほとんどない。しいていえば、王都と繋がる道路をもっと整備して欲しいという、商会からの嘆願くらいか」

 

「サンターガ様は、民想いの方ですからね」

 

「そうだな」

 

「やはり、暴動もなさそうですね。それに、仮に暴動が起きたとしても、サンターガ子爵の近くにはA級剣士のエーザロがいます。エーザロであれば、暴動を鎮圧することも容易いでしょう」

 

 A級戦士になるために必要なのは、同じA級戦士からの推薦。

 パンチェッタは、エーザロの戦士としての実力を測り、A級戦士として適格であるという推薦を出した張本人。

 そんな私情もあり、エーザロへの信頼も厚かった。

 

 フレッシュもまた、パンチェッタを信頼している。

 信頼するパンチェッタガ信頼する相手であればと、エーザロ暴動を沈められることを認めた。

 

「そのエーザロとやらが暴動の旗を振る可能性は?」

 

「ありえません。エーザロはブッチーノ町で生まれ、故郷への愛が強い男です。サンターガ様に実力を認められ、取り立てられたことにも強い恩義を示しています。とても、サンターガ様を裏切るとは思えません」

 

 フレッシュの頭の片隅にあった、暴動という線も消えていく。

 外から見てもブッチーノ町の政治は手本のようであり、とても内部に暴動の種を見つけることができなかった。

 

 内部の線が消えると同時に浮上するのは、外部の仕業。

 

 つまり、国外か魔物。

 

 しかし、フレッシュが把握する限りは対外的に大きなひずみはなく、カルボナーラ王国へ手を出すといった噂も聞いていなかった。

 魔王も未だ、表舞台から消えたまま。

 外部という言葉が指す存在が、フレッシュには思いつかなかった。

 

「才を持った、孤児か?」

 

「それが、最も可能性が高いかと」

 

 ようやくはじき出した結論は、フレッシュの視界に入らない存在、孤児だった。

 カルボナーラ王国では、全ての国民が幸せに生活できるよう、政治を敷いてはいる。

 しかし、広大な国土をフレッシュ一人の目で網羅することもできず、取りこぼされている国民もいる。

 その代表が、孤児。

 貴族が妾と秘密裏に設けた子供、養う余裕がないために捨てられた子供、大人になった孤児同士で設けた子供。

 そうして国民として登録されていないまま、孤児たちはひっそりと生活をしていた。

 

 孤児たちの価値観は、一般的な生活をしている国民とは大きく違う。

 明日家がないかもしれない。

 明日餓死するかもしれない。

 明日殺されるかもしれない。

 常に死と隣り合わせで生きる孤児たちは、時にフレッシュにして理解ができない思想を生み出す。

 その中には、自身の現状を恨み、その恨みをカルボナーラ王国全体への恨みとして昇華する者も当然いる。

 

「まったく、上手くいかないものだな」

 

「恐れながら、陛下は最善を尽くしておられます」

 

「いや。魔王という存在ががいなくなれば、永遠の平和を保つことができると思っていた私が浅はかだったのだ」

 

「陛下……」

 

 フレッシュは玉座にもたれかかり、手で額を覆いながら、深いため息をついた。

 国王という立場としては相応しくない行動ではあるが、誰も咎めることはない。

 それほどにフレッシュは、魔王亡き後に各国と停戦協定を結ぶことに尽力し、実現したののだ。

 その偉業と苦労を、この場にいる全員が知っている。

 

 フレッシュは、小さく呼吸を整えた後、再び体を起こす。

 

「弱音が過ぎたな」

 

「そのようなことは」

 

 先程までの表情とは一転し、フレッシュは厳しい表情を作る。

 そして玉座から立ち上がり、パンチェッタに命じた。

 

「原因が何であれ、平和を乱すものは取り除かなければならん! 既に、口頭での警告は成した!」

 

 フレッシュの言いたいことを理解したパンチェッタは、いち早くその場に跪き、フレッシュからの命を待った。

 

「騎士団長、パンチェッタに命ずる! 武力をもって、ブッチーノ町を奪還するのだ!」

 

「はっ!」

 

 カルボナーラ王国が、動く。

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