川を渡る必要もない
15分小説です。頂いたお題は「七夕」「虹」「炭酸水」
夏の暑さが飽和する
この言葉はとても詩的でいつも心に響いてくる。
涼しい世界の中に沈むのか
暑き光に照らされて、消えゆくのか
いい意味でも、悪い意味でも心に来る。
暗い意味でもない。夏の雲一つない夜空なんかは、
もはや星空で飽和している。
道路に生えている道草はこんなにも淡々と伸びているというのに
光を浴びてもまるで成長している気がしない僕たち人間は
どうすればよいのだろうか。
もう、満ち足りているというのか
追い求めるものがなければ成長することもない
上限を決めてしまっている
これでいいやと諦めてしまっている
それで本当にいいのかどうかを
考えることすら忘れている
ふと、手にした炭酸水を見やる。
急に空から降ってきたペットボトル。
今、蓋をあけたらきっと、何かが耐え切れずあふれ出してくるだろう。
炭酸水を製造する方法を炭酸飽和というらしい。
水もガスも、きっとこれ以上を望んではいない
でも、それでも
もっと先を信じているのかもしれない
信じた結果、僕たちはこの暑さの下で炭酸水を飲んでいる。
夜空の下。満点の星空。浮かぶは大きな大きな天の川。
暑さはもう気にしていない。
川辺に腰掛け空を見る。
川の向こう側にも人影は見える。
どうせ、さっき炭酸水をこちらへ投げつけてきたあいつだろう。
飲みかけのこのペットボトルを投げ返したら、
この川にも虹はかかろうだろうか。
いや、そんなことする必要もない。
今日という日に、虹も橋も必要ない。
言葉もいらない。
何も交わさず、二人空を眺め、炭酸水を飲んでいる。
それでいい。それがいい。
僕たちの夏は飽和している。
川に流るる笹の葉に、思いを託して。