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転移

 うっあったまいたっ 目を開けるとそこは見知らぬ草原だった。まだおぼろげな頭をフルに回転させ考える。


(何があったんだ。ここは一体どこだ? たしか自分の部屋のベッドで寝そべってだらだらしてたとこまではおぼえているんだが。)


(まぁいい、今は現状把握が先だ。起きてしまった事象(こと)に理由があっても、意思や目的はないかもしれない。考えるだけ無駄か。)


徐々に体が動くようになり頭もさえてくる。そこでようやく異常事態に気づく、明らかにおかしい。空間転移か!?自分の知る限りそのような事態が突発的に起こる理由がいくら考えても見当たらない。


まずはいつものように呼び出してみる。頭の中で言葉を紡ぐ


(この状況を説明してくれ)


(どうやら私たちのいた世界ではないようですね。)


(それはなんとなくわかる。もっと具体的にどうしてこんなことが起きてんのかって話だ。)


(先ほどマスターもおっしゃっていたではないですか。頭の中で。そんなことに理由なんてないと)


ちゃかすなよ 思わず口に出して言ってしまう


(少し真面目に言うとこの今の事態、現象自体は人為的に起こすことが可能です。ですが私たちの世界でそのようなことをする存在がいるとは考えられません。)


(そうなんだよな、できたとしてもするはずがないんだよなー、そもそもみんな自分の世界に閉じこもってその世界の主として生きているし、そもそも他者の世界における干渉権なんて補助機構を通じた両者の同意がないとできないし、それにわざわざ他者の世界になんてかかわろうとしないしね。それなら自分の世界の中ですべて事足りるしね。)


(まぁ僕の家が変わってたというか時代遅れというかあれだったのは否めないかもしれないけど)


(そうですね、マスターの家系は少々変わっていましたね、家系というか思想というか集団か)


「勝手に人の頭の中の独り言に話しかけないでくれるかなぁ?」思わず口に出して言ってしまう。


(どれも頭の中での発言ですよ マスター)


(いやいやわかるでしょ それが君に向けてのものかぐらいさ)


(わざとです ちょっとしたかわいげというものです)


(声だけはかわいらしいからなんかむかつくんだよな)


(なんか反応したほうがいいですか?)


(そういうとこかわいくないんだよなー 素直じゃないというか)


(先ほどマスターが独り言は無視してくれといったではありませんか? 今のは明らかに独り言でしたよね。ほんの少し私の方向を向いていましたが 誤差かと思い、ひょっとしてかまってちゃんなんですかぁ?)


(そういうとこもやっぱむかつく)


(真意はわかってますからね ますたぁ )


(こいつに嘘が通じない、心の内がすべて分かられてると思うと無性に恥ずかしくて、でも、そこがほっとして本当に大好きでやなやつだよ)


(どうせ分析は結構すんでるんだろ、おしえてくれ)


(それがマスターはまだ気づかないのですか!?この異常事態に)


(異常事態?)


(この世界で私がどうやって存在していると思います?)


(それはだってあれだろ 世界中どこにでも存在できるし、てっあれ? ここ異世界だよなーどうやっておまえいるんだ?)そこで改めてことの異常性に気付く。


(そう、ここは異世界なんです。私たちの世界と違って私はあらゆるデバイスにアクセスできません。そもそもデバイスそのものがこの世界にはないんですから。)


あたりを見渡してやっと気づく、そこには見慣れない虹色の小さな多面体が、プカプカと浮かんでいた。


(ひょっとして、これか!?)


(指ささないでください!ですがそのそれです……)


(ずいぶん変わったなー)


(一応これでも空間に映像を映し出すことぐらいはできるのでお望みならそうしますが……、人間の認識能力では見分けがつけられない完璧なものです。もちろん触りたくなっても触れることはできないので)


(わかってるよー、でもいまは別にいい)


(人の目を気にされているのでしたらマスター以外には映らないようにもできますが?)


(好きにしろ)そう言いながらもその言葉の裏の意味を感じ取った私はその場に姿を映し出す。


(どうですかぁ? ますたぁ?)


(決してかわいいとか思ってはいけない、ばれてしまうから、気持ちが伝わってしまうから)そう心の中で考える。


(あれ?マスターの心の声がきこえない?)少しきょとんとした感じで不思議そうに首をかしげる。


(何かしましたか?ますたぁ?)


