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天上天下唯が独尊 ~あたしが世界最強になるまで~  作者: はの
宣戦布告編

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第十二話 支配・町

 エーザロの意識が、ゆっくりと戻って来る。

 ぼやける視界に移るのは、廊下に倒れ伏すサンターガ。

 

「サンターガ……様……」

 

 雇い主を守れなかった自己嫌悪。

 自身の半分の年月としつきしか生きていないだろう少女に敗北した自己嫌悪。

 自らの剣士としての生き方を全否定された感覚が、エーザロの脳にたっぷりと注がれていく。

 

「あ、起きた?」

 

 唯は倒れるエーザロに近づき、腰を踏みつける。

 

「ぐうっ!?」

 

 腕から流れる血をペロリと嘗めて、唯は恍惚とした表情で告げる。

 

「あんた、及第点よ」

 

「?」

 

「あんたは、あたしがこの世界に来て初めて会った、マシな奴。その栄誉として、あたしの下僕にしてあげる。光栄に思いなさい?」

 

「な、何を……言って……」

 

「殺さないであげるって言ってんのよ。喜びなさい?」

 

「ふ……ははは」

 

 子供に説明するような口調の唯を見て、エーザロは脱力した。

 弛緩した肉体からは乾いた笑いが噴き出てくる。

 

 自身にとって全力の力と想いを乗せた戦いが、唯にとってはマシという言葉に落ち着いた事実。

 エーザロの絶望は一周回り、虚無となった。

 

「何を笑ってるの?」

 

「あいにくだが、私はサンターガ様に仕えた身。命乞いはしない。殺せ」

 

「そのサンダーガってやつは、どうせ死ぬわよ? この後、殺すから。もう仕える使える相手がいなくなるんだから、忠義を尽くす必要もないでしょ?」

 

 唯の言葉は、誰かに使える戦士にはあるまじき言葉だ。

 なればこそ、エーザロの笑いは止まらなかった。

 

「ならばこそ、私も死ぬのだ。主を残して死ぬなど、剣士の恥だ」

 

「意味が分からないわ」

 

 自分より弱い人間の下につき、自分より弱い人間と共に死を選ぶ。

 それは、自身が最強になるために物事を考える唯には理解できない感覚だった。

 一方で、自身の決めたことに対し、命をかけることの美徳だけは理解できた。

 唯とて、元の世界では最強を目指した果てに、新幹線という最強に挑み散ったのだから。

 

 夢の終わりの後には、死が待つものだ。

 

 唯は、エーザロの決断を理解した。

 それはそれとして、尊重はしなかった。

 A級という自分の知らない知識を持つだろうエーザロを、このままみすみす殺すなど、唯にとって最強に辿り着く道具の損失でしかなかった。

 

「じゃあ、こうしましょう?」

 

「?」

 

「あんたが死んだら、この町を跡形もなく消し去って、サンターガ、だっけ? そいつの痕跡を一つ残らず消してあげる?」

 

「痕跡?」

 

「妻と子供を殺す。この屋敷も、使用人の一人に至るまで、サンターガってやつがこの世界にいた証を消してあげる」

 

「なっ!?」

 

 唯が壁を蹴り砕き、エーザロに外を見せる。

 

 外に広がるのは、炎の壁。

 館全てを包み込む、炎の壁。

 唯がひっそり空からばら撒いていた火が、今花開いていた。

 

「こうやってね」

 

 エーザロは、燃える庭を見て絶句する。

 

 歴史に名が残ることは、貴族にとって栄誉なことだ。

 貴族にとって栄誉なことは、貴族に仕える者にとっても栄誉なことだ。

 それを奪おうとする唯の振る舞いは、生きるサンターガを殺すだけでなく、死後のサンガータさえ殺しかねないことである。

 

 歴史上、名も残らぬ貴族とは、名を残したくもないほどの極悪人である場合が多い。

 つまり唯の行動は、サンターガという存在を永劫の悪にしかねない。

 

「選べ」

 

 唯は、エーザロの前に、エーザロの剣を投げて置く。

 

「あたしの下につくのなら、その剣で元主を切り殺せ。あたしの下につかないのなら、その剣で自害しろ。時間を、三十秒だけあげるわ」

 

 エーザロは、目の前に置かれた剣を握りしめ、体をよろよろと起こした。

 目の前には、腕を組んで立つ唯。

 そして、廊下に倒れるサンターガ。

 

 エーザロは、剣を凝視した。

 

「後、二十秒」

 

 エーザロの前に置かれたのは、どちらもサンターガを守り、また忠義を裏切る選択肢。

 飴と鞭どころか、どちらも飴であり鞭。

 

「あ……ああ……」

 

「後、十秒」

 

 エーザロの頭の中に、唯に斬りかかるという選択肢が浮かんで、次の瞬間消えた。

 次に浮かぶのは、剣士を目指した子供時代の自分。

 サンターガという人間の下につき、サンターガと共に夢を見てきた自分。

 

 ――エーザロ。儂は、この町を王国で一番幸せな場所にしたいのだ。

 

 ――辺境の村まで思いやれるサンターガ様ならば、必ず実現できるでしょう。私も、全力で支援いたします。

 

 サンターガの目が、うっすらと開く。

 唯とエーザロの会話が聞こえていたサンターガは、子爵として最後の命令をエーザロをに下した。

 

「斬れ、エーザロ」

 

 死を恐れるサンターガにも、貴族として死以上に恐れるものがある。

 

 

 

「五」

 

「お」

 

「四」

 

「あ」

 

「三」

 

「あああ」

 

「二」

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

「一」

 

 

 

 唯は神経を研ぎ澄ませ、人の気配を探る。

 広い広い家の中で、家の外を目指す集団がいくつも蠢いていた。

 そして、炎の壁の前で立ち止まる。

 

「約束通り、サンターガの名前は残してあげる。ん? サンターガは名前だから、残るのは名字の方かしら。名字って何? ブッチーノ?……ま、どうでもいいか」

 

 唯は壊れた壁の穴から身を乗り出し、炎の壁の前で立ち止まる集団に向かって飛んだ。

 

 戦争の終わりに必要なのは、然るべき人間の降伏証明だ。

 サンターガ亡き今、然るべき人間とはサンターガの後継者、あるいは妻だ。

 

 唯は、サンターガの家族を守ろうと立てついた兵たちをその場で皆殺しにし、残されたサンターガの家族たちを捕虜として捕獲した。

 そして、後継者であったサンターガの息子から、町全体に発表をさせた。

 

「ただいまをもって、ブッチーノ町を唯様に献上する。ブッチーノ町はカルボナーラ王国から独立し、唯様の支配下につく。これは決定事項であり、異論は認めない」

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