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プロローグ

 夜でも明るい街中は、文明の証。

 電車の中で眠りこける酔っぱらいは、平和の証。

 

 日本は平和過ぎた。

 少なくとも、彼女にとっては。

 

 温かい家族。治安の良い通学路。繰り返される学校生活。

 そして、平和ボケした友人たち。


 全部全部、彼女にとっては退屈だった。

 

 平和とはつまり、絶対的な頂点が存在せず、弱者が拮抗し続けている状態と同義だ。

 最強を目指す彼女にとって、この世界は退屈過ぎた。

 

 

 

「お、おい! 君、何を!?」

 

 だから彼女――ゆいには、この世界から離れることを躊躇う理由がなかった。

 死ぬことに抵抗がなかった。

 

 唯はフェンスをよじ登り、新幹線の線路へと着地した。

 フェンスの周囲からは、人々の阿鼻叫喚。

 即座に緊急停止ボタンが押され、緊急停止の合図を受けた運転手が急いで新幹線にブレーキをかける。

 乗客たちは前方の椅子に頭をぶつけながら、異常事態の発生を知る。

 

 もっとも、ブレーキをかけたところで、新幹線はすぐに止まることはできない。

 唯を轢く前に止まることはできない。

 唯に当たる新幹線のライトが徐々に強くなり、唯の影が大きく伸びていく。

 

「人生の最後に、お前との決着をつけようじゃないか!」

 

 阿鼻叫喚渦巻く中、唯だけが笑っていた。

 ばさばさと波打つツインテール。

 これから獲物を仕留めんとする獣ばりの爛々と輝く瞳。

 あがり過ぎた口角は、彼女の表情を不気味に演出した。

 

「ひれ伏せ、人類の英知の結晶よ! 世界最強は、このあたし! この、唯様だ!!」

 

 唯は拳を固く握り、迫ってくる新幹線を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 残ったのは、飛び交う血飛沫と絶叫。

 

 新幹線と正面衝突した唯の体は、バラバラになった。

 

 唯は、十六歳にして命を落とした。

 

 

 

 

 

 

『おもしれぇ』

 

 視覚も。

 聴覚も。

 嗅覚も。

 味覚も。

 触覚も。

 全てを失った唯の意識に、言葉が流れ込んでくる。

 

『お前みたいな戦闘狂を探していた』

 

 流れ込んでくる言葉はどこか弾んでいて。

 

『お前、俺様の世界に来ないか? 世界最強の夢を、見せてやるよ』

 

 唯に、新たな舞台を提案した。

 

「行くわ!!」

 

 唯に、躊躇いはなかった。

 

 唯もまた、流れ込んでくる言葉に負けず劣らず、弾んだ声で答えた。

 

 

 

 

 

 

『せいぜい暴れまわって、このつまんない世界を変えてくれ』

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