「ちょうどポケットにこれが入ってたんでな。起動させたんだ。」


それはちょうど指でつまめるほどの大きさで少しでこぼことした球体だった。ある場所を指で触れるとその部分が光り装置が起動し空中へと霧散してとけこむ。


(あーそれは・・・)


「そう、これは使用者の心の声や思考そういった内面の情報を一時的に遮断するものだ。正確には拡張モジュールの一つで、本人の意思次第でオンオフできるように機能追加もできるというものだ。」


「さっき起動させてもうシステムに組み込まれたからこれでいつでも使用できる。」


(卑怯ですよ、せめてわたしの姿をみてどういう感情を(いだ)き、何を考えたのか知りたかったです。)


(どうせある程度はわかってるくせに、それにこの効果は一時的なものだ。いずれ解除した時やこの話題を出されたときにどうせすべてわかるんだ。今くらいは別にいいだろ。)


(まぁいいですけど、いぃーーだ)と小さい子が自分の思うようにいかなかったときにする態度のようなあからさまな不機嫌さを示した。


冷たく冷めた態度から一転の反応に思わず少しだけ驚いてしまう。つづけて、別にいいもんとか言いそうな勢いだ。


まあ彼女は単一の人格というわけではなく複合的でもっと自由な存在であるから、そもそも性別も性格も性質も能力も時として変化し、しかしてただ主人たるマスターに忠誠をつくし従う存在だから、まぁ納得はできるが。それにしてもあの反応は意外だった。


まぁ人間も同じようなものか、それに・・・、いやいまはそれよりもだ。


(おまえの状態はある程度理解した。それで・・・ だ。)


(状況確認ですよね。ここに飛ばされてから及ぶ範囲で情報は集めているのですが、今のところ分かっているのは見渡す限り草原で近くに人口建築物や生命反応も探知できないということです。)


(それはおまえの機能が低下しているからか?)


(それもありますね。現状では探知可能範囲も情報量も圧倒的に不足していますから)


(そうだな、早急に機能拡張および()()()()()の構築をすべきか)


(現状できうる限りで機能拡張及びあらゆる変化における適応をしていますが、理想は拠点を作り、そこでまず、私を万全にすることでしょう。)


(それはそうだけど。そんな悠長な、それにまずはこの世界を知らないと、それによってお前や俺の立ち位置、あらゆることの最低限の重要性は変わっていくだろ?)


(私を万全の状態にすることが最善だということには変わりありませんが、そうですね。どの程度かというラインは変わりえるでしょうね。)


(それに多少この異世界というものに興味がある、好奇心がわく)


(新しい娯楽を試す時のような短絡的ですぐ冷めてしまうようなものでしょう?)


(飽きやすく冷めやすいのは俺の性分だ。しかたない。)


目的地もなくしばらく歩いていると急に呼び止められる。


(マスター!近くに生命反応および金属の反響音、どうやら戦闘をしているもようです。)


(距離は?)


(ここから北北東に直線距離にして1kmほどです)


(映像はすぐだせるか?)


(ちょうどその周辺を偵察中なのでだせます。)


目の前に映像が映し出され、それを周辺にある草で作ってもらった椅子に座って観察する


(どうやら人のようだね、年はまだ10代そこらの少女か)


(それにしてもよくあんな華奢な肉体で剣と盾を持ってたたかえているよな、いくらショートソードとはいえさ)


(そうですね、この世界の人間は私たちの知る人間よりも肉体の性能が良いのかもしれませんね)


(であの戦ってる生物あれなにか知ってる?)


(私たちの世界にはいなかったもののようですが)


◆◇◆◇


少女は懸命に戦っていた。だれかに見られているとはつゆ知らず懸命に


彼女が対峙し懸命に剣を振り下ろしているのは、スラリンとよばれる液状の生物で基本的に無害温厚な生き物だ。しかし数が増えると問題となる。それゆえに彼女のような()()()に狩られているというわけだ。


(しっかしあの液状型のモンスターいくら切っても全然効いてないように思えるのだが俺のきのせいか?)


(いえ、マスター 先ほどから10以上の剣撃をうけていますが大した影響はなさそうですね)


スラリンは弱いモンスターとされ初心者冒険者の標的によくされるのだがその実、物理攻撃への耐性をもっており魔力のこもっていない武器などによる攻撃は効果があまりないことが知られている。


少女は焦っていた。


(なんで倒せないのよー!!)いくつもの斬撃をふるい次第に疲れがたまっていく。それに加え攻撃をうけたスラリンは突進もしてくる。


それを左手に持った盾で防ぐがいくつもの突進をうけ、疲労がたまった状態なのが災いしてか、態勢を崩しよろけてしまう。なんとかその場で身を持ち直すがまずい状況なのは変わりない。


比較的簡単なクエストだからとか、スラリンは弱いとギルドの面々は言っていたから、ろくに調べもせず飛び出してしまったとか。


いまさらそんなことを後悔しても仕方がない。今一度目の前の無機質な物体を見据え剣を構える。


ここで仮に倒れてもスラリンに捕食される危険性はないとはいえないが低いだろう。だからといってここであきらめるわけにはいかない。私のプライドがそれを許さない。


最後に振り絞った力で全身全霊をかけて剣を振り下ろす。その剣はさっきの惨状が嘘のように、容易にスラリンの体を切り裂いた。


◆◇◆◇


その様子を見ていた俺は


(えっなにあれ?) さっきまで剣を柔らかく受け止め、ゴムのようにはじいていたあの不思議な生物がいとも簡単に、それに先ほどと比べてありえない切れ味で真っ二つにされた様子を見て唖然とする。


(あれはどういうことだ?明らかにおかしい いくつもの剣撃のダメージが蓄積されてたとか、そういうのでは説明がつかない現象だぞ)


(明らかに切れ味が上がっている。そういう装備なのか?だとしても不自然な点が多すぎる。)


(そうですね。マスター 明らかに切れ味が上がっていると思われます。ですが装備特有のものであるなら、なぜ最初の数回の斬撃のあとにそれを使わなかったのかという不自然さが残ります。)


(最初の攻撃で効果が薄いと気づいたはず。それなのに、あんなに疲れて倒れるまで、愚直に剣をふるっていた。そして最後の一撃だけ格段におかしい。)


(調べてみますか?マスター)


(そうだな。)


(ではあの液状のモンスターを捕獲することを推奨します。承認を)


(承認する)


(では、先ほど少女が戦っていた周辺に同一種と思われるモンスターを確認したので、捕獲します。)


液状のモンスターの近くで空間がゆがみ、モンスターの周囲の空間が切り取られたように、四角い透明な箱のようなもので囲まれる。隔離され捕縛されたそれは箱ごと次第に色を失っていき、虚無へと消えた…。


(捕獲成功しました。これからいろいろ調べていきます。)


・・・・


(どうやらあらゆる物理攻撃に強く、酸も吐くようです。火や熱、電気、冷気といった変化にも比較的強いようです。)


(倒せそうか?)


(まぁあれを使えば確実でしょうが)


(あらゆる物質を消滅させうるあれか?)


(はい、ですがその使用の前にもう少しいろいろ調べてみましょう。でなければもったいないです。)


◆◇◆◇


少女が目を覚ますとあたりはすっかりと日が落ち始めていた。


(あれ?あれからどうなったんだっけ)体に思うように力が入らず、重くだるい。でも帰らなきゃそう思い、近くにあった()()を拾い街への帰路につくのだった。


◆◇◆◇


観察用の画面を空中から消し、椅子も元通りの状態に戻すと再び歩き始める。


しばらく歩いていると声がかかる


(マスター、ようやく倒しました。)


(そうか、で どうやってたおしたんだ?)


(先ほど少女が使っていた武器と同程度のもので何度も切りつけて、やっといまです。)


(異空間でいくら時間を加速させていたとはいえだいぶ時間がかかりました)


(それで分かったことがいくつかあります。まず少女の倒し方と今回私たちの倒し方では決定的に違うということです。幾億の剣撃をもって倒したところその肉体は、水風船が割れるように、はじけ飛びました。)


(そして未知の物質を生成し霧散しました。)


(未知の物質?)


(これです)そういって空中に映像として出されたものは、小さいひし形をした石のようなものだった。


(どうやらこれ自体が未知のエネルギーを持っているらしく、さきほどそのエネルギーを用い、剣で液状のモンスターを切ってみたところ先ほどの少女がやったような現象がおきました。)


(なるほど、それは興味深いな…)


(えぇ、もしかしたらこの未知のエネルギーを利用する技術が発達し、文明を築いているのかもしれませんね。)


(でもそんな技術があるなら、早々に使えばよかったんじゃないか?あの少女は!?)


(なんであの切羽詰まった、あんなギリギリの状態でそれを行ったんだ?そもそも最初の戦っている様子ではとても苦戦し、手の打ちようがないように見受けられたぞ。一体どうゆうことだ?)


(あのモンスターが未知のエネルギー源を保有していたとするともしかしたら、この世界の人間も同様に、この力をその身に宿していても不思議はないのではないですか?マスター?)


(つまりその力が使えるのがこの世界の人間の前提だとするなら、俺の存在はとてもまずい状態ってことだな…)


(そうなるかもしれません。マスター)


(やれやれ、まったくなんて世界にとばされたんだ。俺は)







































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